NOBILES Days
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先週、会社の先輩が声をかけてきた。
「F-1始まったね。」
うん、始まったね。
「なんか、全然展開面白くなかったね。」
えええ？
バトンの技が光ったし、中団以降のダンゴ状態も面白かったけど？？
「でも、マシンはなんかかっこ良くなってたよね。」
えええ？？あのノーズの段差見てないの？？？
「ベッテルあんまり元気なかったけど...やっぱりベッテルがもっと頑張らないと面白くないよね。」
えええ？？？いや、元気良い方がいいけど、良すぎると去年みたいな独走になってつまらなくなるよ？？
うーん。ここまでことごとく反対意見になっちゃうのも珍しいな。いや、全部「はい、そうですね」で過ごしたけどね (^_^;。
というわけで、F-1の新しいシーズンが始まった。
初戦はマクラーレンとバトンが絶妙のタイヤマネージメントを見せ、独走と言っても良い勝利を飾った。第2戦ではタイヤの使いこなしが抜群にうまいペレスがアロンソを追い詰める2位を獲得した。今年も、ピレリタイヤの使いこなしがキーになりそうだ。
Alonso vs Perez at Malaysian GP 2012
そんな今年のF-1に関する人の呟きを勝手に拾ってディープな話に我田引水コーナー！
冒頭で少し触れたが、今年のF-1で話題なのが、マシンの格好悪さである。
技術的に今年の規則における大きな変更点は、エキゾースト・ブロウン・ディフューザーが禁止されたことであるが、外観上大きな差は発生しない。
むしろ外観が大きく変わったのはノーズである。多くのチームが、ノーズの上面の中ほどに、不可解な段差を設けた。いかにも空気抵抗になりそうな、見た目からして違和感だらけの外観だ。
もちろん、どのチームも単純に性能を追求してこの形状にしたわけではない。新たに施行されたレギュレーションをかい潜って、昨年同様の性能を発揮するにはどうすれば良いか、を検討した結果があの形状だった。
その新しいレギュレーションとは、コクピット後端から1950mm前方部分における構造物の高さを最大550mmに制限するというものだ。
ご存知のように、現代F-1のノーズは高く持ち上げられている。これは、マシン下面の空気流の量を多くした方がグランドエフェクト（対地効果）を多く得られるからだ。
この考え方を本格的に導入したのは、今のレッドブルのマシンを作り上げたエイドリアン・ニューウィのF-1処女作となるマーチ881（1988年）だ。
ちなみに、ティレル019（1990年）はフロントウィングを曲げるほどノーズを上げたのは画期的だったが、あくまで881の発展形にすぎない。 ウィングを折り曲げる手法も、ウィングの面積が狭まるため定着しなかった。
Leytonhouse March 881
Tyrell019
その後、ベネトンB191（1991年）のステー吊り下げフロントウィングや、マクラーレンMP4-20（2005年）のゼロキール（かつてのサスペンションジオメトリーのセオリーを無視した空力コンシャスなサスペンションレイアウト）などの発明によって、あれほど高く持ち上げたノーズになっている。
Benetton B191
McLarenMP4-20
モノコックには断面積にも規定がある。また、側面の鉛直方向の寸法にも規定がある（「モノコック前端から後方に650mmの部分にかけては、前端で250mmからテーパー状に後端で350mmという、地面に対して垂直の面がなくてはならない」）から、ほぼ寸法はがんじがらめだ。これもドライバーの居住性、安全性の確保が目的だ。
断面積規定を満たしつつ下面に大きな空間を確保するにはモノコックを上げるしかないというわけだ。
ところが近年、この高いノーズの安全面での問題が指摘されるようになってきた。
たとえばコースサイドにヒットして横向きになって跳ね返ってきたマシンに対し、コースを正常に走ってきたマシンは側面から衝突することになる（Tボーンクラッシュ）。この時、まっすぐ走ってきたマシンの高く持ち上げられたノーズが、コクピット側壁を越えてドライバーのヘルメットを直撃しかねない。
また一昨年、違うシチュエーションも発生した。バレンシアでのヨーロッパGPのウェバーとコバライネンのアクシデントである。
速度の低いコバライネンのロータスのリアに、ウェバーのレッドブルが追突し、ウェバー車は、きり揉みしながら宙に舞い上がり、しかし幸運にも一回転して通常の姿勢に戻って着地し大事には至らなかった。
