NOBILES Days
Jump to navigationLotus Blossoms(8) --- Floating Ventury "88"
幸か不幸か分からないが、ボンクラリーダーから解放されて年明けからグループを移って以降、仕事が忙しい。もっと早く移れていれば多少は、とも思うが、まあ誤差の範疇だろう。
もっと忙しい業種の人はいくらでもいるだろうが、平日子どもが寝るか寝ないかの時間に帰って来て、週末どちらかは出勤という暮らしは、子どもとの時間が少なく、少し辛い。ま、それもまずは春までの辛抱だ。
とりあえず、明日はまた3時間かけて出張だ。
さて、と。
またまた間が空いちゃったけどLotus食玩勝手に解説コーナー。
まだ続いてたの！？...バカ言え、俺はしぶといんだよ。
Lotus88
前回、大きく分けて2つのテーマについて書いた。一つは安全性を置き去りにして悪魔的なコーナーリングスピードを身につけたベンチュリーカーの進化について。もう一つは、国際自動車連盟FIAの下部組織でモータースポーツの統括を行うFISAと、F-1チームが結託して立ち上げた団体FOCAとの対立と和解についてである。
和解によりFOCAが興行権を得た一方、スポーツとしての運営権はFISAが持つことが明確になったので、予定通りスライディングスカートの禁止と車高6cm規定が1981年から適用されることになった。これにより、革命的だったベンチュリーカーの効果は大きく削がれることが予想されていた。
ところが、F-1デザイナーたちはそんなに素直なわけがないのである。そんな規則など、ほぼ無効化してしまうようなアイディアをすぐに投入してくるのである。
実行したのは、FOCA会長エクレストンのお膝元、Brabhamのゴードン・マーレイだ。言わずもがな、あの「ファンカー」BT46Bを繰り出した張本人である。
今回の裏ワザも、極めて明快である。マーレイは、ハイドロニューマチックサスペンションを採用した。これは通常のサスにシリンダーが組み合わされたもので、静止時＝車検時には6cmの車高を保っているが、コース上で走り始めると同時にシリンダーが縮んでグッと従来と同じ程度まで車高が下がるというものだ。車検時にはちゃんと6cmの車高に戻るから失格にしようがない。この仕組みはあっという間に他のチームにも伝播した。
BrabhamBT49C
さらに、禁止されたスライディングスカートの遮蔽効果を少しでも補うべく、各チームはここにゴムのスカートを装着してきた。ハイドロニューマチックサスと組み合わせることによって、コース上で車高を落とすと、ゴムスカートが路面と接触して空気をシールするわけだ。驚くべきことに、コースに合わせてタイヤを選ぶように、ゴムスカートの硬さ選びが重要なセッティング項目になるほどだった。
これらの工夫によって’81年のF-1マシンでは、前年と同等以上のダウンフォースレベルが達成されてしまった。と、同時にポーパシングや安全性の問題は置き去りのままになった。
さて、ようやく話をLotusに戻そう。
Lotusは、こうした’81年の開幕戦を、前々回紹介した81で戦った。しかしその裏で、ベンチュリーカーの発明者でもある彼らは、それが抱える問題を根本解決するマシンの完成を目前にしていた。
ベンチュリーカーでは、ダウンフォースの獲得が最優先された。ベンチュリーを最も効果的な高さに保つため、本来は路面からのショックを吸収しつつ、タイヤを適切に路面に追従させる役割があるサスペンションはガチガチに固められた。
しかしそれは、路面のショックが減衰されずに直接マシンに伝わることになる。ドライバーに対して極めて強大な負荷となったし、姿勢が安定しない以上、ポーパシングも深刻化することになった。
そこでLotusの総帥、コーリン・チャップマン達が考えたのは、ダウンフォースを得るための空力機構と、タイヤを効果的に働かせるメカニカル機構の分離であった。すなわち、ウィングの黎明期のように、空力ダウンフォースをバネ下に直接伝えるのである。タイヤだけに力をかけるイメージだ。そうすればサスペンションは本来の働きに集中できる。
理屈は明快だが、これを実現するのは難しい。
もともと、ウィングのバネ下マウントも、サスの動きによってウィングやウィングステーが変形し破損したことで禁止された。また、可動空力パーツ禁止レギュレーションもある。さらに言えば、ここで課題となっている空力パーツは、ウィングよりもはるかに巨大なパーツであるベンチュリーだ。
