NOBILES Days

Navyholic the 4th

Navy Down Jacket
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/20sec, F4.5, ISO1600)

ネイビー狂の話の続きだけど、今回はその前にひとつ話を挟みたい。

小欄でもお馴染みなように、我が家の徒歩圏に素晴らしい酒屋があって、俺は当時の店長に勧められるがままにワインにハマってしまった。この店のいいところは、単に酒を売りつけるだけでなく、お酒を文化として捉えて啓蒙しているところだ。
その活動のひとつが、店内で開催するワインセミナーだ。昨年秋には、1回500円、隔週で13回というセミナーが行われた。ワンコインでグラスに2～3杯ほどのワインも飲めるお手頃なもので、毎回5人前後の参加者というユルさも手伝って俺は唯一皆勤してしまった。

一口に「ワインセミナー」といっても、内容は様々だ。全13回のワンコインセミナーの方の話題は、割と真面目なワインの基礎知識で、白と赤の違いとか、産地や品種に関する内容だった。
一方先日同じ店で、参加費がもう少し高い1500円のセミナーがあった。こちらの話題はスペインワインだった。

今、スペインワイン界のカリスマと呼ばれているのがテルモ・ロドリゲスという男だそうだ。それまでスペインでは、フランスなどでメジャーなぶどう品種（カベルネ・ソーヴィニヨンとか）を導入する動きが強かったが、彼はスペインの土着品種に光を当て、その価値を高めていくことに拘ったそうだ。そして、各地の有力生産者と提携し、成功を収めてきたということだ。

今回は、彼のワイナリーの紹介を、輸入会社の社長さんがするという趣旨だったのだが、またこの社長が貫禄たっぷりで面白い人だった。もともとオーディオメーカーに就職したそうだが、肌に合わず飛び出して、オーディオとワインを輸入する会社を興したのだそうだ。
「話が苦手なんで」とか言いながらも、主旨だけでなく、若い頃のやんちゃの話やら、ライフスタイルの話まで、30分足らずの話にどれだけ詰め込むんだという充実の内容だった。しかも、ボトルで4000～6000円クラスのワインを3～4杯分くらいは飲んだだろうか。

その中で、話は彼が着ていた上着の話になった。
カーキ色でアウトドア系デザインのジャケットだった。さらっとした生地の表面は新品のように小綺麗だった。
「このジャケットは、ハンティングワールドのものですがね、ニューヨークのごちゃごちゃしたせっまい店舗で30年ほど前に買ったものですよ」
30年前！？
話の後には実際に生地を触らせてもらったが、全く信じられなかった。いいものは本当に長持ちするということか。

テルモ・ロドリゲスに関するワインセミナー。後方に、カーキ色のジャケットも見える。
(Panasonic DMC-GM5, Lumix G Vario 12-32mmF3.5-5.6(12.0mm), 1/40sec, F3.5, ISO3200)

そのワインセミナーでは、参加者はテルモ・ロドリゲスのワインを2割引で購入できるとあって、4本も購入してしまった。さすがにセミナーで飲んだようなクラスは1本だけにしておいたが、かなり満足だった。

それから何日か経った頃だったろうか、一緒にセミナーにも参加したヨメさんが話しかけてきた。
「ねー、あの店って、○○に入ってるよ」
「あの店？」
「ほら、シャチョーさんが着てたハンティングワールドだよ」
○○は、俺が通勤時に家からチャリで向かうターミナル駅近くの百貨店だ。
しかも、○○はこの春で閉店することになっていた。それで、そこに入っているハンティングワールドも大幅な割引セールをやっているというのだ。
「こんなこと、なかなかないよ」
ニヤリとヨメさんが笑った。

割引をしていたとしても、ブランドである。それなりのプライスではあるだろう。だが、シャチョーのジャケットの品質の高さはあまりにも説得力があり過ぎて、「上着類でも、ちょっと見に行ってみるか」という気になってしまったのだ。

