NOBILES Days
Jump to navigationHero Who Never Appear In The Future vol.3
移転前の職場付近が、APEC開催とかで大変なことになってるらしい。なんか、それはそれでどんなだったのか体験してみたかった気もする (^_^;。
あの会議場は、できたばかりの頃、中学時代に一応生徒会長とやらをやっていた関係で、ナントカ中学生会議とやらで行ったことがある。懐かしいな。
さて、セナの映画...というよりむしろ、それを肴に自分勝手にセナの思い出を語るコーナーもそろそろ終わりにしておこう (^_^;。
Ayrton Senna with Williams-Renault FW16 in 1994 San Marino GP
1994年、プロストの引退により、当時最強を誇ったウィリアムズ・ルノーに念願の移籍を果たしたセナ。それは、「勝って当たり前」という凄まじいプレッシャーの中での戦いだったろう。
そんな彼の相棒となるマシンは、今やレッドブルの最強マシンを作り上げたことで知られる天才エイドリアン・ニューウィーによるウィリアムズFW16だ。
この年から禁止された、彼らの大きなアドバンテージの一つであったアクティブサスの穴を埋めるべく、エキセントリックなまでに攻めの姿勢で設計されたこのマシンは、至るところにエポックメイキングが散りばめられていた。
例えば、巨大なディフューザーに沿うように大きく「へ」の字に湾曲したリヤのビームウィングは当時異彩を放っていたし、リヤサスのアッパーアームとドライブシャフトをほぼ同じ高さとしてウィング状のカバーで覆ったのも徹底した空力コンシャスへの覚悟の表れだ。
当然モノコックもレギュレーションをギリギリ満たす細さにまで絞られ、かつ空力を追い詰めた、凄みさえ感じるデザインであったと言える。
しかし、そんな自他ともに認める絶対本命との評判、そして神々しささえ感じられたFW16はしかし、突き詰めたデザインゆえ、安定性を欠くマシンとなってしまった。
映画でも、冴えない表情で思い悩むセナの姿が描かれる。とことんまで削られたコクピットスペースも、比較的余裕をもって作られていたマクラーレンのマシンに慣れていたセナにとっては、なかなか馴染むものではなかったようだ。
そして不安は的中し、開幕2戦でセナは、なんとか予選ではポールを獲得しながら、あえなくリタイヤを喫し、新進気鋭のシューマッハに連勝を許してしまうのであった。
順風満帆だったはずの1994年のセナの歯車はどこかおかしな方向にずれ始めていた。
...そしてそれは急激に、絶望的な方向に。
そう。映画の結末はもちろん、あの週末だ。
1994年4月29日〜5月1日。
第3戦サンマリノGP。
その週末は、平穏に始まった。
そのちょうど5年前のこのサーキットでの一件で勃発した泥仕合の相手、宿敵プロストがウィリアムズのピットに招かれ、フリー走行中のセナと無線で会話をしたのだ。
その際、セナはこんなことをプロストに言った。
「やあアラン、君がいなくて寂しいよ」
プロストを倒すために、汚い政治闘争にも身を沈めたセナにとって、だからこそその相手がいなくなるのは大きな喪失感で、その言葉は大いに本音であっただろう。そして、プロスト、マンセル、ピケが去った中、F-1界を一人背負わなければならない大きなプレッシャーの反映でもあったろう。
同じ目標を追い合った相手どおし、二人だけの特別な絆が築かれていく予感さえ感じさせるシーンだった。
しかし、その初日のフリー走行で大きな事故が起きる。デビュー2年目にして、弱冠21歳にしてセナと同郷であるバリッケロが最終シケイン、バリアンテ・バッサで、マシンが高速で横転する危険なクラッシュをしたのだ。
幸いバリッケロはごく軽傷で済んだ。しかし、狂った歯車はますますグランプリを飲み込もうとしていた。
翌日の予選、新チームであるシムテック（今はヴァージンレーシングのマシンを手がける、ニック・ワースによるチームだ）の新人、ローランド・ラッツェンバーガーは、フロントウィングにトラブルを抱え、高速のヴィルヌーブコーナーに320km/hでクラッシュした。
ドライバーの腰が見えるほどカーボンファイバーモノコックが破損した事故で、ラッツェンバーガーは絶命した。