しかしこの事故は後に、コバライネン車のリアタイヤに、高く持ち上げられたレッドブルRB6のノーズ下面が乗り上げた結果、宙高く跳ね上げられたことが判明したのだ。
The Crush between Webber and Kobarainen
そこでまずは今季、モノコックの先端を75mm下げることになった。だが、FIAとしてはもっとノーズを低くしたいと考えているようだ。
しかし、その制定の仕方に少し問題があった。
従来からコクピット開口部の高さは550〜625mmに制限されている。これは、コクピット後端から前方に1800mmのところまで同様である。少しでもノーズ下の空間を広げたい多くのチームは、600mmを超える高さぎりぎりにノーズ上面を設定していた。
ところが今年、その制限位置からわずかに150mm前方の最高点だけが550mmと制定された。これまでと同じノーズ下の空間を確保しようとすると、この150mmの間に75mmを一挙に低くしなければならなくなった。
それがあの段差の正体だ。
もし規則が、「モノコック前端の550mmポイントからコクピット開口部前端の625mmポイントまではテーパー上にスムースに整形すること」といったモノコック側面規定と同様の表現にしていればあのような段差にはならなかったはずなのだ。
しかし一方で、それらのマシンのモノコックの下側に注目すると、非常に高く、スムースに整形されていることに気づくだろう。
また、上面が低くなった分、ノーズ部は昨年と比べると極めて偏平な形状になった。
姿勢変化に対する耐性などを考慮すると、本来ノーズ上面は昨年までのように傾斜を持っている方が望ましいようだが、それでも採用してきたということは、現代F-1のデザイナー達にとってのプライオリティが自ずと分かるというものだろう。
そんな中、ほぼ唯一段差を設けなかったのがマクラーレンである。マクラーレンは昨年のマシンからノーズをあまり上げないマシン作りをしてきた。
ノーズを上げる、下げる、という流行は、実は'80年代後半にハイノーズが登場して以来繰り返されてきた歴史がある。
'90年代半ば（'96年カナダGP）には全てのマシンが吊り下げフロントウィングとなるなど、徹底したハイノーズ化が進んだが、アドリアン・ニューウィーの手になる'98年のマクラーレンMP4-13の登場、フロントウィングの規則が変わった2001年を席巻したフェラーリF2001など、ノーズを低めに設定したマシンの活躍で、'90年代後半〜'00年代途中までは極端なハイノーズは影を潜めるようになっていた。
その状況が一変したのは'09年の規則変更である。この年から多くの空力付加物が禁止され、幅広のフロントウィングが導入された。
この年を支配したのは低めのノーズを使ったブラウンBGP001だったが、シーズン後半最速を誇ったのは、超ハイノーズを採用したレッドブルRB5だった。いわずもがな、今年を走るRB8まで受け継がれるレッドブルの最強マシンの系譜の始祖である。
その後のレッドブルの活躍により、F-1シーンでは再び徹底したハイノーズ主義が蔓延している。
しかし、空力とは単純にノーズを上げて空気を取り込めば良いというものではない。'00年代にノーズが一旦下がったのは、空気の量ではなく、乱れのない空気、つまり空気の質を重視したからだ。つまり、ノーズ下に大量の空気を送り込むのではなく、量は多少減ってでも、その空気を乱れなくマシン後半に導き、無駄なくダウンフォース獲得に利用した方が良い、という考え方である。
だから、必ずしもノーズを上げることは最適解ではないのは、歴史が証明している。今年のマクラーレンのマシンが速いのは、偶然でも、はたまた「美しいから速い」なんていう迷信でもなんでもない。
McLarenMP4-27
だが、段差組の中にもデザインの差が見られるのは興味深い。フェラーリはなんとも味気ない箱形の段差だが、ロータスあたりは曲線を多用してなかなか鋭いイメージだし、ザウバーは2008年のフェラーリF2008同様、ノーズに穴をあけ段差の後方から空気を抜くことでリフトを抑える小技を使ってきている。
お世辞にも美しいとは言えない「段差」だが、各チームの違いをじっくり眺めてみるのもまた一興なのである。
あー、メルセデスの前後ウィングの小細工とかも離したいところだけど、夜更かしがさらに進行しそうだから今日はこの辺にしといたろか。
