NOBILES Days
Jump to navigationThe Day (2)
点滴って、いろいろ付け替えたりつまみがついていたりして、なんだか電源コードだかオーディオのコードだかのように感じられて、その基部が装着された自分は、ロボットかアンドロイドにでもなったような錯覚を覚える。
手術から3日目の夜にようやくその点滴から解放された。
いやまあ、PowerBook内のきれいな写真ストックがなくなってきたからこういうネタで誤摩化してんだけどね
(Apple iPhone3GS, 1/120sec, F2.8, ISO124)
さて、手術当日の話に戻ろう。
手術を終えて俺が目を覚ましたのは、術前、病衣を剥ぎ取られた手術準備室のような場所だった。
まだ覚醒したばかりのはずなのに、俺は開口一番で「人工靭帯は使ったんですか？」いきなりそんな質問を浴びせていた。よっぽど手術代が気になっていたのだろう (^^;;;。幸い、人工靭帯は使わず、自分の靭帯だけで縫合を行えたらしい。
「はい、このままレントゲン撮りにいきますからねー」
相変わらず目まぐるしく、手術着の猛者の皆さんにお礼や労いを言う間もなく、病室付きの看護士さんによって移動が開始される。その間にちょっとだけ冷静に自分の身体を見てみると、剥ぎ取られたはずの病衣を再び着用していた。そして口には酸素マスク。
そしてベッドは救急で最初に運ばれたのと同じレントゲン室へと滑り込んでいた。ひょっとして、あの派遣に似た優しい放射線科の若いお兄さんがいるかもと思ったが、残念ながらシフトではなかったようだ。
そんな俺の心の一喜一憂とは関係なく、ベッドに寝そべったままの俺の身体に、せっせとレントゲンを当てて写真を数枚撮ると、再び看護士さんによって移動が開始されたのだった。
今度はようやく元の病室へと戻って来た。そのままベッドで空いたスペースへと収納された。...あれ？移動ベッドにしては横幅が広くてしっかりしていると思っていたのだが、実は病室に残していったはずのベッドが移動されて、術後最初からそこに載せられていたことに、病室に戻ってから初めて気づいたのだった。
手術後目覚めてからの目まぐるしい移動の末、ようやく病室で落ち着いて深呼吸の一つもしてみる。余りにあっさりとした手術の完了を実感して少し拍子抜けすら感じていた。
ふと、病室の窓の外を見てみる。3本4本と立ち並ぶタワーマンションの向こうに、羊の群れのような美しい雲、そして真っ青に色づいた秋晴れの空が広がっていた。ちょっとオーバーだが
「嗚呼、俺生きてる。」
そんな感慨にすら少し浸った。
程なくして看護士さんに呼ばれて嫁さんが病室に入って来た。感動の夫婦の再会...などというシーンを演じるほどロマンチストではないのだが、さすがに顔を見たら安堵が漏れた。
しばらくすると連休明けの手術連発で多忙な先生がやってきて下さり、説明を始めた。前日に説明してくれた毛深い野人のような先生でも、外来時にろくに説明もしてくれなかった新人っぽい先生でもなく、いかにも沈着冷静な感じのキレモノっぽい先生だった。そこでまた事後ながら安心感が倍加されたというものである。
今回は、膝のお皿に釣り針のような金具を取り付け、その上で切れた靭帯を丈夫な針金で縫い合わせたということで、術後のレントゲンも見せてくれた。ばっちり金具が埋まっているのが見え、さらに開けた痕を閉じるためのホチキスが容赦なく数本写っているのが見えた。
この段階になってようやく、「あれ？今実際に足はどうなってるんだっけ？」と右手を伸ばしてコツンというギブスの存在に気づいた。同時に未だに下半身の存在を実感できないジオング状態の自分を認識したのだった。まだまだ麻酔がバリバリ効いていたのだ。
麻酔を打たれた腰から下は、全く動けないので、上半身を起こすこともできないし、布団も被せられているので自分の足が全く見えない。
それでも、逆に言えば痛みも全く感じないので不安は全くなく、むしろその後お義父さんが駆けつけて下ったりして、手術の成功を喜ぶ感情の方が勝っていた。術後の写真などといって、酸素マスクしているくせにピースサインをする余裕すらあったのだ。