...1982年のカナダGPのリカルド・パレッティ以来のF-1レース中の死亡事故（実際には1986年、ポールリカールでのテスト中に、エリオ・デ・アンジェリスも亡くなっているが）に、サーキットが凍りついた。セナも事故現場に行き、だいぶ混乱した様子だったという。
一時は出走すら危ぶまれたセナだったが、翌日、他の（ラッツェンバーガーを除く）24人のドライバーとともに出走を果たすのであった。かつてないほど思い詰めた物憂げな表情ととともに。
過去の2戦同様、セナがポールを獲得した一方、またしても2番グリッドにはベネトンのシューマッハがつけていた。このレースも二人のマッチレースになることは容易に想像された。
ずれた歯車が狂おしく音を立てるような異常な雰囲気の中で、スタートが切られる。セナもシューマッハも順当にスタートを切る中、このレースが怪我からの復帰戦であった、シューマッハのチームメートのJJ.レート（5番グリッドだったっけ？）がエンジンストールし、立ち往生した。そこに、後続車が殺到する。そして、ロータス・無限ホンダのペドロ・ラミーが避けきれずにレートのベネトンに突っ込んだ。
両車が大破する大クラッシュ。幸い、2人に怪我はなかったが、外れたタイヤが観客席に飛び込み負傷者が出た。
当然、レースはセーフティカーランとなった。
またしても起きた大きな事故。そして、まるで嵐の前の静けさのようなスロー走行。ますますずれた歯車のガラガラという音が大きくなるような、そんな感覚がサーキットを、そしてテレビ観戦している俺さえをも包んでいくような、異常な雰囲気を覚えている。
運命の再スタートは6周目だ。
セナとシューマッハは猛然とダッシュし、一気に3位のベルガーとの差を開いていく。コントロールラインを通過し、7周目に突入する。第1コーナーにあたるタンブレッロに全開で突入していく2台をテレビは映していた。タンブレッロの先のカメラに切り替わる。
次の瞬間。
タンブレッロの先の芝生の上で、マシンの右サイドを潰したウィリアムズFW16が何度も何度も、狂ったロデオのように跳ねながら回転していた。その中で、セナの鮮やかな黄色いヘルメットが揺さぶられていた。
ようやく止まったFW16を大写しにするヘリコプターのカメラ。そのマシンの中で、わずかにセナのヘルメットが動いた。
まさか...。
いや、実はこの日のF-1放送は、放送開始の時点で異例の放送だった。つまり、現在のCS放送のように生放送ではなかったので、放送開始の時点で既に実際のレースは終了しており、ピット前でフジテレビの三宅アナウンサーと解説の今宮氏の2人が並んだ状態で放送が開始された（たしか川井リポーターはこの時点ではいなかったはずだ）。そして、セナがクラッシュし病院に搬送されたことが既に伝えられていた。
だから、クラッシュがあったことは分かっていた。それでも、あまりに衝撃的なクラッシュの映像に、俺は言葉を失った。
前日までならば、不安などなかっただろう。12年もの間、そして、俺がF-1を見始めてから一度も、死亡事故がなかったからだ。それほど、F-1は安全なスポーツになっていたし、逆に、そこにFIAもファンも甘えていたのだろう。しかし、前日のラッツェンバーガーの事故があった。再開されたレースを眺めながら、そして、早くセナが無事だったというニュースが入らないかと期待しながらも俺は、背中の上部に寒気のようなものを感じていた。
ふと、テレビにニュース速報が入った。まさかそれが、F-1関連のものとは思わなかった。
流れたテロップが伝えたのは、セナの死だった。
5/1。まだその頃は寒くて、家にはまだこたつが出ていたのを記憶している。頭が真っ白になった俺は、そのこたつ布団を何度か拳で叩いた。
画面が切り替わる。再び、ピット前の三宅アナと今宮氏の映像だ（この時点で川井リポーターが加わっていたかどうか記憶が定かでない。いずれにしても、遅くとも途中から加わっている）。
涙を流しながら、セナの死を伝える三宅アナ。そして、いつも冷静沈着に解説をする今宮氏が、声を震わせてコメントをしている。鋭く放つ言葉が持ち味の川井氏が、ものすごく優しい声で「セナが与えてくれたものの大きさに感謝するとともに、安らかに眠ってほしい」と、遠くを...タンブレッロを見やるかのように穏やかに話した。
