NOBILES Days
Jump to navigationMy wife, her breast cancer and her family(6) - wanna see your face and show my face to you
いつもワインを買っている近所の酒屋が、3週連続のお祭りをやった。
店の駐車場に、テントをいくつか張って席を作り、各種のお酒の杯売りをしたり、元料理人である店長が肉を焼いたり、蔵元さんらを招いてお酒のセミナーが開かれたりする、酒好きにとっては実に琴線をくすぐられる内容なのだ。
俺は当然のように3週連続で行くつもりだったが、日本酒祭りの1週目は、ちょいと（酒屋とは関係ないところで）嫌なことがあって気乗りがしなくなって、結局行かなかった。...その反動だろうか。2週目のワイン祭りでは、2桁の数字を当てる「ロト2」なるゲームでさっくりと8000円のワインが当たってしまった。さらにさらに、3週目の麦焼酎祭りでは、じゃんけん4連勝を果たし、5000円の焼酎をもらってしまった。なんてこった！
でもまあ、お祭りだからと、結構いいお値段のおつまみやらお酒やらでかなりお金を落としてる気もするが、それでも嬉しいものだ。こうしてますますあそこのお店にはまってしまうんだよね。
さて、遅々として進んでいなかった、乳がん手記を進めよう。
いや実は、前回の乳がん検診の話をまとめるのに割と難儀したところはあったので、それもなんとかこなしたところで、多少ペースを上げていこうか。
伏見稲荷
(PentaxK-3, PentaxDA15mmLimitedF4.0, 1/8sec, F4.0, ISO1250)
あ、こちらは去年の京都の写真。このテーマの時のトビラ写真は去年の京都の写真って決まってるの、俺の中で（こんなにダラダラ間が空くとは思ってなかったのは内緒）。
自分で胸に違和感を感じたヨメさんは、勤務先近くの乳腺外来で検査をした。その結果はなんと陽性だった。それどころか「がんセンターに紹介状を書くから」と医師から通達されたのだった。
そしてがんセンターでの最初の診察で、俺たちはあっさりと「乳がんです」という宣告を受けた。2015年7月29日のことだ。
初日の検査が終わった。検査はあと2日行う予定だったが、治療方針を決めるのはその結果が出る8/7だということで、残りの2日については、俺は付き添わずに出勤することにした。現に、7/30はMRIだけが行われ、医師と顔を合わせることすらなかったそうだ。だが翌7/31の針生検は、先生が直接患部から細胞を採取する検査だ。それぞれの検査の内容については、前回の記事を参照されたい。
そこでも触れているように針生検とは、麻酔をしたうえで、細胞診よりも太い針状の器具で患部組織を採取する組織診だ。麻酔下とは言え何本も針を刺されて、ヨメさんはかなり辛かったようだ。その上、先生からはこれまでの俺たちの想像からは大きくかけ離れた語句を聞かされることになったのだ。
「手術は恐らく全摘になると思います。」
さすがにヨメさんもショックを受けた。
それで、診察が終わるとすぐに、本書の冒頭にあるように俺に電話をかけてきたのだ。
「全部採るって...そんなに酷いのかな。わたし、死ぬのかな。」
いつも比較的淡々としているヨメさんが、相当にショックを受け、極めてネガティブな弱音を口にしたことがまた、「全摘」という言葉とともに俺の心を揺さぶった。強い光を浴びたように、意識の奥底に残光がいやらしく残って絡みついてくるような感覚を覚えた。
正直、俺はどう対処していいのか分からなかった。考えてみると、乳がんというものについて、俺はあまりに知識がなかった。根拠を持って話す材料が何もなかったのだ。情けないことに、「気を落とすなよ」くらいの当たり障りのないことしか言えずに電話を切って、自席に戻った。
...だがほどなく、俺は家に帰ることを決めた。「死ぬのかな？」なんて口にしたヨメさんに、真っ先に会いに行かなくてどうする。
それより何より、俺はどうしてこの日、検査に付き添ってやらなかったんだ！
実はこの日は俺の所属する部署から異動する人の送別会の予定だった。愚かな俺は、ヨメさんの電話を受けるまでは出席するつもりでいた。「お前はバカか」と言われそうだが、言い訳すれば、この日は検査だけだと思っていたし、そもそも、右の胸にしこりがあるというだけで、ヨメさんはいつも通りの元気なヨメさんだったからだ。
いつも通りなのに、切除しなければならない重大な障害を抱えている。それがこの病気のまた恐ろしいところだ。
それはともかく、送別会の幹事さんに、家の都合で急用ができたので帰る旨伝えた。会費を既に払っていたが、後で返還できるようにすると言ってくれた。
既に病気の件を軽く報告してあった上司たちにも事情を説明し、帰ることを伝えた。「今はそれを最優先してください」と理解してくれた。