まだひな祭りの前の頃だった。ひな祭りが迫っているのにひな人形を出すのをサボっていた。
そこである日、「早く帰ってひな人形を出す」に合わせて、ハンティングワールドの店を偵察しに行くために、仕事にさっさとケリをつけて早上がりすることにした。

いつものターミナル駅に降り、徒歩5分弱の百貨店まで歩く。考えてみればこの百貨店に入るのは初めてじゃないか？もう閉店時間近づく店内に入ると、思いのほか賑わっている。だが、時代は隠せなくて、天井は低いし、ひとつのフロアがだいぶ手狭な印象を受ける。それに、閉店セールが始まる前まではかなり閑古鳥が鳴いていたそうだ。

ハンティングワールドは、その1階の一角にあった。
ハンティングワールドはどちらかというとカバンメーカーとしての方が有名のようで（よく知らんけど）、店の過半は綺麗な陳列棚になっていて、いかにも値の張りそうなバッグや財布などが恭しく並んでいた。だが今回の目的の衣類もハンガーにそれなりの数が陳列されていた。

他に客が少なかったので、若干躊躇はしたが、見なければ早帰りした意味が半減する。ググッと店内に足を踏み入れ、上着類を物色し始めた。

...おおっ。

その手触りはワインセミナーのときに触らせてもらったシャチョーのジャケットと同系統の上質さだった。
最初に触ったそれはちょうどシャチョーのジャケットと同じような形態のものだった。だが、値札のタグを見て「うっ」となる。割引はされているようだが、それでもイイ額だ。
でも、その手触りの良さはなんとも言い難く、さらにハンガーを物色する。鮮やかながら上品な真っ赤なダウンがあった。おっ？ダウンか。

俺はこれまでの人生、少なくとも成人してからはダウンを持ったことがなかった。別に特段理由があったわけではない。食わず嫌いだったと言っても良いだろう。そのダウンの手触りもまたサラサラとして非常に上質だった。さらに、ハンガーから出して持ってみると...

軽い！

あまりに軽くて、「これって薄いけど寒い時でも大丈夫？」なんてガチに店員に聞いてしまったくらいだ。

試着してみると、赤がいい。以前バンドリーダーが来ていた革ジャンとかぶるのが気になるが (^_^;、この鮮やかさはいい。
「あ...お客様、それ、レディースでございます」
...どうりで脇の辺りが少しキツいと思った。

ところが、メンズ用の赤は既に品切れしてしまったようだ。
「後はこちらの色になります」
赤と比べると、だいぶ地味なネイビーだった。

...ネイビー？？むむ？？

確かに赤に比べれば地味だが、なかなかどうして、一筋縄ではいかないネイビーだ。

買います！

The Down Jacket
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/100sec, F2.5, ISO100)

あーあ、買っちゃった。ネイビーにまんまとほだされて。
しかし、実に軽い。冬はコートの重さとモコモコなボリュームがお馴染みだが、このダウンなら軽やかだ。生地の手触りもシルキーで心地良い。花粉もつきにくそうだ。

ただシルキー過ぎて、斜めがけのメッセンジャーバッグが滑って落ち着かない。ダウンに合わせて、それまで出動頻度が低かったバックパックを出してきてメインバッグに据えることにした。
容量の大きいバックパックに替えたおかげで、同じくネイビー物欲で導入したヘッドフォンも難なく持ち運べるようになった。

清水の舞台から飛び降りるつもりでダウンを買ってしまった。その日、ニヤニヤしながら帰って、ヨメさんに見せながら、タグを取って捨てようとしたら、ゴミ箱に先約がいた。

まさに、ハンティングワールドの。
あれ？

...ヨメさんも実は一足先にコートを買っていた。あの不敵な笑みが意味したのは、これのことだったのだ！
「500円貯金貯まったからね。エヘヘ」

nobilesの投稿(23:58:25-2017-04-11) - カテゴリ: Main

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