NOBILES Days
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先日受けた人間ドックの結果が返ってきた。
ここのところの生活改善で無駄な脂肪もがっつり削ったし、かつて懸案だったLDL（いわゆる悪玉コレステロール）も確実に減少傾向にあったので、まあ健康という結果が普通に帰ってくるだろうと思っていた。
ところが、ある項目が要経過観察となっていた。自覚症状が出てきたら受診せよ、と。
思いもよらないところだったので驚いた。言われてみると、自覚症状があるような気になってきた。
まあ本来、早期発見のために人間ドックやるわけなので、これでいいんだけどね。まだ「経過観察」ということだけど、診察受けに行くかな。
昨年末のこと、友人たちとの忘年会を終えて帰ってくると、冊子の包みが届いていた。毎月購読しているF-1の雑誌、「グランプリトクシュウ」だった。
包みから取り出して、パラパラと中身を眺める。お馴染みのコーナーをサーッと見てから、「後でゆっくり観よう」と思って冊子を閉じた。
脇に置こうとしたその表紙を何気なく見やって、俺は凍りついた。
「グランプリトクシュウ」最終号と、「グランプリ特集」1989年総集編号
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/13sec, F5.0, ISO400)
「最終号」
...はい？最終？
「F1グランプリ特集29年」
最終号という横には、なんだか「まとめ」的な言葉も一緒に並んでいる。
いやいや、そんなバカな。きっと、ここ何号か分厚い構成だったのが終わって通常構成に戻るとか、そういうことに違いない。
咄嗟に浮かんだにしては、俺の推測はそれなりに筋が通っているように思えた（←今思えばそうでもない (^_^;）。そこで俺は、その推測が正しいことを証明するべく、いつも巻末にある次号予告を手繰った。
「休刊のおしらせ」
...
マジかよ。
「昨今の市況変化に伴い、このような結論に至りました。」
...なんてこった。
頭が真っ白になった。
っていうか、「休刊」って言っておきながら「最終号」っておかしいだろ。...つまり、復刊する可能性は極めて低い、ということだろう。
毎号買うのが当たり前になっていた俺にとって同誌は、長年連れ添った伴侶のようで、もはや「この辺をめくればあのコーナーだろ」というのが、目次を見なくても分かるほどだった。
それだけに、その雑誌がなくなってしまうという現実は、なんとも受け容れ難いものであった。
「グランプリトクシュウ」は、1987年に創刊された。ウィリアムズ・ホンダが最強を誇り、ネルソン・ピケが3回目のタイトルを獲った年だ。そしていわずもがな、中嶋悟が日本人として初めてフル参戦を果たし、また鈴鹿で初めてF-1が開催された年でもある。
俺と同誌との出会いは1989年である。
シケインでセナとプロストが絡んだ鈴鹿のレースを観て、あのギリギリとした緊張感に魅了された俺は、翌日から狂ったようにF-1雑誌を買い漁った。
その中の1冊が当時の名称で「F1グランプリ特集」だった。これは確か、里帰りしたときに、岐阜の高島屋の本屋で、叔母に買ってもらったのだと記憶している。
その号は1989年の総集編という位置付けで、鈴鹿のレースはもちろん、ベルガーの火災事故があったサンマリノGPや、新人たちが百花繚乱の活躍をしたフランスGP、大雨の中で中嶋悟がファステストラップを記録したオーストラリアGPと、実にたくさんの見どころがあった。
さらには、各チームのドライバーのプロフィール、マシン各部の比較、1971年のジャッキー・スチュワートがタイトルを獲得したときの回顧記事など、実に盛りだくさんな内容だった。
俺はそれを飽きることもなく何度も何度も読み返した。もはや、俺のF-1マニアとしての原点と言っても差し支えなかろう。
「グランプリ特集」1989年総集編号の中身
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/15sec, F5.0, ISO400)
ただ、毎号買うようになったのは翌年月刊化されてからだ。だから、319号まで発行されたうち、俺が持っているのは300号分だけ（だけ？）ということになる。