だが、Lotusは果敢にもベンチュリーをバネ下に接続する方法を実行する。サスペンションアーム上にベンチュリーを載せるというのだ。
この時、Lotusは一計を案じる。サスアームとベンチュリーの間はスプリングで接続された。すなわち静止状態では、6cmの車高を保つレギュレーションを満たしつつ、走行してベンチュリーによる空力ダウンフォースが効いてくるとベンチュリーが沈み込んで路面と接触するというわけである。
だが、これだけではこのベンチュリーはバネ下に接続されているし、シャシーと分離された可動パーツとされてしまうだろう。しかし、接続に使ったスプリングにはこれを回避する目的もあった。
すなわち、これはサスペンション＝縣架装着だというのである。そして、そこに載ったベンチュリー構造は、縣架装着を介して4つのタイヤによって支えられたシャシー（車体）だと言うのである。
そう、この構造は「ツインシャシー」と名付けられた。ベンチュリー構造自体がシャシーであると解釈すれば可動もくそもない。接続しているスプリングをサスペンションであると解釈すれば、ベンチュリーはバネ上に存在することになる。空力パーツではないか、という指摘を免れるため、ベンチュリー側のシャシーはプライマリーシャシー、ドライバーやエンジンなどが載るシャシーはセカンダリーシャシーとまで呼んだ。
Lotus88
ものすごい発想の転換だった。
空力と車体の分離、固定スカートと車高の問題をことごとく解決した上、レギュレーションの壁も越えようとした。
86と名付けられたテストシャシーでメドを立てたLotusは、満を辞してレース用の本命シャシー88を完成させる。
88の革命的な特徴はツインシャシーだけではない。88はカーボンファイバー製のモノコックを採用していた。「F-1初」という肩書はわずか2日という発表日の差でジョン・バーナードがデザインしたMcLaren MP4に譲ったが、現代F-1において当たり前の装備の先駆けというわけだ。
果たして'81年第2戦に持ち込まれた88はレース前の車検をパスした。そして、フリー走行にも出走した。
しかし、そのマシンの意味するところを悟った他チーム（特にWilliams）によって猛抗議を受け、結局予選を前に出走不可とされてしまう。結局このグランプリの残りの走行は81が担った。
だが、Lotusは諦めずにその後のGPでも88を持ち込んで車検に臨んでいる。だが、そのどれも不通過だった。
そこで地元イギリスGPには、ツインシャシーであるという根拠とするために、ラジエターをプライマリーシャシー（ベンチュリー側）に移設した88Bを持ち込んだが、これも不通過だった。
結局Lotusは「プライマリーシャシー」ことベンチュリーを「セカンダリーシャシー」に固定した87というシャシーを一晩にして仕立て、イギリスGPに臨んだ。そして二度と、88はF-1レースには持ち込まれなかった。
88の、フローティングベンチュリーというアイディア、そしてそれを実現した技術力は極めて素晴らしいものがある。実際、現代行われているヒストリックF-1レースでも88は最速タイムを出すなど、活躍しているのだ。ただ、可動空力パーツ禁止条項に対し、「ツインシャシー」という主張はいささか強弁過ぎた感は否めない。しかし、一応は筋の通った主張を組み立てるあたり、さすがはコーリン・チャップマンだ、と言える。
しかし、88が陽の目を見なかったことで、チャップマンはF-1への熱意が衰え、ウルトラライトプレーンにのめり込んでいった。
とは言え、ベンチュリーの問題、ポーパシングに対する取り組みは継続させており、アクティブサスペンションはその一環だ。
さて実は俺、かつてホームページやメルマガで88について熱く語ったところ、日本で88を所有している方から、連絡をいただき、実走してる写真や動画を収めたDVD-Rを送っていただいたことがある。最初は半信半疑だったが、ちゃんと送られてきた。
この方はしっかり事業で成功し、レーシングカーを文化として残す活動をしているようだ。
ヒストリックレースの動画では、メカニックがマシンのノーズを押すと、カウルがググッと沈み込む様子が映っていた。
プライマリーシャシーとセカンダリーシャシーの結合の様子がよく分かる写真
いずれ、是非生で走っているところを見てみたいマシンだ。