だが、本当の試練は嫁さんやお義父さんが帰った夕方以降始まるのだ。
まずは、喉の乾きだ。麻酔で気持ち悪くなって戻さないよう前日の午後9時から一切の飲食は禁止され、加えて術後もやはり午後9時に胃腸の動きを確認するまで禁止は継続されることになっていた。
次に、腰の痛みだ。ジオング状態で下半身を全く動かせないので、ずっと同じ姿勢でベッドに横たわっているため、だんだんと背中から下の部分に負担がかかって苦しくなっていったのだ。シャア大佐、やはり脚は必要でしたよ、やっぱりエラい人はエラいんだよ。
そんなジョークなどかき消すように更に襲いかかって来たのは、尿だ。術前より、養分は点滴で補給されているため、尿の間隔は必然的に狭くなる。それで膀胱にもどんどん尿が溜まってきたのがはっきり分かるようになってきた。ところが、麻酔のため排出する機能が働かないのだ。シビンを用意してもらってトライしたのだが、ほとんど出ない。しかし、尿はどんどん溜まっていく。猛烈な痛みとも痺れとも分からない感覚が襲う。看護士さんとしても、排出できない以上なんとも手の施しようがなく、慰めの言葉程度をかけることしかできない。
だんだんと麻酔も解けていって（健康な）左足の膝を立てたりして必死に耐える。腕で上半身を捻ってなんとか紛らそうとする。が、どうやら（手術の対象だった）右足にはかなり重いものが上から乗っていて動きを制限してくる。それが患部を冷やす氷であることにはこの過程でようやく気づくのである。
手術終了から4時間ほど経った19時頃だったろうか、まだ痺れは残るものの、なんとか麻酔が薄れて、排泄機構の感覚が戻って来たように感じられた。再びシビンチャレンジだ。身体を横にできないので、上を向いたまま股の間に無理矢理シビンをねじ込んで排泄する。「これ、女の方だと大変なんですよー」という暢気な看護士さんのセリフを聞き流し、ゆっくりだがようやく大量の膀胱の中身を排泄できた。
もう、なんとも言えない素晴らしい開放感である。苦しい感覚をようやく乗り越えた！もう大丈夫だ！
甘い。
...甘かった。
続く。
手術から3日目の夜にようやくその点滴から解放された。
いやまあ、PowerBook内のきれいな写真ストックがなくなってきたからこういうネタで誤摩化してんだけどね
(Apple iPhone3GS, 1/120sec, F2.8, ISO124)
さて、手術当日の話に戻ろう。
手術を終えて俺が目を覚ましたのは、術前、病衣を剥ぎ取られた手術準備室のような場所だった。
まだ覚醒したばかりのはずなのに、俺は開口一番で「人工靭帯は使ったんですか？」いきなりそんな質問を浴びせていた。よっぽど手術代が気になっていたのだろう (^^;;;。幸い、人工靭帯は使わず、自分の靭帯だけで縫合を行えたらしい。
「はい、このままレントゲン撮りにいきますからねー」
相変わらず目まぐるしく、手術着の猛者の皆さんにお礼や労いを言う間もなく、病室付きの看護士さんによって移動が開始される。その間にちょっとだけ冷静に自分の身体を見てみると、剥ぎ取られたはずの病衣を再び着用していた。そして口には酸素マスク。
そしてベッドは救急で最初に運ばれたのと同じレントゲン室へと滑り込んでいた。ひょっとして、あの派遣に似た優しい放射線科の若いお兄さんがいるかもと思ったが、残念ながらシフトではなかったようだ。
そんな俺の心の一喜一憂とは関係なく、ベッドに寝そべったままの俺の身体に、せっせとレントゲンを当てて写真を数枚撮ると、再び看護士さんによって移動が開始されたのだった。
今度はようやく元の病室へと戻って来た。そのままベッドで空いたスペースへと収納された。...あれ？移動ベッドにしては横幅が広くてしっかりしていると思っていたのだが、実は病室に残していったはずのベッドが移動されて、術後最初からそこに載せられていたことに、病室に戻ってから初めて気づいたのだった。
手術後目覚めてからの目まぐるしい移動の末、ようやく病室で落ち着いて深呼吸の一つもしてみる。余りにあっさりとした手術の完了を実感して少し拍子抜けすら感じていた。