F1グランプリ特集は、他の速報誌よりも若干値段は高かったが、内容はずば抜けて濃かった。特に、買い始めた頃はその傾向が強く、特に俺がお気に入りだったのが1/20の模型で簡易風洞実験をするコーナーだった。当時最先端と言われた、エイドリアン・ニューウィー調のディフューザーの効果を確かめたりしていて、実に興味深かった。
俺は進学塾の帰りのバスで1番後ろの席に座って、それを読んで帰るのが習慣だった。
同誌で特に思い出として残っているのは、1992年の4月号だ。
この年は、俺にとってのヒーローだったアイルトン・セナが勝てなくなった年だ。前年にチャンピオンを獲ったマクラーレンMP4/6の改良型で挑んだ序盤2戦は、アクティブサスで武装したウィリアムズFW14Bのナイジェル・マンセルにコテンパンにやられてしまったのだ。
そこでマクラーレンは予定を前倒しして、新型のMP4/7を投入することにして、緊急テストを行ったと聞いていた。俺はその写真を早く見たくて見たくて堪らなかった。
だから、発売日になったその午前12時過ぎ、俺は生まれて初めて、夜中に1人で家を抜け出して、コンビニにこの雑誌を買いに行った。まだブームだったこの時代、コンビニでもF-1雑誌が買えたのだ。
「グランプリ特集」1992年4月号
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/10sec, F5.0, ISO400)
その表紙は、目的のマクラーレンMP4/7Aだった。当時、期待の若手と言われた、テストドライバーのアラン・マクニッシュが乗ったMP4/7Aは、マクラーレンとして初めてのメス型カーボンファイバーモノコックとなり、控えめながら細身なハイノーズを採用。鈍重だったサイドポンツーンも短くなった。何より、各所がとても丁寧に仕上げられた美しいマシンだった。俺は家に帰ってからも大興奮でその数枚の写真を何度も舐めるように眺めたものだ。
結局MP4/7Aは前倒し投入の甲斐もなく、ウィリアムズFW14Bにコテンパンに負け続け、失敗作の烙印を押された。が、このマシンは間違いなく、F-1マシンの品質を引き上げた美しいマシンだと思っている。カタチはダサいけど。
だいたい、コテンパンと言いながら5勝を上げてる。前年からの流れを考えたら意外な善戦とも思える。
とにかく、初めて夜中に家を抜け出したドキドキと、暗闇の中で袋から取り出したときに白く映えた、表紙のMP4/7Aの姿が猛烈に鮮明に記憶に残っている。
かくして、1990年代から2000年代初頭のF-1にかけた集中力といったら、青春と言っていいレベルだったと思う。
その中で、そこそこの部数を持つF-1メールマガジンにコラムを寄稿したりもした。それを元にして、狂ったように作り上げた俺のホームページは、某巨大匿名掲示板で「F-1の空力の歴史を知りたいならココ」とURLを貼り付けられる存在にもなった。その記事を書くときに一番参考にしたのも、「F1グランプリ特集」の膨大なアーカイブだった。この頃は、どの号のどの辺を見ればこんな記事がある、写真が載っている、というのを概ね把握していた。
さらには、毎戦のレビュー記事まで始める有様だった。過去のレース紹介から、コースの特徴、そして本戦の過程、評価まで行っていた。お前はF-1記者か、と言われんばかりの入れ込み方だった。
その一方で、仕事が忙しくなり、家庭も持った2000年代半ばからは、ホームページの更新も寄稿も止めた。あくまで趣味で収入を得ていたわけでもなかったからだ（これをビジネスに繋げなくてどうする）。「各レースの入賞者を全て言える」くらいの入れ込み方から、「各レースの勝者が言えるかどうか怪しい」程度になったし、本誌に対する臨み方も、それまでの「一字一句たりとも逃してなるものか」という尋常でない集中力は使わなくなっていった。
同時に、「グランプリトクシュウ」の記事自体も、当初の濃すぎる内容から比べると薄くなっていたこともまた否めない。いくら伝統あるF-1であっても、紹介に値するドラマチックなレースは限られている。毎年毎年延々と同じようなカレンダーでグランプリが開催されれば、マンネリ化も進む。
かようにして思い返せば、読む側も、雑誌の側も、ある意味では惰性になっていたところはあるかもしれない。
だからこそなのだろうか「グランプリトクシュウ」は、1年ほど前から構成が大きく変わり、分厚く、定価も倍以上となって、現在のF-1よりも、どちらかというとその歴史をフィーチャーした内容になった。ひょっとしたら最後の賭けだったのかもしれないし、この休刊に至るための前振りだったのかもしれない。