さて、次回は1982年の話をしようかな。食玩なんて、全然どうでも良くなってない？？
つづく。
もっと忙しい業種の人はいくらでもいるだろうが、平日子どもが寝るか寝ないかの時間に帰って来て、週末どちらかは出勤という暮らしは、子どもとの時間が少なく、少し辛い。ま、それもまずは春までの辛抱だ。
とりあえず、明日はまた3時間かけて出張だ。
さて、と。
またまた間が空いちゃったけどLotus食玩勝手に解説コーナー。
まだ続いてたの！？...バカ言え、俺はしぶといんだよ。
Lotus88
前回、大きく分けて2つのテーマについて書いた。一つは安全性を置き去りにして悪魔的なコーナーリングスピードを身につけたベンチュリーカーの進化について。もう一つは、国際自動車連盟FIAの下部組織でモータースポーツの統括を行うFISAと、F-1チームが結託して立ち上げた団体FOCAとの対立と和解についてである。
和解によりFOCAが興行権を得た一方、スポーツとしての運営権はFISAが持つことが明確になったので、予定通りスライディングスカートの禁止と車高6cm規定が1981年から適用されることになった。これにより、革命的だったベンチュリーカーの効果は大きく削がれることが予想されていた。
ところが、F-1デザイナーたちはそんなに素直なわけがないのである。そんな規則など、ほぼ無効化してしまうようなアイディアをすぐに投入してくるのである。
実行したのは、FOCA会長エクレストンのお膝元、Brabhamのゴードン・マーレイだ。言わずもがな、あの「ファンカー」BT46Bを繰り出した張本人である。
今回の裏ワザも、極めて明快である。マーレイは、ハイドロニューマチックサスペンションを採用した。これは通常のサスにシリンダーが組み合わされたもので、静止時＝車検時には6cmの車高を保っているが、コース上で走り始めると同時にシリンダーが縮んでグッと従来と同じ程度まで車高が下がるというものだ。車検時にはちゃんと6cmの車高に戻るから失格にしようがない。この仕組みはあっという間に他のチームにも伝播した。
BrabhamBT49C
さらに、禁止されたスライディングスカートの遮蔽効果を少しでも補うべく、各チームはここにゴムのスカートを装着してきた。ハイドロニューマチックサスと組み合わせることによって、コース上で車高を落とすと、ゴムスカートが路面と接触して空気をシールするわけだ。驚くべきことに、コースに合わせてタイヤを選ぶように、ゴムスカートの硬さ選びが重要なセッティング項目になるほどだった。
これらの工夫によって’81年のF-1マシンでは、前年と同等以上のダウンフォースレベルが達成されてしまった。と、同時にポーパシングや安全性の問題は置き去りのままになった。
さて、ようやく話をLotusに戻そう。
Lotusは、こうした’81年の開幕戦を、前々回紹介した81で戦った。しかしその裏で、ベンチュリーカーの発明者でもある彼らは、それが抱える問題を根本解決するマシンの完成を目前にしていた。
ベンチュリーカーでは、ダウンフォースの獲得が最優先された。ベンチュリーを最も効果的な高さに保つため、本来は路面からのショックを吸収しつつ、タイヤを適切に路面に追従させる役割があるサスペンションはガチガチに固められた。
しかしそれは、路面のショックが減衰されずに直接マシンに伝わることになる。ドライバーに対して極めて強大な負荷となったし、姿勢が安定しない以上、ポーパシングも深刻化することになった。
そこでLotusの総帥、コーリン・チャップマン達が考えたのは、ダウンフォースを得るための空力機構と、タイヤを効果的に働かせるメカニカル機構の分離であった。すなわち、ウィングの黎明期のように、空力ダウンフォースをバネ下に直接伝えるのである。タイヤだけに力をかけるイメージだ。そうすればサスペンションは本来の働きに集中できる。
理屈は明快だが、これを実現するのは難しい。
もともと、ウィングのバネ下マウントも、サスの動きによってウィングやウィングステーが変形し破損したことで禁止された。また、可動空力パーツ禁止レギュレーションもある。さらに言えば、ここで課題となっている空力パーツは、ウィングよりもはるかに巨大なパーツであるベンチュリーだ。
だが、Lotusは果敢にもベンチュリーをバネ下に接続する方法を実行する。サスペンションアーム上にベンチュリーを載せるというのだ。