返す刀で、この時関わっていた、別の部のプロジェクトのリーダーにも帰る旨を伝えた。すると、向こうから
「少しだけお時間ありますか？」
と言うので、休憩スペースのようなところで隣り合わせに座って話をすることになった。
この局面において、なんの話だろうと思ったら実は、俺とそう大きく歳の変わらない彼は、ご尊父を肺がんで亡くしたそうだ。また、奥さんが看護師をされているのもあって、いろいろとがんについても知っているということだった。
プロジェクトリーダーは、手短にそうした話をした上でこう続けた。
「最初で治療のやり方を間違ったら大変なことになります。検査の結果をよく聞いて、ご本人ともよく話し合ってください。切り離す...というより「切り離せる」ということは、助かるということですから。切り離すことさえできない、延命することしかできない人はたくさんいます。間違わなければ絶対大丈夫ですよ。
お子さんも小さいですし、どうかこちらのことは気にしないで、しっかり支えてあげてください。仕事なんてどうにでもなりますから。」
経験に基づくアドバイスと、力強いエールだった。
余談になるが、そのプロジェクトは本来、この4ヶ月ほど前に終了しているはずだった。それが、完了するどころか、空中分解に近い形になっていた。前任リーダーでは収拾がつかなくなって、メンバーをほぼ総とっかえして立て直すことになった。
その時、ほぼ事前知識なく、いきなり新プロジェクトリーダーに任命されたのが彼だった。
様々な情報がぐちゃぐちゃに散乱していたのを、いろんな人の知見を使って整理し、なんとか軌道に乗せてきた有能な人物だ。それができるのは、こうして、ちゃんと相手の目線になって考えることができるからなんだろう。そうやって、信頼を得ることで人を動かすことができる。
そんなプロジェクトリーダーに恭しくお辞儀をして、俺は帰路についた。
ケータイを見ると、ヨメさんからメッセージが届いていた。
「早く帰って来れないかな？不安すぎるよ。」
...繰り返すが、ヨメさんがこんなに女々しいことを言うのは極めて珍しいことだった。
それはそうだ。つい2週間前までなんの不安もなく、旅行に行ったり、楽しく暮らしていたのに、いきなり、命に関わる深刻な病気であり、それを取り除くために身体を切り刻まれることを宣告されたのだ。
「分かった。実はもう帰りの電車だよ。すぐに顔見たいし、顔見せたいよ。」
つづく。
店の駐車場に、テントをいくつか張って席を作り、各種のお酒の杯売りをしたり、元料理人である店長が肉を焼いたり、蔵元さんらを招いてお酒のセミナーが開かれたりする、酒好きにとっては実に琴線をくすぐられる内容なのだ。
俺は当然のように3週連続で行くつもりだったが、日本酒祭りの1週目は、ちょいと（酒屋とは関係ないところで）嫌なことがあって気乗りがしなくなって、結局行かなかった。...その反動だろうか。2週目のワイン祭りでは、2桁の数字を当てる「ロト2」なるゲームでさっくりと8000円のワインが当たってしまった。さらにさらに、3週目の麦焼酎祭りでは、じゃんけん4連勝を果たし、5000円の焼酎をもらってしまった。なんてこった！
でもまあ、お祭りだからと、結構いいお値段のおつまみやらお酒やらでかなりお金を落としてる気もするが、それでも嬉しいものだ。こうしてますますあそこのお店にはまってしまうんだよね。
さて、遅々として進んでいなかった、乳がん手記を進めよう。
いや実は、前回の乳がん検診の話をまとめるのに割と難儀したところはあったので、それもなんとかこなしたところで、多少ペースを上げていこうか。
伏見稲荷
(PentaxK-3, PentaxDA15mmLimitedF4.0, 1/8sec, F4.0, ISO1250)
あ、こちらは去年の京都の写真。このテーマの時のトビラ写真は去年の京都の写真って決まってるの、俺の中で（こんなにダラダラ間が空くとは思ってなかったのは内緒）。
自分で胸に違和感を感じたヨメさんは、勤務先近くの乳腺外来で検査をした。その結果はなんと陽性だった。それどころか「がんセンターに紹介状を書くから」と医師から通達されたのだった。
そしてがんセンターでの最初の診察で、俺たちはあっさりと「乳がんです」という宣告を受けた。2015年7月29日のことだ。
初日の検査が終わった。検査はあと2日行う予定だったが、治療方針を決めるのはその結果が出る8/7だということで、残りの2日については、俺は付き添わずに出勤することにした。現に、7/30はMRIだけが行われ、医師と顔を合わせることすらなかったそうだ。だが翌7/31の針生検は、先生が直接患部から細胞を採取する検査だ。それぞれの検査の内容については、前回の記事を参照されたい。
