NOBILES Days
Jump to navigationLotus Blossoms(2) --- Lotus72D
結局今日は風邪で会社を休んだ。熱も一旦37℃を超えた。今は若干下がってきたのだが...明日はどうなるか。
休んで風邪を完全に治したいが、今休むと結局先々自分の仕事の首が絞まる。今日の睡眠で治ってくれないかな。
さて、6日のエントリーから連載開始したプチ「U-N-C-H-I-K-U」こと、「食玩のLotus F-1の6種を勝手に解説」だ。
なんかさぁ、せっかく俺が書いてるのに、今月のRacing OnがLotus特集やってやんの。別にそれを丸写しにしてるんじゃないんだからねっ。いや、買ったけどさ (^_^;。
ともかく、1台目は、1972年のLotus72Dだ。
Lotus72D
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 8.0sec, F22, ISO100)
72というマシンは、1970年にデビューした。その改良型が1972年の72Dということになる。
時代背景を説明しよう。1960年代後半から、レーシングカーには一大転換期が訪れていた。すなわち、空気力学と言えば「空気抵抗の削減」だった時代から、「空気を制御して速く走ること」に利用する時代への変革である。
F-1においては、1968年のベルギーGPに、フェラーリとブラバムがウィングを搭載したのが端緒である。すなわち、飛行機のそれとは上下逆に翼をマシンに取り付ければ、飛行機とは逆に、下に押しつける力が発生する。
これがダウンフォースである。
どれだけマシンの持つ出力が上がっても、コーナーではマシンに遠心力、つまり外側への力が発生する。遠心力に負けずにコーナーを安定して走るためには、タイヤがグリップしなければならない。
グリップ力を上げる簡単な方法は重くすることである。しかし、それでは出力を増やした意味がない。
そこでエアログリップ、つまり空気の流れを利用したダウンフォースを利用しようというわけだ。それならば、マシンの車重はそのままに、グリップ力だけを飛躍的に増やすことができる。
ウィングの効果に気付いた各チームは、競って高く、巨大なウィングを装着した。しかし、強度を顧みないウィングの乱立で事故が多発し、急遽高さや大きさの規定ができた。
しかし、エアログリップの媚薬を知ったエンジニア達の探求は止まらなかった。とりわけ、Lotus25でモノコック構造を、同49ではエンジンのストレスメンバー化（DFVという、後世までF-1エンジンのスタンダードとなる、フォード資本でコスワースと共に開発した偉大なエンジンだ）など、エポックメイキングを繰り出してきたLotusのコーリン・チャップマンは、ウィング以外でのエアログリップ獲得ができないか熱心に模索した。
そうして生まれたのが「ウェッジシェイプ」Lotus72である。
72はボディ上面が平らに整形され、横から見ると、くさび＝ウェッジ状になっていた。つまり、鋭く低い最前端から、緩やかに後方に向かって高くなっていく巨大な面が形成されていた。
これにより、車体全体で空気を跳ねあげることになるので、全体にダウンフォースが発生するという仕組みだ。
この時代はまだ円筒状の葉巻ボディが当然の時代だ。フェラーリなどは、モノコック構造すら採っていなかった。
そして、最も乱れのない空気流があるマシン前端にはエンジンを冷却するラジエターが置かれていた。それは、F-1マシンにとってエンジンが一番大切なファクターであったことの証明だ。
しかしこのLotus72では、ウェッジシェイプボディを徹底するため、ラジエターはマシンの横の箱＝サイドポンツーンに移され、フロントは鋭く低いノーズコーンになった。これは、F-1マシンにとって性能の最大のファクターが、エンジンから空力に移った象徴的な出来事だった。
Lotus72D Sideview
ウェッジシェイプが良く分かるサイドビューだ
(PentaxK-7, PentaxDA16-45mmF4(45.0mm), 15.0sec, F10.0, ISO100)
だからデビューした'70年当時、72は他のマシンとは完全に一線を画するスタイルだった。
このマシンを与えられたのは、オーストリア人のヨッヘン・リントだ。若い頃からその輝く才能を注目され、Lotusで'63年と'65年のチャンピオンである伝説的なドライバー、ジム・クラークの再来とも言われた。しかしながら、荒削りで'69年まで1勝どまりと、なかなか安定した成績を残せていなかった。
しかし、72を得たリントは、1970年シーズンを圧倒的な強さで席巻する。ウェッジシェイプによるエアログリップとリントのドライビングが見事にマッチしたのだろう。怒涛の4連勝を含む5勝を挙げた。まさに、2011年のフェッテルのごとき活躍であった。
ところが、全13戦のシーズンも佳境となった第10戦のイタリアGPの予選でリントは72で大クラッシュを喫する。壮絶なクラッシュで、ほぼ即死だった。
残り3戦、リント不在のままグランプリが開催されたが、圧倒的マージンを築いていたリントのポイントを逆転する者は現れなかった。 こうしてリントは、60年を超えるF-1の歴史の中で唯一、死後にチャンピオンとなった悲劇のヒーローとなってしまった。