世界公開であるこのセナの映画の中で、それまでのレースを伝えるビデオに登場するのは、概ねブラジルやイタリアあたりの放送局とおぼしきレポーターがほとんどだった。しかし、セナの死を伝えたシーンとして選ばれたのは、実はこのフジテレビの映像だった。きっと、セナの死を伝えるのに、もっとも人々の気持ちを代弁したものだったということだろう。
この日のF-1中継は、先の3人によるコメントや、急造したと思われる「セナの軌跡」的な特集の放送で終了し、翌日の夜中に改めてレース全編が放映された。
日本のF-1バブルの象徴の大きな一角であったセナの死によって、日本ではF-1離れが加速した。
だが、俺はF-1を見続けた。辛かったが、翌日のレースの全編放送もちゃんと観た。
それは逆に、セナのセンセーションがあまりに大きかったからだ。きっと、またあの超新星のような輝きを放ったドライバーが出てくるに違いない、と。セナが同じく夭折した伝説的ドライバー、ジム・クラークの再来と呼ばれたように。
あれから16年経って、未だにそんなドライバーは現れない（シューマッハは？と聞く人は多いが、残念ながらその対象ではない）。あの、血がぎらぎらとたぎるような興奮を味あわせてくれるようなドライバーは。クラークの死からセナのデビューまでがちょうど16年だった。やっぱり、あの興奮は二度と戻らないのだろうか？
そして、俺はもう間もなく、セナが亡くなった年齢に到達しようとしている。
そんなタイミングで観たこの映画は、俺にいろいろなものを思い起こさせ、刻み込ませることになった。
実に強烈な印象だったその映画はこう締めくくられる。
どの年のどのレースか判別できなかったが（おそらく1991年だろうと思うが）、マクラーレン時代のセナが記者会見でこういう質問を受ける。
「これまでで一番満足感を味わったレースはなんですか？」
記者としては、「プロストを打ち負かしたレース」を期待していたのだろう。
しかし、セナは少し考えてこう切り出した。
「1978年か、79年か。カートのレースだ。チームメートの経験豊かなドライバー。彼はスムースで無駄がなくて速かった。努力して、技術を盗んで、彼を打ち負かしたレースだね。汚い政治も、金も絡まない、純粋に速さを競ったレースだった」。
嬉しそうに、穏やかに語るセナ。
純粋なレーシング。これこそがセナを形成する本質だったのだ。
あの会議場は、できたばかりの頃、中学時代に一応生徒会長とやらをやっていた関係で、ナントカ中学生会議とやらで行ったことがある。懐かしいな。
さて、セナの映画...というよりむしろ、それを肴に自分勝手にセナの思い出を語るコーナーもそろそろ終わりにしておこう (^_^;。
Ayrton Senna with Williams-Renault FW16 in 1994 San Marino GP
1994年、プロストの引退により、当時最強を誇ったウィリアムズ・ルノーに念願の移籍を果たしたセナ。それは、「勝って当たり前」という凄まじいプレッシャーの中での戦いだったろう。
そんな彼の相棒となるマシンは、今やレッドブルの最強マシンを作り上げたことで知られる天才エイドリアン・ニューウィーによるウィリアムズFW16だ。
この年から禁止された、彼らの大きなアドバンテージの一つであったアクティブサスの穴を埋めるべく、エキセントリックなまでに攻めの姿勢で設計されたこのマシンは、至るところにエポックメイキングが散りばめられていた。
例えば、巨大なディフューザーに沿うように大きく「へ」の字に湾曲したリヤのビームウィングは当時異彩を放っていたし、リヤサスのアッパーアームとドライブシャフトをほぼ同じ高さとしてウィング状のカバーで覆ったのも徹底した空力コンシャスへの覚悟の表れだ。
当然モノコックもレギュレーションをギリギリ満たす細さにまで絞られ、かつ空力を追い詰めた、凄みさえ感じるデザインであったと言える。
しかし、そんな自他ともに認める絶対本命との評判、そして神々しささえ感じられたFW16はしかし、突き詰めたデザインゆえ、安定性を欠くマシンとなってしまった。
映画でも、冴えない表情で思い悩むセナの姿が描かれる。とことんまで削られたコクピットスペースも、比較的余裕をもって作られていたマクラーレンのマシンに慣れていたセナにとっては、なかなか馴染むものではなかったようだ。
そして不安は的中し、開幕2戦でセナは、なんとか予選ではポールを獲得しながら、あえなくリタイヤを喫し、新進気鋭のシューマッハに連勝を許してしまうのであった。