でも、正直言って微妙な内容だった。
定価が上がってからは、創刊から数年分の号をPDFとしてCD-ROMに収めたものが順次付属していたのだが、CD-ROMからPDFをコピーできなかった。著作権の面からは仕方のないことかもしれないが、これではせっかくのバックナンバーも手軽に見ることができない。
しかも俺のような人種は「当時の実物の本を持っている」ので、あまり有り難みがなかった。ひょっとして、今でも「グランプリトクシュウ」を買い続けている人種はそういう層が多かったのではないか。新構成においてフィーチャーされた「歴史」にしても、がっつりと学習して延べ66人のチャンピオンをソラで言える俺にとっては、どちらかというと「サワリ」的な内容で、新たな発見があるほどのものではなかった。
それでも、「グランプリトクシュウ」が無くなるなんて想像したことがなかった。ブームが去っても、セナが亡くなっても、シューマッハの独壇場になっても、日本勢がいなくなっても、絶えることなく続いてきたからだ。
だから今でも、素直に「おつかれさま」と思ってあげることができない。
「悲しい」？「残念」？どれも言葉としては不十分すぎる。それくらい、燃え盛る情熱とセットになった大切な雑誌だったのだ。
一方、同誌から与えてもらったものを考えれば、感謝しかない。
1989年のF-1シーンを余すことなく伝えてくれたあの号から始まり、ニキ・ラウダに興味を持ち、ターボ時代を遡り、エアロダイナミクス（空気力学）に傾倒した。ジル・ヴィルヌーブとディディエ・ピローニの悲劇を知り、JPSロータスに魅了され、葉巻型F-1のワイルドさに触れ、ジム・クラークという綺羅星に思いを馳せた。
俺の中のF-1情報の半分以上は同誌からのものではないか、というくらいだ。思い返すだけで、胸がキューーっと縮まってしまう。
それでも、あえて絞り出せるとしたら
「ありがとう」
この言葉に集約できるだろう。
実は、日本国内における2016年のF-1グランプリの放送予定は未だに定まっていない。これまで29年にわたって、独占放送するのが当たり前だったフジテレビが、未だに放映の契約を結んでいないというのだ。…そう、雑誌だけでなく、テレビ放映までもが存続のピンチになっている。
一応、アジアにおける放映権はFOXが取得したらしいが、そのFOXも、日本で放映するのかどうか分からない。フジテレビがFOXから放映権を買うのかどうかも分からない。これまで、生放送で見れていたことがいかに恵まれていたのかと思い知らされた。
どうにか、これまでのようにF-1をテレビ観戦できるようになることを願ってやまない。
ここのところの生活改善で無駄な脂肪もがっつり削ったし、かつて懸案だったLDL（いわゆる悪玉コレステロール）も確実に減少傾向にあったので、まあ健康という結果が普通に帰ってくるだろうと思っていた。
ところが、ある項目が要経過観察となっていた。自覚症状が出てきたら受診せよ、と。
思いもよらないところだったので驚いた。言われてみると、自覚症状があるような気になってきた。
まあ本来、早期発見のために人間ドックやるわけなので、これでいいんだけどね。まだ「経過観察」ということだけど、診察受けに行くかな。
昨年末のこと、友人たちとの忘年会を終えて帰ってくると、冊子の包みが届いていた。毎月購読しているF-1の雑誌、「グランプリトクシュウ」だった。
包みから取り出して、パラパラと中身を眺める。お馴染みのコーナーをサーッと見てから、「後でゆっくり観よう」と思って冊子を閉じた。
脇に置こうとしたその表紙を何気なく見やって、俺は凍りついた。
「グランプリトクシュウ」最終号と、「グランプリ特集」1989年総集編号
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/13sec, F5.0, ISO400)
「最終号」
...はい？最終？
「F1グランプリ特集29年」
最終号という横には、なんだか「まとめ」的な言葉も一緒に並んでいる。
いやいや、そんなバカな。きっと、ここ何号か分厚い構成だったのが終わって通常構成に戻るとか、そういうことに違いない。
咄嗟に浮かんだにしては、俺の推測はそれなりに筋が通っているように思えた（←今思えばそうでもない (^_^;）。そこで俺は、その推測が正しいことを証明するべく、いつも巻末にある次号予告を手繰った。
「休刊のおしらせ」
...
