NOBILES Days
Jump to navigationHero Who Never Appear In The Future vol.1
普段俺は映画を見ない。長時間傍観者でいることが我慢ならないらしい。
でも、そんな俺が珍しく、正味2時間の長編映画を観に行った。わざわざ会社帰りに遠回りまでして、だ。
アイルトン・セナの映画だ。
Ayrton Senna
21年前、当時まだ鉄ちゃんから抜けきれなかった俺が、完全にF-1に堕ちた、まさにその原因たる男だ。
いや実は、限定とやらのポスター目当てで前売り券まで買ったくせに、生来の映画嫌いが首をもたげたか、とっくに公開されたのに1ヶ月近く放置していたのだ。
しかし、比較的俺の生活圏に近い映画館での上演が終わってしまうと気づいた。終わる2日前にだ。それで慌てて最終上映に駆け込んだというわけだ。
この映画は、ドキュメンタリーだ。
いや、それでいい。多分彼の映画をノンフィクションで撮ってもなんの意味もない。なぜなら、彼はどんなノンフィクションよりドラマチックで、純粋で、速くて、感動的で、そしてエゴイストで、自己中心的で、ズルかった。
映画は、弱冠二十歳にも満たないセナが、カートの世界選手権に出場した際の映像から始まり、F-1にデビューしてからの戦いぶりを、割と淡々と追って行く。
それなのに、とてもドラマチックだ。いかに彼のレースがセンセーショナルだったかということだ。良くも悪くもこんな衝撃的なドライバーはやはり現代F-1には存在しない。
映画も中盤になって、映像は1989年の日本GPのものとなる。
そうこれが、俺が堕ちたレースだ。
一応1987年の初鈴鹿からF-1は興味の対象で、プラモデルも買っていたほどだったが、常人離れした執着をもってF-1を見始めたのはこのレースが境だ。
チャンピオンシップで劣勢に立たされ、優勝しかない2位のセナが仕掛けた47周目のシケイン（映画では46周目となっていたが、違う。俺が忘れる訳がない）。故意にぶつけたようにも見えるトップのプロストがとったブロックにより、2台は絡んで止まった。
プロストはマシンを降りた。しかしよりダメージが大きかったセナは必死にマーシャルにマシンを押すよう要求した。押しがけにより再び動いたマシンをエスケープロードからコースに戻したセナ。しかしそのフロントウィングは傾き、やがて外れてしまう。
長い長い一周を終えてピットでウィングを交換している間に、ベネトンのナニーニに先行され、優勝は絶望的に思われた。しかし鬼神の勢いでコースに戻ったセナは爆発的な速さでナニーニを追い詰め、あっという間に、しかもプロストと絡んだあのシケインで再び抜き去った。
衝撃的だった。
まざまざと蘇る21年前の記憶。そうだ、この感覚だ。
トップでゴールし、バイザーを上げ、涙を流しながらガッツポーズを繰り返すセナ。そして長いレースで汚れながらも、輝きを失わなかった紅白のマクラーレン・ホンダのマシン。そしてブラジル国旗をあしらった黄色いヘルメット。
その激しい戦いを反映したかのようなおどろおどろしい曇天の下でゆっくりとウィニングランを行うセナに熱狂的な声援を送る鈴鹿のファン。まるで英雄の凱旋のようだ。
全てが美しく、神々しかった。いったいなんなんだ、このスポーツは。若き俺は完全にノックアウトされた。
完全に当時の俺の目線にトリップして続けよう。
ゴールからしばらくして、俺はさらに衝撃を突きつけられることになる。
あれだけドラマチックなトップゴールを果たしたセナが失格になったというのだ。えええええ？？？？なんで？？？？
多分当時の俺は分かってなかったと思うが、その理由は、彼がコースに復帰する際にエスケープロードから戻り、シケインを通過しなかったからだった。
だがその裁定には、宿敵プロストと同郷にして統括団体FIAの会長であったジャン=マリー・バレストルの意向が働いていたのは明らかだった。後から知ったことには。
俺にとっては完全に何がなんだか分からない混乱のままに中継が終わった。だがそれすらも俺にとっては逆に、予想を超えるドラマに感じられたのだろう。どういうことか知りたい！...だから俺は翌日から、狂ったようにF-1の雑誌やら本やらを買い漁った。
そう、かようにして、F-1とは単なる世界最速のレースではない。世界一政治的な汚さを帯びた泥仕合でもあるのだ。
セナは誰よりも純粋にカーレーシングを愛しながら、しかしF-1で頂点に立つために、その汚い泥仕合にも身を沈めて行ったのだ。決して聖人でもなんでもない。誰よりも勝利を渇望し、そのためにはなんでもやったし、だからこそ数々のドラマを作った。
それがセナの伝説の本質だと思う。
つづく。