この事故は72のブレーキ構造にあると言われている。
72は、バネ下重量を減らすため、現代でも一般的なアウトボードブレーキ（タイヤの内側にブレーキがある構造）ではなく、トルクロッドを介して車体側にブレーキを置く、インボードブレーキ方式を採っていた。このトルクロッドが折れ、ブレーキが全く効かなくなったものと見られている。
速いが極限を攻めた設計だけに危険とも隣り合わせというのが、LotusF-1のマシンだった。
おっとっと。主題は72ではなく、改良型の72Dの方だったね。
リントの悲劇的な事故により、チームメートのジョン・マイルスも即時引退を表明してしまった。結果、Lotusは新人で第3ドライバーだったエマーソン・フィッティパルディをエースとして据えざるを得なかった。ところが、そのフィッティパルディは2戦後のアメリカGPで初優勝してポイントを稼ぎ、リントのタイトルのアシストにもなった。こうしてリント亡き後も、才能あるドライバーによって72というマシンは、インボートブレーキという欠陥に近い構造を抱えながらも輝き続けることになる。
'71年こそTyrellのジャッキー・スチュワートの前に未勝利に終わったが、72の熟成が進んで72Dとなった'72年は＊＊戦中5勝でそのジャッキーをも圧倒して25歳＊＊＊日という当時史上最年少チャンピオンに輝いた。
ところで、Lotusは1968年に、F-1界で初めてコマーシャルスポンサーを持ち込んだ。
それまで所在国のナショナルカラーに塗る慣習に沿ってブリテッシュグリーンに塗られていたLotusのマシンは、ゴールドリーフタバコの金色と朱色に塗り分けられた。
これにより多額の資金を得て、さらに新技術の開発に注げるというわけである。こうした面でもLotusは革命的なチームだった。
この'72年からは、ゴールドリーフに替えて、ジョン・プレイヤーズ・スペシャル（JPS）がスポンサーとなった。
これによりLotusのマシンのカラーリングは漆黒にゴールドのラインが走る精悍なものに変わった。以降、途中他のメインスポンサーがついて変わったこともあったが、10数年にわたり、Lotusと言えばこのJPSカラーというくらい象徴的なものになった。
さて72であるが、後世から眺めると、本当にウェッジシェイプが狙いどおりのダウンフォースを得られていたのか甚だ疑わしい。それより、重量物であるラジエターをマシン重心近くに置いたことによる運動性の向上と、空気の流れが整えられたことによるウィングの効果の向上によって高い性能を発揮したと見るべきだろう。
マシン全体でダウンフォースを得るという理想を実現するのは、1977年のタイプ78を待たなくてはならない。
つづく。
休んで風邪を完全に治したいが、今休むと結局先々自分の仕事の首が絞まる。今日の睡眠で治ってくれないかな。
さて、6日のエントリーから連載開始したプチ「U-N-C-H-I-K-U」こと、「食玩のLotus F-1の6種を勝手に解説」だ。
なんかさぁ、せっかく俺が書いてるのに、今月のRacing OnがLotus特集やってやんの。別にそれを丸写しにしてるんじゃないんだからねっ。いや、買ったけどさ (^_^;。
ともかく、1台目は、1972年のLotus72Dだ。
Lotus72D
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 8.0sec, F22, ISO100)
72というマシンは、1970年にデビューした。その改良型が1972年の72Dということになる。
時代背景を説明しよう。1960年代後半から、レーシングカーには一大転換期が訪れていた。すなわち、空気力学と言えば「空気抵抗の削減」だった時代から、「空気を制御して速く走ること」に利用する時代への変革である。
F-1においては、1968年のベルギーGPに、フェラーリとブラバムがウィングを搭載したのが端緒である。すなわち、飛行機のそれとは上下逆に翼をマシンに取り付ければ、飛行機とは逆に、下に押しつける力が発生する。
これがダウンフォースである。
どれだけマシンの持つ出力が上がっても、コーナーではマシンに遠心力、つまり外側への力が発生する。遠心力に負けずにコーナーを安定して走るためには、タイヤがグリップしなければならない。
グリップ力を上げる簡単な方法は重くすることである。しかし、それでは出力を増やした意味がない。
そこでエアログリップ、つまり空気の流れを利用したダウンフォースを利用しようというわけだ。それならば、マシンの車重はそのままに、グリップ力だけを飛躍的に増やすことができる。
ウィングの効果に気付いた各チームは、競って高く、巨大なウィングを装着した。しかし、強度を顧みないウィングの乱立で事故が多発し、急遽高さや大きさの規定ができた。
しかし、エアログリップの媚薬を知ったエンジニア達の探求は止まらなかった。とりわけ、Lotus25でモノコック構造を、同49ではエンジンのストレスメンバー化（DFVという、後世までF-1エンジンのスタンダードとなる、フォード資本でコスワースと共に開発した偉大なエンジンだ）など、エポックメイキングを繰り出してきたLotusのコーリン・チャップマンは、ウィング以外でのエアログリップ獲得ができないか熱心に模索した。
そうして生まれたのが「ウェッジシェイプ」Lotus72である。