マジかよ。
「昨今の市況変化に伴い、このような結論に至りました。」
...なんてこった。
頭が真っ白になった。
っていうか、「休刊」って言っておきながら「最終号」っておかしいだろ。...つまり、復刊する可能性は極めて低い、ということだろう。
毎号買うのが当たり前になっていた俺にとって同誌は、長年連れ添った伴侶のようで、もはや「この辺をめくればあのコーナーだろ」というのが、目次を見なくても分かるほどだった。
それだけに、その雑誌がなくなってしまうという現実は、なんとも受け容れ難いものであった。
「グランプリトクシュウ」は、1987年に創刊された。ウィリアムズ・ホンダが最強を誇り、ネルソン・ピケが3回目のタイトルを獲った年だ。そしていわずもがな、中嶋悟が日本人として初めてフル参戦を果たし、また鈴鹿で初めてF-1が開催された年でもある。
俺と同誌との出会いは1989年である。
シケインでセナとプロストが絡んだ鈴鹿のレースを観て、あのギリギリとした緊張感に魅了された俺は、翌日から狂ったようにF-1雑誌を買い漁った。
その中の1冊が当時の名称で「F1グランプリ特集」だった。これは確か、里帰りしたときに、岐阜の高島屋の本屋で、叔母に買ってもらったのだと記憶している。
その号は1989年の総集編という位置付けで、鈴鹿のレースはもちろん、ベルガーの火災事故があったサンマリノGPや、新人たちが百花繚乱の活躍をしたフランスGP、大雨の中で中嶋悟がファステストラップを記録したオーストラリアGPと、実にたくさんの見どころがあった。
さらには、各チームのドライバーのプロフィール、マシン各部の比較、1971年のジャッキー・スチュワートがタイトルを獲得したときの回顧記事など、実に盛りだくさんな内容だった。
俺はそれを飽きることもなく何度も何度も読み返した。もはや、俺のF-1マニアとしての原点と言っても差し支えなかろう。
「グランプリ特集」1989年総集編号の中身
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/15sec, F5.0, ISO400)
ただ、毎号買うようになったのは翌年月刊化されてからだ。だから、319号まで発行されたうち、俺が持っているのは300号分だけ（だけ？）ということになる。
F1グランプリ特集は、他の速報誌よりも若干値段は高かったが、内容はずば抜けて濃かった。特に、買い始めた頃はその傾向が強く、特に俺がお気に入りだったのが1/20の模型で簡易風洞実験をするコーナーだった。当時最先端と言われた、エイドリアン・ニューウィー調のディフューザーの効果を確かめたりしていて、実に興味深かった。
俺は進学塾の帰りのバスで1番後ろの席に座って、それを読んで帰るのが習慣だった。
同誌で特に思い出として残っているのは、1992年の4月号だ。
この年は、俺にとってのヒーローだったアイルトン・セナが勝てなくなった年だ。前年にチャンピオンを獲ったマクラーレンMP4/6の改良型で挑んだ序盤2戦は、アクティブサスで武装したウィリアムズFW14Bのナイジェル・マンセルにコテンパンにやられてしまったのだ。
そこでマクラーレンは予定を前倒しして、新型のMP4/7を投入することにして、緊急テストを行ったと聞いていた。俺はその写真を早く見たくて見たくて堪らなかった。
だから、発売日になったその午前12時過ぎ、俺は生まれて初めて、夜中に1人で家を抜け出して、コンビニにこの雑誌を買いに行った。まだブームだったこの時代、コンビニでもF-1雑誌が買えたのだ。
「グランプリ特集」1992年4月号
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/10sec, F5.0, ISO400)
その表紙は、目的のマクラーレンMP4/7Aだった。当時、期待の若手と言われた、テストドライバーのアラン・マクニッシュが乗ったMP4/7Aは、マクラーレンとして初めてのメス型カーボンファイバーモノコックとなり、控えめながら細身なハイノーズを採用。鈍重だったサイドポンツーンも短くなった。何より、各所がとても丁寧に仕上げられた美しいマシンだった。俺は家に帰ってからも大興奮でその数枚の写真を何度も舐めるように眺めたものだ。
結局MP4/7Aは前倒し投入の甲斐もなく、ウィリアムズFW14Bにコテンパンに負け続け、失敗作の烙印を押された。が、このマシンは間違いなく、F-1マシンの品質を引き上げた美しいマシンだと思っている。カタチはダサいけど。
だいたい、コテンパンと言いながら5勝を上げてる。前年からの流れを考えたら意外な善戦とも思える。
とにかく、初めて夜中に家を抜け出したドキドキと、暗闇の中で袋から取り出したときに白く映えた、表紙のMP4/7Aの姿が猛烈に鮮明に記憶に残っている。