ふと、病室の窓の外を見てみる。3本4本と立ち並ぶタワーマンションの向こうに、羊の群れのような美しい雲、そして真っ青に色づいた秋晴れの空が広がっていた。ちょっとオーバーだが
「嗚呼、俺生きてる。」
そんな感慨にすら少し浸った。
程なくして看護士さんに呼ばれて嫁さんが病室に入って来た。感動の夫婦の再会...などというシーンを演じるほどロマンチストではないのだが、さすがに顔を見たら安堵が漏れた。
しばらくすると連休明けの手術連発で多忙な先生がやってきて下さり、説明を始めた。前日に説明してくれた毛深い野人のような先生でも、外来時にろくに説明もしてくれなかった新人っぽい先生でもなく、いかにも沈着冷静な感じのキレモノっぽい先生だった。そこでまた事後ながら安心感が倍加されたというものである。
今回は、膝のお皿に釣り針のような金具を取り付け、その上で切れた靭帯を丈夫な針金で縫い合わせたということで、術後のレントゲンも見せてくれた。ばっちり金具が埋まっているのが見え、さらに開けた痕を閉じるためのホチキスが容赦なく数本写っているのが見えた。
この段階になってようやく、「あれ？今実際に足はどうなってるんだっけ？」と右手を伸ばしてコツンというギブスの存在に気づいた。同時に未だに下半身の存在を実感できないジオング状態の自分を認識したのだった。まだまだ麻酔がバリバリ効いていたのだ。
麻酔を打たれた腰から下は、全く動けないので、上半身を起こすこともできないし、布団も被せられているので自分の足が全く見えない。
それでも、逆に言えば痛みも全く感じないので不安は全くなく、むしろその後お義父さんが駆けつけて下ったりして、手術の成功を喜ぶ感情の方が勝っていた。術後の写真などといって、酸素マスクしているくせにピースサインをする余裕すらあったのだ。
だが、本当の試練は嫁さんやお義父さんが帰った夕方以降始まるのだ。
まずは、喉の乾きだ。麻酔で気持ち悪くなって戻さないよう前日の午後9時から一切の飲食は禁止され、加えて術後もやはり午後9時に胃腸の動きを確認するまで禁止は継続されることになっていた。
次に、腰の痛みだ。ジオング状態で下半身を全く動かせないので、ずっと同じ姿勢でベッドに横たわっているため、だんだんと背中から下の部分に負担がかかって苦しくなっていったのだ。シャア大佐、やはり脚は必要でしたよ、やっぱりエラい人はエラいんだよ。
そんなジョークなどかき消すように更に襲いかかって来たのは、尿だ。術前より、養分は点滴で補給されているため、尿の間隔は必然的に狭くなる。それで膀胱にもどんどん尿が溜まってきたのがはっきり分かるようになってきた。ところが、麻酔のため排出する機能が働かないのだ。シビンを用意してもらってトライしたのだが、ほとんど出ない。しかし、尿はどんどん溜まっていく。猛烈な痛みとも痺れとも分からない感覚が襲う。看護士さんとしても、排出できない以上なんとも手の施しようがなく、慰めの言葉程度をかけることしかできない。
だんだんと麻酔も解けていって（健康な）左足の膝を立てたりして必死に耐える。腕で上半身を捻ってなんとか紛らそうとする。が、どうやら（手術の対象だった）右足にはかなり重いものが上から乗っていて動きを制限してくる。それが患部を冷やす氷であることにはこの過程でようやく気づくのである。
手術終了から4時間ほど経った19時頃だったろうか、まだ痺れは残るものの、なんとか麻酔が薄れて、排泄機構の感覚が戻って来たように感じられた。再びシビンチャレンジだ。身体を横にできないので、上を向いたまま股の間に無理矢理シビンをねじ込んで排泄する。「これ、女の方だと大変なんですよー」という暢気な看護士さんのセリフを聞き流し、ゆっくりだがようやく大量の膀胱の中身を排泄できた。
もう、なんとも言えない素晴らしい開放感である。苦しい感覚をようやく乗り越えた！もう大丈夫だ！
甘い。
...甘かった。
続く。
nobilesの投稿(20:29:20-2009-09-27) -
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