この時、Lotusは一計を案じる。サスアームとベンチュリーの間はスプリングで接続された。すなわち静止状態では、6cmの車高を保つレギュレーションを満たしつつ、走行してベンチュリーによる空力ダウンフォースが効いてくるとベンチュリーが沈み込んで路面と接触するというわけである。
だが、これだけではこのベンチュリーはバネ下に接続されているし、シャシーと分離された可動パーツとされてしまうだろう。しかし、接続に使ったスプリングにはこれを回避する目的もあった。
すなわち、これはサスペンション＝縣架装着だというのである。そして、そこに載ったベンチュリー構造は、縣架装着を介して4つのタイヤによって支えられたシャシー（車体）だと言うのである。
そう、この構造は「ツインシャシー」と名付けられた。ベンチュリー構造自体がシャシーであると解釈すれば可動もくそもない。接続しているスプリングをサスペンションであると解釈すれば、ベンチュリーはバネ上に存在することになる。空力パーツではないか、という指摘を免れるため、ベンチュリー側のシャシーはプライマリーシャシー、ドライバーやエンジンなどが載るシャシーはセカンダリーシャシーとまで呼んだ。
Lotus88
ものすごい発想の転換だった。
空力と車体の分離、固定スカートと車高の問題をことごとく解決した上、レギュレーションの壁も越えようとした。
86と名付けられたテストシャシーでメドを立てたLotusは、満を辞してレース用の本命シャシー88を完成させる。
88の革命的な特徴はツインシャシーだけではない。88はカーボンファイバー製のモノコックを採用していた。「F-1初」という肩書はわずか2日という発表日の差でジョン・バーナードがデザインしたMcLaren MP4に譲ったが、現代F-1において当たり前の装備の先駆けというわけだ。
果たして'81年第2戦に持ち込まれた88はレース前の車検をパスした。そして、フリー走行にも出走した。
しかし、そのマシンの意味するところを悟った他チーム（特にWilliams）によって猛抗議を受け、結局予選を前に出走不可とされてしまう。結局このグランプリの残りの走行は81が担った。
だが、Lotusは諦めずにその後のGPでも88を持ち込んで車検に臨んでいる。だが、そのどれも不通過だった。
そこで地元イギリスGPには、ツインシャシーであるという根拠とするために、ラジエターをプライマリーシャシー（ベンチュリー側）に移設した88Bを持ち込んだが、これも不通過だった。
結局Lotusは「プライマリーシャシー」ことベンチュリーを「セカンダリーシャシー」に固定した87というシャシーを一晩にして仕立て、イギリスGPに臨んだ。そして二度と、88はF-1レースには持ち込まれなかった。
88の、フローティングベンチュリーというアイディア、そしてそれを実現した技術力は極めて素晴らしいものがある。実際、現代行われているヒストリックF-1レースでも88は最速タイムを出すなど、活躍しているのだ。ただ、可動空力パーツ禁止条項に対し、「ツインシャシー」という主張はいささか強弁過ぎた感は否めない。しかし、一応は筋の通った主張を組み立てるあたり、さすがはコーリン・チャップマンだ、と言える。
しかし、88が陽の目を見なかったことで、チャップマンはF-1への熱意が衰え、ウルトラライトプレーンにのめり込んでいった。
とは言え、ベンチュリーの問題、ポーパシングに対する取り組みは継続させており、アクティブサスペンションはその一環だ。
さて実は俺、かつてホームページやメルマガで88について熱く語ったところ、日本で88を所有している方から、連絡をいただき、実走してる写真や動画を収めたDVD-Rを送っていただいたことがある。最初は半信半疑だったが、ちゃんと送られてきた。
この方はしっかり事業で成功し、レーシングカーを文化として残す活動をしているようだ。
ヒストリックレースの動画では、メカニックがマシンのノーズを押すと、カウルがググッと沈み込む様子が映っていた。
プライマリーシャシーとセカンダリーシャシーの結合の様子がよく分かる写真
いずれ、是非生で走っているところを見てみたいマシンだ。
さて、次回は1982年の話をしようかな。食玩なんて、全然どうでも良くなってない？？
つづく。
nobilesの投稿(23:41:07-2013-01-24) -
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