かくして、1990年代から2000年代初頭のF-1にかけた集中力といったら、青春と言っていいレベルだったと思う。
その中で、そこそこの部数を持つF-1メールマガジンにコラムを寄稿したりもした。それを元にして、狂ったように作り上げた俺のホームページは、某巨大匿名掲示板で「F-1の空力の歴史を知りたいならココ」とURLを貼り付けられる存在にもなった。その記事を書くときに一番参考にしたのも、「F1グランプリ特集」の膨大なアーカイブだった。この頃は、どの号のどの辺を見ればこんな記事がある、写真が載っている、というのを概ね把握していた。
さらには、毎戦のレビュー記事まで始める有様だった。過去のレース紹介から、コースの特徴、そして本戦の過程、評価まで行っていた。お前はF-1記者か、と言われんばかりの入れ込み方だった。
その一方で、仕事が忙しくなり、家庭も持った2000年代半ばからは、ホームページの更新も寄稿も止めた。あくまで趣味で収入を得ていたわけでもなかったからだ（これをビジネスに繋げなくてどうする）。「各レースの入賞者を全て言える」くらいの入れ込み方から、「各レースの勝者が言えるかどうか怪しい」程度になったし、本誌に対する臨み方も、それまでの「一字一句たりとも逃してなるものか」という尋常でない集中力は使わなくなっていった。
同時に、「グランプリトクシュウ」の記事自体も、当初の濃すぎる内容から比べると薄くなっていたこともまた否めない。いくら伝統あるF-1であっても、紹介に値するドラマチックなレースは限られている。毎年毎年延々と同じようなカレンダーでグランプリが開催されれば、マンネリ化も進む。
かようにして思い返せば、読む側も、雑誌の側も、ある意味では惰性になっていたところはあるかもしれない。
だからこそなのだろうか「グランプリトクシュウ」は、1年ほど前から構成が大きく変わり、分厚く、定価も倍以上となって、現在のF-1よりも、どちらかというとその歴史をフィーチャーした内容になった。ひょっとしたら最後の賭けだったのかもしれないし、この休刊に至るための前振りだったのかもしれない。
でも、正直言って微妙な内容だった。
定価が上がってからは、創刊から数年分の号をPDFとしてCD-ROMに収めたものが順次付属していたのだが、CD-ROMからPDFをコピーできなかった。著作権の面からは仕方のないことかもしれないが、これではせっかくのバックナンバーも手軽に見ることができない。
しかも俺のような人種は「当時の実物の本を持っている」ので、あまり有り難みがなかった。ひょっとして、今でも「グランプリトクシュウ」を買い続けている人種はそういう層が多かったのではないか。新構成においてフィーチャーされた「歴史」にしても、がっつりと学習して延べ66人のチャンピオンをソラで言える俺にとっては、どちらかというと「サワリ」的な内容で、新たな発見があるほどのものではなかった。
それでも、「グランプリトクシュウ」が無くなるなんて想像したことがなかった。ブームが去っても、セナが亡くなっても、シューマッハの独壇場になっても、日本勢がいなくなっても、絶えることなく続いてきたからだ。
だから今でも、素直に「おつかれさま」と思ってあげることができない。
「悲しい」？「残念」？どれも言葉としては不十分すぎる。それくらい、燃え盛る情熱とセットになった大切な雑誌だったのだ。
一方、同誌から与えてもらったものを考えれば、感謝しかない。
1989年のF-1シーンを余すことなく伝えてくれたあの号から始まり、ニキ・ラウダに興味を持ち、ターボ時代を遡り、エアロダイナミクス（空気力学）に傾倒した。ジル・ヴィルヌーブとディディエ・ピローニの悲劇を知り、JPSロータスに魅了され、葉巻型F-1のワイルドさに触れ、ジム・クラークという綺羅星に思いを馳せた。
俺の中のF-1情報の半分以上は同誌からのものではないか、というくらいだ。思い返すだけで、胸がキューーっと縮まってしまう。
それでも、あえて絞り出せるとしたら
「ありがとう」
この言葉に集約できるだろう。
実は、日本国内における2016年のF-1グランプリの放送予定は未だに定まっていない。これまで29年にわたって、独占放送するのが当たり前だったフジテレビが、未だに放映の契約を結んでいないというのだ。…そう、雑誌だけでなく、テレビ放映までもが存続のピンチになっている。
一応、アジアにおける放映権はFOXが取得したらしいが、そのFOXも、日本で放映するのかどうか分からない。フジテレビがFOXから放映権を買うのかどうかも分からない。これまで、生放送で見れていたことがいかに恵まれていたのかと思い知らされた。
どうにか、これまでのようにF-1をテレビ観戦できるようになることを願ってやまない。
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