そこでも触れているように針生検とは、麻酔をしたうえで、細胞診よりも太い針状の器具で患部組織を採取する組織診だ。麻酔下とは言え何本も針を刺されて、ヨメさんはかなり辛かったようだ。その上、先生からはこれまでの俺たちの想像からは大きくかけ離れた語句を聞かされることになったのだ。
「手術は恐らく全摘になると思います。」
さすがにヨメさんもショックを受けた。
それで、診察が終わるとすぐに、本書の冒頭にあるように俺に電話をかけてきたのだ。
「全部採るって...そんなに酷いのかな。わたし、死ぬのかな。」
いつも比較的淡々としているヨメさんが、相当にショックを受け、極めてネガティブな弱音を口にしたことがまた、「全摘」という言葉とともに俺の心を揺さぶった。強い光を浴びたように、意識の奥底に残光がいやらしく残って絡みついてくるような感覚を覚えた。
正直、俺はどう対処していいのか分からなかった。考えてみると、乳がんというものについて、俺はあまりに知識がなかった。根拠を持って話す材料が何もなかったのだ。情けないことに、「気を落とすなよ」くらいの当たり障りのないことしか言えずに電話を切って、自席に戻った。
...だがほどなく、俺は家に帰ることを決めた。「死ぬのかな？」なんて口にしたヨメさんに、真っ先に会いに行かなくてどうする。
それより何より、俺はどうしてこの日、検査に付き添ってやらなかったんだ！
実はこの日は俺の所属する部署から異動する人の送別会の予定だった。愚かな俺は、ヨメさんの電話を受けるまでは出席するつもりでいた。「お前はバカか」と言われそうだが、言い訳すれば、この日は検査だけだと思っていたし、そもそも、右の胸にしこりがあるというだけで、ヨメさんはいつも通りの元気なヨメさんだったからだ。
いつも通りなのに、切除しなければならない重大な障害を抱えている。それがこの病気のまた恐ろしいところだ。
それはともかく、送別会の幹事さんに、家の都合で急用ができたので帰る旨伝えた。会費を既に払っていたが、後で返還できるようにすると言ってくれた。
既に病気の件を軽く報告してあった上司たちにも事情を説明し、帰ることを伝えた。「今はそれを最優先してください」と理解してくれた。
返す刀で、この時関わっていた、別の部のプロジェクトのリーダーにも帰る旨を伝えた。すると、向こうから
「少しだけお時間ありますか？」
と言うので、休憩スペースのようなところで隣り合わせに座って話をすることになった。
この局面において、なんの話だろうと思ったら実は、俺とそう大きく歳の変わらない彼は、ご尊父を肺がんで亡くしたそうだ。また、奥さんが看護師をされているのもあって、いろいろとがんについても知っているということだった。
プロジェクトリーダーは、手短にそうした話をした上でこう続けた。
「最初で治療のやり方を間違ったら大変なことになります。検査の結果をよく聞いて、ご本人ともよく話し合ってください。切り離す...というより「切り離せる」ということは、助かるということですから。切り離すことさえできない、延命することしかできない人はたくさんいます。間違わなければ絶対大丈夫ですよ。
お子さんも小さいですし、どうかこちらのことは気にしないで、しっかり支えてあげてください。仕事なんてどうにでもなりますから。」
経験に基づくアドバイスと、力強いエールだった。
余談になるが、そのプロジェクトは本来、この4ヶ月ほど前に終了しているはずだった。それが、完了するどころか、空中分解に近い形になっていた。前任リーダーでは収拾がつかなくなって、メンバーをほぼ総とっかえして立て直すことになった。
その時、ほぼ事前知識なく、いきなり新プロジェクトリーダーに任命されたのが彼だった。
様々な情報がぐちゃぐちゃに散乱していたのを、いろんな人の知見を使って整理し、なんとか軌道に乗せてきた有能な人物だ。それができるのは、こうして、ちゃんと相手の目線になって考えることができるからなんだろう。そうやって、信頼を得ることで人を動かすことができる。
そんなプロジェクトリーダーに恭しくお辞儀をして、俺は帰路についた。
ケータイを見ると、ヨメさんからメッセージが届いていた。
「早く帰って来れないかな？不安すぎるよ。」
...繰り返すが、ヨメさんがこんなに女々しいことを言うのは極めて珍しいことだった。
それはそうだ。つい2週間前までなんの不安もなく、旅行に行ったり、楽しく暮らしていたのに、いきなり、命に関わる深刻な病気であり、それを取り除くために身体を切り刻まれることを宣告されたのだ。
「分かった。実はもう帰りの電車だよ。すぐに顔見たいし、顔見せたいよ。」
つづく。
nobilesの投稿(00:49:00-2018-11-13) -
カテゴリ: Breast Cancer
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