でも、そんな俺が珍しく、正味2時間の長編映画を観に行った。わざわざ会社帰りに遠回りまでして、だ。
アイルトン・セナの映画だ。
Ayrton Senna
21年前、当時まだ鉄ちゃんから抜けきれなかった俺が、完全にF-1に堕ちた、まさにその原因たる男だ。
いや実は、限定とやらのポスター目当てで前売り券まで買ったくせに、生来の映画嫌いが首をもたげたか、とっくに公開されたのに1ヶ月近く放置していたのだ。
しかし、比較的俺の生活圏に近い映画館での上演が終わってしまうと気づいた。終わる2日前にだ。それで慌てて最終上映に駆け込んだというわけだ。
この映画は、ドキュメンタリーだ。
いや、それでいい。多分彼の映画をノンフィクションで撮ってもなんの意味もない。なぜなら、彼はどんなノンフィクションよりドラマチックで、純粋で、速くて、感動的で、そしてエゴイストで、自己中心的で、ズルかった。
映画は、弱冠二十歳にも満たないセナが、カートの世界選手権に出場した際の映像から始まり、F-1にデビューしてからの戦いぶりを、割と淡々と追って行く。
それなのに、とてもドラマチックだ。いかに彼のレースがセンセーショナルだったかということだ。良くも悪くもこんな衝撃的なドライバーはやはり現代F-1には存在しない。
映画も中盤になって、映像は1989年の日本GPのものとなる。
そうこれが、俺が堕ちたレースだ。
一応1987年の初鈴鹿からF-1は興味の対象で、プラモデルも買っていたほどだったが、常人離れした執着をもってF-1を見始めたのはこのレースが境だ。
チャンピオンシップで劣勢に立たされ、優勝しかない2位のセナが仕掛けた47周目のシケイン（映画では46周目となっていたが、違う。俺が忘れる訳がない）。故意にぶつけたようにも見えるトップのプロストがとったブロックにより、2台は絡んで止まった。
プロストはマシンを降りた。しかしよりダメージが大きかったセナは必死にマーシャルにマシンを押すよう要求した。押しがけにより再び動いたマシンをエスケープロードからコースに戻したセナ。しかしそのフロントウィングは傾き、やがて外れてしまう。
長い長い一周を終えてピットでウィングを交換している間に、ベネトンのナニーニに先行され、優勝は絶望的に思われた。しかし鬼神の勢いでコースに戻ったセナは爆発的な速さでナニーニを追い詰め、あっという間に、しかもプロストと絡んだあのシケインで再び抜き去った。
衝撃的だった。
まざまざと蘇る21年前の記憶。そうだ、この感覚だ。
トップでゴールし、バイザーを上げ、涙を流しながらガッツポーズを繰り返すセナ。そして長いレースで汚れながらも、輝きを失わなかった紅白のマクラーレン・ホンダのマシン。そしてブラジル国旗をあしらった黄色いヘルメット。
その激しい戦いを反映したかのようなおどろおどろしい曇天の下でゆっくりとウィニングランを行うセナに熱狂的な声援を送る鈴鹿のファン。まるで英雄の凱旋のようだ。
全てが美しく、神々しかった。いったいなんなんだ、このスポーツは。若き俺は完全にノックアウトされた。
完全に当時の俺の目線にトリップして続けよう。
ゴールからしばらくして、俺はさらに衝撃を突きつけられることになる。
あれだけドラマチックなトップゴールを果たしたセナが失格になったというのだ。えええええ？？？？なんで？？？？
多分当時の俺は分かってなかったと思うが、その理由は、彼がコースに復帰する際にエスケープロードから戻り、シケインを通過しなかったからだった。
だがその裁定には、宿敵プロストと同郷にして統括団体FIAの会長であったジャン=マリー・バレストルの意向が働いていたのは明らかだった。後から知ったことには。
俺にとっては完全に何がなんだか分からない混乱のままに中継が終わった。だがそれすらも俺にとっては逆に、予想を超えるドラマに感じられたのだろう。どういうことか知りたい！...だから俺は翌日から、狂ったようにF-1の雑誌やら本やらを買い漁った。
そう、かようにして、F-1とは単なる世界最速のレースではない。世界一政治的な汚さを帯びた泥仕合でもあるのだ。
セナは誰よりも純粋にカーレーシングを愛しながら、しかしF-1で頂点に立つために、その汚い泥仕合にも身を沈めて行ったのだ。決して聖人でもなんでもない。誰よりも勝利を渇望し、そのためにはなんでもやったし、だからこそ数々のドラマを作った。
それがセナの伝説の本質だと思う。
つづく。
nobilesの投稿(22:54:51-2010-11-06) -
カテゴリ: Formula-One
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