「F-1始まったね。」
うん、始まったね。
「なんか、全然展開面白くなかったね。」
えええ？
バトンの技が光ったし、中団以降のダンゴ状態も面白かったけど？？
「でも、マシンはなんかかっこ良くなってたよね。」
えええ？？あのノーズの段差見てないの？？？
「ベッテルあんまり元気なかったけど...やっぱりベッテルがもっと頑張らないと面白くないよね。」
えええ？？？いや、元気良い方がいいけど、良すぎると去年みたいな独走になってつまらなくなるよ？？
うーん。ここまでことごとく反対意見になっちゃうのも珍しいな。いや、全部「はい、そうですね」で過ごしたけどね (^_^;。
というわけで、F-1の新しいシーズンが始まった。
初戦はマクラーレンとバトンが絶妙のタイヤマネージメントを見せ、独走と言っても良い勝利を飾った。第2戦ではタイヤの使いこなしが抜群にうまいペレスがアロンソを追い詰める2位を獲得した。今年も、ピレリタイヤの使いこなしがキーになりそうだ。
Alonso vs Perez at Malaysian GP 2012
そんな今年のF-1に関する人の呟きを勝手に拾ってディープな話に我田引水コーナー！
冒頭で少し触れたが、今年のF-1で話題なのが、マシンの格好悪さである。
技術的に今年の規則における大きな変更点は、エキゾースト・ブロウン・ディフューザーが禁止されたことであるが、外観上大きな差は発生しない。
むしろ外観が大きく変わったのはノーズである。多くのチームが、ノーズの上面の中ほどに、不可解な段差を設けた。いかにも空気抵抗になりそうな、見た目からして違和感だらけの外観だ。
もちろん、どのチームも単純に性能を追求してこの形状にしたわけではない。新たに施行されたレギュレーションをかい潜って、昨年同様の性能を発揮するにはどうすれば良いか、を検討した結果があの形状だった。
その新しいレギュレーションとは、コクピット後端から1950mm前方部分における構造物の高さを最大550mmに制限するというものだ。
ご存知のように、現代F-1のノーズは高く持ち上げられている。これは、マシン下面の空気流の量を多くした方がグランドエフェクト（対地効果）を多く得られるからだ。
この考え方を本格的に導入したのは、今のレッドブルのマシンを作り上げたエイドリアン・ニューウィのF-1処女作となるマーチ881（1988年）だ。
ちなみに、ティレル019（1990年）はフロントウィングを曲げるほどノーズを上げたのは画期的だったが、あくまで881の発展形にすぎない。 ウィングを折り曲げる手法も、ウィングの面積が狭まるため定着しなかった。
Leytonhouse March 881
Tyrell019
その後、ベネトンB191（1991年）のステー吊り下げフロントウィングや、マクラーレンMP4-20（2005年）のゼロキール（かつてのサスペンションジオメトリーのセオリーを無視した空力コンシャスなサスペンションレイアウト）などの発明によって、あれほど高く持ち上げたノーズになっている。
Benetton B191
McLarenMP4-20
モノコックには断面積にも規定がある。また、側面の鉛直方向の寸法にも規定がある（「モノコック前端から後方に650mmの部分にかけては、前端で250mmからテーパー状に後端で350mmという、地面に対して垂直の面がなくてはならない」）から、ほぼ寸法はがんじがらめだ。これもドライバーの居住性、安全性の確保が目的だ。
断面積規定を満たしつつ下面に大きな空間を確保するにはモノコックを上げるしかないというわけだ。
ところが近年、この高いノーズの安全面での問題が指摘されるようになってきた。
たとえばコースサイドにヒットして横向きになって跳ね返ってきたマシンに対し、コースを正常に走ってきたマシンは側面から衝突することになる（Tボーンクラッシュ）。この時、まっすぐ走ってきたマシンの高く持ち上げられたノーズが、コクピット側壁を越えてドライバーのヘルメットを直撃しかねない。
また一昨年、違うシチュエーションも発生した。バレンシアでのヨーロッパGPのウェバーとコバライネンのアクシデントである。
速度の低いコバライネンのロータスのリアに、ウェバーのレッドブルが追突し、ウェバー車は、きり揉みしながら宙に舞い上がり、しかし幸運にも一回転して通常の姿勢に戻って着地し大事には至らなかった。
しかしこの事故は後に、コバライネン車のリアタイヤに、高く持ち上げられたレッドブルRB6のノーズ下面が乗り上げた結果、宙高く跳ね上げられたことが判明したのだ。