順風満帆だったはずの1994年のセナの歯車はどこかおかしな方向にずれ始めていた。
...そしてそれは急激に、絶望的な方向に。
そう。映画の結末はもちろん、あの週末だ。
1994年4月29日〜5月1日。
第3戦サンマリノGP。
その週末は、平穏に始まった。
そのちょうど5年前のこのサーキットでの一件で勃発した泥仕合の相手、宿敵プロストがウィリアムズのピットに招かれ、フリー走行中のセナと無線で会話をしたのだ。
その際、セナはこんなことをプロストに言った。
「やあアラン、君がいなくて寂しいよ」
プロストを倒すために、汚い政治闘争にも身を沈めたセナにとって、だからこそその相手がいなくなるのは大きな喪失感で、その言葉は大いに本音であっただろう。そして、プロスト、マンセル、ピケが去った中、F-1界を一人背負わなければならない大きなプレッシャーの反映でもあったろう。
同じ目標を追い合った相手どおし、二人だけの特別な絆が築かれていく予感さえ感じさせるシーンだった。
しかし、その初日のフリー走行で大きな事故が起きる。デビュー2年目にして、弱冠21歳にしてセナと同郷であるバリッケロが最終シケイン、バリアンテ・バッサで、マシンが高速で横転する危険なクラッシュをしたのだ。
幸いバリッケロはごく軽傷で済んだ。しかし、狂った歯車はますますグランプリを飲み込もうとしていた。
翌日の予選、新チームであるシムテック（今はヴァージンレーシングのマシンを手がける、ニック・ワースによるチームだ）の新人、ローランド・ラッツェンバーガーは、フロントウィングにトラブルを抱え、高速のヴィルヌーブコーナーに320km/hでクラッシュした。
ドライバーの腰が見えるほどカーボンファイバーモノコックが破損した事故で、ラッツェンバーガーは絶命した。
...1982年のカナダGPのリカルド・パレッティ以来のF-1レース中の死亡事故（実際には1986年、ポールリカールでのテスト中に、エリオ・デ・アンジェリスも亡くなっているが）に、サーキットが凍りついた。セナも事故現場に行き、だいぶ混乱した様子だったという。
一時は出走すら危ぶまれたセナだったが、翌日、他の（ラッツェンバーガーを除く）24人のドライバーとともに出走を果たすのであった。かつてないほど思い詰めた物憂げな表情ととともに。
過去の2戦同様、セナがポールを獲得した一方、またしても2番グリッドにはベネトンのシューマッハがつけていた。このレースも二人のマッチレースになることは容易に想像された。
ずれた歯車が狂おしく音を立てるような異常な雰囲気の中で、スタートが切られる。セナもシューマッハも順当にスタートを切る中、このレースが怪我からの復帰戦であった、シューマッハのチームメートのJJ.レート（5番グリッドだったっけ？）がエンジンストールし、立ち往生した。そこに、後続車が殺到する。そして、ロータス・無限ホンダのペドロ・ラミーが避けきれずにレートのベネトンに突っ込んだ。
両車が大破する大クラッシュ。幸い、2人に怪我はなかったが、外れたタイヤが観客席に飛び込み負傷者が出た。
当然、レースはセーフティカーランとなった。
またしても起きた大きな事故。そして、まるで嵐の前の静けさのようなスロー走行。ますますずれた歯車のガラガラという音が大きくなるような、そんな感覚がサーキットを、そしてテレビ観戦している俺さえをも包んでいくような、異常な雰囲気を覚えている。
運命の再スタートは6周目だ。
セナとシューマッハは猛然とダッシュし、一気に3位のベルガーとの差を開いていく。コントロールラインを通過し、7周目に突入する。第1コーナーにあたるタンブレッロに全開で突入していく2台をテレビは映していた。タンブレッロの先のカメラに切り替わる。
次の瞬間。
タンブレッロの先の芝生の上で、マシンの右サイドを潰したウィリアムズFW16が何度も何度も、狂ったロデオのように跳ねながら回転していた。その中で、セナの鮮やかな黄色いヘルメットが揺さぶられていた。
ようやく止まったFW16を大写しにするヘリコプターのカメラ。そのマシンの中で、わずかにセナのヘルメットが動いた。
まさか...。