72はボディ上面が平らに整形され、横から見ると、くさび＝ウェッジ状になっていた。つまり、鋭く低い最前端から、緩やかに後方に向かって高くなっていく巨大な面が形成されていた。
これにより、車体全体で空気を跳ねあげることになるので、全体にダウンフォースが発生するという仕組みだ。
この時代はまだ円筒状の葉巻ボディが当然の時代だ。フェラーリなどは、モノコック構造すら採っていなかった。
そして、最も乱れのない空気流があるマシン前端にはエンジンを冷却するラジエターが置かれていた。それは、F-1マシンにとってエンジンが一番大切なファクターであったことの証明だ。
しかしこのLotus72では、ウェッジシェイプボディを徹底するため、ラジエターはマシンの横の箱＝サイドポンツーンに移され、フロントは鋭く低いノーズコーンになった。これは、F-1マシンにとって性能の最大のファクターが、エンジンから空力に移った象徴的な出来事だった。
Lotus72D Sideview
ウェッジシェイプが良く分かるサイドビューだ
(PentaxK-7, PentaxDA16-45mmF4(45.0mm), 15.0sec, F10.0, ISO100)
だからデビューした'70年当時、72は他のマシンとは完全に一線を画するスタイルだった。
このマシンを与えられたのは、オーストリア人のヨッヘン・リントだ。若い頃からその輝く才能を注目され、Lotusで'63年と'65年のチャンピオンである伝説的なドライバー、ジム・クラークの再来とも言われた。しかしながら、荒削りで'69年まで1勝どまりと、なかなか安定した成績を残せていなかった。
しかし、72を得たリントは、1970年シーズンを圧倒的な強さで席巻する。ウェッジシェイプによるエアログリップとリントのドライビングが見事にマッチしたのだろう。怒涛の4連勝を含む5勝を挙げた。まさに、2011年のフェッテルのごとき活躍であった。
ところが、全13戦のシーズンも佳境となった第10戦のイタリアGPの予選でリントは72で大クラッシュを喫する。壮絶なクラッシュで、ほぼ即死だった。
残り3戦、リント不在のままグランプリが開催されたが、圧倒的マージンを築いていたリントのポイントを逆転する者は現れなかった。 こうしてリントは、60年を超えるF-1の歴史の中で唯一、死後にチャンピオンとなった悲劇のヒーローとなってしまった。
この事故は72のブレーキ構造にあると言われている。
72は、バネ下重量を減らすため、現代でも一般的なアウトボードブレーキ（タイヤの内側にブレーキがある構造）ではなく、トルクロッドを介して車体側にブレーキを置く、インボードブレーキ方式を採っていた。このトルクロッドが折れ、ブレーキが全く効かなくなったものと見られている。
速いが極限を攻めた設計だけに危険とも隣り合わせというのが、LotusF-1のマシンだった。
おっとっと。主題は72ではなく、改良型の72Dの方だったね。
リントの悲劇的な事故により、チームメートのジョン・マイルスも即時引退を表明してしまった。結果、Lotusは新人で第3ドライバーだったエマーソン・フィッティパルディをエースとして据えざるを得なかった。ところが、そのフィッティパルディは2戦後のアメリカGPで初優勝してポイントを稼ぎ、リントのタイトルのアシストにもなった。こうしてリント亡き後も、才能あるドライバーによって72というマシンは、インボートブレーキという欠陥に近い構造を抱えながらも輝き続けることになる。
'71年こそTyrellのジャッキー・スチュワートの前に未勝利に終わったが、72の熟成が進んで72Dとなった'72年は＊＊戦中5勝でそのジャッキーをも圧倒して25歳＊＊＊日という当時史上最年少チャンピオンに輝いた。
ところで、Lotusは1968年に、F-1界で初めてコマーシャルスポンサーを持ち込んだ。
それまで所在国のナショナルカラーに塗る慣習に沿ってブリテッシュグリーンに塗られていたLotusのマシンは、ゴールドリーフタバコの金色と朱色に塗り分けられた。
これにより多額の資金を得て、さらに新技術の開発に注げるというわけである。こうした面でもLotusは革命的なチームだった。
この'72年からは、ゴールドリーフに替えて、ジョン・プレイヤーズ・スペシャル（JPS）がスポンサーとなった。
これによりLotusのマシンのカラーリングは漆黒にゴールドのラインが走る精悍なものに変わった。以降、途中他のメインスポンサーがついて変わったこともあったが、10数年にわたり、Lotusと言えばこのJPSカラーというくらい象徴的なものになった。
さて72であるが、後世から眺めると、本当にウェッジシェイプが狙いどおりのダウンフォースを得られていたのか甚だ疑わしい。それより、重量物であるラジエターをマシン重心近くに置いたことによる運動性の向上と、空気の流れが整えられたことによるウィングの効果の向上によって高い性能を発揮したと見るべきだろう。
マシン全体でダウンフォースを得るという理想を実現するのは、1977年のタイプ78を待たなくてはならない。
つづく。
nobilesの投稿(22:01:22-2012-01-16) -
カテゴリ: Formula-One
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