The Crush between Webber and Kobarainen
そこでまずは今季、モノコックの先端を75mm下げることになった。だが、FIAとしてはもっとノーズを低くしたいと考えているようだ。
しかし、その制定の仕方に少し問題があった。
従来からコクピット開口部の高さは550〜625mmに制限されている。これは、コクピット後端から前方に1800mmのところまで同様である。少しでもノーズ下の空間を広げたい多くのチームは、600mmを超える高さぎりぎりにノーズ上面を設定していた。
ところが今年、その制限位置からわずかに150mm前方の最高点だけが550mmと制定された。これまでと同じノーズ下の空間を確保しようとすると、この150mmの間に75mmを一挙に低くしなければならなくなった。
それがあの段差の正体だ。
もし規則が、「モノコック前端の550mmポイントからコクピット開口部前端の625mmポイントまではテーパー上にスムースに整形すること」といったモノコック側面規定と同様の表現にしていればあのような段差にはならなかったはずなのだ。
しかし一方で、それらのマシンのモノコックの下側に注目すると、非常に高く、スムースに整形されていることに気づくだろう。
また、上面が低くなった分、ノーズ部は昨年と比べると極めて偏平な形状になった。
姿勢変化に対する耐性などを考慮すると、本来ノーズ上面は昨年までのように傾斜を持っている方が望ましいようだが、それでも採用してきたということは、現代F-1のデザイナー達にとってのプライオリティが自ずと分かるというものだろう。
そんな中、ほぼ唯一段差を設けなかったのがマクラーレンである。マクラーレンは昨年のマシンからノーズをあまり上げないマシン作りをしてきた。
ノーズを上げる、下げる、という流行は、実は'80年代後半にハイノーズが登場して以来繰り返されてきた歴史がある。
'90年代半ば（'96年カナダGP）には全てのマシンが吊り下げフロントウィングとなるなど、徹底したハイノーズ化が進んだが、アドリアン・ニューウィーの手になる'98年のマクラーレンMP4-13の登場、フロントウィングの規則が変わった2001年を席巻したフェラーリF2001など、ノーズを低めに設定したマシンの活躍で、'90年代後半〜'00年代途中までは極端なハイノーズは影を潜めるようになっていた。
その状況が一変したのは'09年の規則変更である。この年から多くの空力付加物が禁止され、幅広のフロントウィングが導入された。
この年を支配したのは低めのノーズを使ったブラウンBGP001だったが、シーズン後半最速を誇ったのは、超ハイノーズを採用したレッドブルRB5だった。いわずもがな、今年を走るRB8まで受け継がれるレッドブルの最強マシンの系譜の始祖である。
その後のレッドブルの活躍により、F-1シーンでは再び徹底したハイノーズ主義が蔓延している。
しかし、空力とは単純にノーズを上げて空気を取り込めば良いというものではない。'00年代にノーズが一旦下がったのは、空気の量ではなく、乱れのない空気、つまり空気の質を重視したからだ。つまり、ノーズ下に大量の空気を送り込むのではなく、量は多少減ってでも、その空気を乱れなくマシン後半に導き、無駄なくダウンフォース獲得に利用した方が良い、という考え方である。
だから、必ずしもノーズを上げることは最適解ではないのは、歴史が証明している。今年のマクラーレンのマシンが速いのは、偶然でも、はたまた「美しいから速い」なんていう迷信でもなんでもない。
McLarenMP4-27
だが、段差組の中にもデザインの差が見られるのは興味深い。フェラーリはなんとも味気ない箱形の段差だが、ロータスあたりは曲線を多用してなかなか鋭いイメージだし、ザウバーは2008年のフェラーリF2008同様、ノーズに穴をあけ段差の後方から空気を抜くことでリフトを抑える小技を使ってきている。
お世辞にも美しいとは言えない「段差」だが、各チームの違いをじっくり眺めてみるのもまた一興なのである。
あー、メルセデスの前後ウィングの小細工とかも離したいところだけど、夜更かしがさらに進行しそうだから今日はこの辺にしといたろか。
nobilesの投稿(23:50:00-2012-03-26) -
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