いや、実はこの日のF-1放送は、放送開始の時点で異例の放送だった。つまり、現在のCS放送のように生放送ではなかったので、放送開始の時点で既に実際のレースは終了しており、ピット前でフジテレビの三宅アナウンサーと解説の今宮氏の2人が並んだ状態で放送が開始された（たしか川井リポーターはこの時点ではいなかったはずだ）。そして、セナがクラッシュし病院に搬送されたことが既に伝えられていた。
だから、クラッシュがあったことは分かっていた。それでも、あまりに衝撃的なクラッシュの映像に、俺は言葉を失った。
前日までならば、不安などなかっただろう。12年もの間、そして、俺がF-1を見始めてから一度も、死亡事故がなかったからだ。それほど、F-1は安全なスポーツになっていたし、逆に、そこにFIAもファンも甘えていたのだろう。しかし、前日のラッツェンバーガーの事故があった。再開されたレースを眺めながら、そして、早くセナが無事だったというニュースが入らないかと期待しながらも俺は、背中の上部に寒気のようなものを感じていた。
ふと、テレビにニュース速報が入った。まさかそれが、F-1関連のものとは思わなかった。
流れたテロップが伝えたのは、セナの死だった。
5/1。まだその頃は寒くて、家にはまだこたつが出ていたのを記憶している。頭が真っ白になった俺は、そのこたつ布団を何度か拳で叩いた。
画面が切り替わる。再び、ピット前の三宅アナと今宮氏の映像だ（この時点で川井リポーターが加わっていたかどうか記憶が定かでない。いずれにしても、遅くとも途中から加わっている）。
涙を流しながら、セナの死を伝える三宅アナ。そして、いつも冷静沈着に解説をする今宮氏が、声を震わせてコメントをしている。鋭く放つ言葉が持ち味の川井氏が、ものすごく優しい声で「セナが与えてくれたものの大きさに感謝するとともに、安らかに眠ってほしい」と、遠くを...タンブレッロを見やるかのように穏やかに話した。
世界公開であるこのセナの映画の中で、それまでのレースを伝えるビデオに登場するのは、概ねブラジルやイタリアあたりの放送局とおぼしきレポーターがほとんどだった。しかし、セナの死を伝えたシーンとして選ばれたのは、実はこのフジテレビの映像だった。きっと、セナの死を伝えるのに、もっとも人々の気持ちを代弁したものだったということだろう。
この日のF-1中継は、先の3人によるコメントや、急造したと思われる「セナの軌跡」的な特集の放送で終了し、翌日の夜中に改めてレース全編が放映された。
日本のF-1バブルの象徴の大きな一角であったセナの死によって、日本ではF-1離れが加速した。
だが、俺はF-1を見続けた。辛かったが、翌日のレースの全編放送もちゃんと観た。
それは逆に、セナのセンセーションがあまりに大きかったからだ。きっと、またあの超新星のような輝きを放ったドライバーが出てくるに違いない、と。セナが同じく夭折した伝説的ドライバー、ジム・クラークの再来と呼ばれたように。
あれから16年経って、未だにそんなドライバーは現れない（シューマッハは？と聞く人は多いが、残念ながらその対象ではない）。あの、血がぎらぎらとたぎるような興奮を味あわせてくれるようなドライバーは。クラークの死からセナのデビューまでがちょうど16年だった。やっぱり、あの興奮は二度と戻らないのだろうか？
そして、俺はもう間もなく、セナが亡くなった年齢に到達しようとしている。
そんなタイミングで観たこの映画は、俺にいろいろなものを思い起こさせ、刻み込ませることになった。
実に強烈な印象だったその映画はこう締めくくられる。
どの年のどのレースか判別できなかったが（おそらく1991年だろうと思うが）、マクラーレン時代のセナが記者会見でこういう質問を受ける。
「これまでで一番満足感を味わったレースはなんですか？」
記者としては、「プロストを打ち負かしたレース」を期待していたのだろう。
しかし、セナは少し考えてこう切り出した。
「1978年か、79年か。カートのレースだ。チームメートの経験豊かなドライバー。彼はスムースで無駄がなくて速かった。努力して、技術を盗んで、彼を打ち負かしたレースだね。汚い政治も、金も絡まない、純粋に速さを競ったレースだった」。
嬉しそうに、穏やかに語るセナ。
純粋なレーシング。これこそがセナを形成する本質だったのだ。
nobilesの投稿(23:24:00-2010-11-09) -
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