NOBILES Days
Jump to navigationSplit and Reborn (2/2)
今日で結婚（式）から10年経ってしまった。
幸いにして致命的な仲違いもなくやってこれた。が、この10年を思い返せば、環境の変化に目が眩むようだ。
まあそれでも、一応2人の娘にも恵まれ、賑やかに暮らしてるんだから悪くはない。20年目でも笑っていられればいいね。
インナーイヤーヘッドフォン、Shure SE530のカスタムリモールド化の件、後編だよ。
Split and Reborn
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/5sec, F4.0, ISO100)
さて、耳型採取会がどれくらい混むのか読めない。店のブログでは「大好評！」「お時間かかる場合があります」なんて書いてあるし...。わざわざ2時間近くかけて行って耳型採れないのはダメージがでかい。よく見ると、当日のみ電話予約が可能と書いてある。そこで、いざ当日、開店2時間前から30分おきずつくらいに電話した。だが、なかなか留守電から切り替わらない。結局11時の開店直前になってつながった。
あれ？あっさり予約できたぞ (^_^;。
その行きの電車の中では、もう崩してしまうSE530を使った。付属していたコンプライイヤーチップは耳栓並みの遮音性で、快適な音環境を整えてくれるが、外耳道を押し広げるように膨らむので少し閉塞感があった。耳に合うようになればそれも改善され、音質も進化して帰ってくるはずだ。そう思ったらかなりワクワクしてきた。
アキバの店は、俺が怪我をした直後くらいに、狭い店舗から広い店舗に移転した上、カスタムイヤーモニター専門店が独立してできた。まったく驚きである。超ニッチジャンルだぞ (^_^;。
その店舗には地下があって、そこが耳型採取用の部屋になっていた。怪我が全快していないので、まだ下りは苦手だが、なんとか階段を降りた。結構急だ。予約者である旨を告げて、レジの女性に耳型採取代を払って10分ほど待つと、レジの奥のパーティションの中に呼ばれた。
パーティションの中は、さらに2つの小部屋に区切られていて、俺は手前の部屋に入った。そこには多分歳は俺と同じか、もう少し若いくらいの細身の男性がいた。この人が耳型を採取するようだ。ジーンズにネルシャツかなんか着て、意外とラフな服装だ。
最初に、調査票のようなものを記入する。耳型採取は医療行為に近い作業になるので、例えば耳の手術などで形が大きく変わっていないかだとか、免責事項だとか、そういうことをチェックし、署名する。その間にもネルシャツ氏は奥のパーティションでもう1人の耳型採取をやっている。
あれ？その用紙の右肩に「大阪◯◯補聴器」と書かれてる。どうやらこの人は大阪からわざわざ出張してきているようだ。そうか、だから料金が少し高いのか！
誓約書的な書類に署名したら、早速耳型採取開始だ。一応前日に耳掃除はしておいたが、しつこい耳垢が残っていないか心配だった。しかし大阪の補聴器屋さんは、ささっと耳の中を観察すると、すぐに薄いスポンジ状のものを耳に入れ始めた。
「結構耳穴が狭い上に、入口からすぐに曲がってますね。なかなか合うヘッドフォンがなかったでしょう」
ああ、やっぱりそうなんスか。
「カスタムでしっかり合ったもの作れば、絶対いい音で聴けますよ。」
うーむ、ますます楽しみになってきた。
さて、最初に入れたスポンジ状のものには糸がついていて、耳の外まで垂れていた。これが鼓膜の手前に挿入されることで、耳型の先端部になる。
「かなり狭くて曲がってるということで、一発でうまく採るのは難しいかもしれません。2回耳型採りますが、1回目でコツをつかんで2回目がバッチリとれるような心持ちで行きますね」
素直にそう言ってくれるのはいいね。
というわけで、耳型本体となるシリコンの挿入だ。タッパーのような容器に黄緑色のシリコンが入っている。そこから、大きめのスプーンのようなもので適量を掬って注射器状のものに装填する。きっとこの量ってのがノウハウなんだろうなあ。
「はい、では割り箸を軽く噛んでくださいー。ここからはお話しできませんよー」
事前に渡されていた割り箸を咥える。完全に口を閉じたままで型をとってモニターを作ると、口を開いたときにきつく感じることがあるので、こういう工夫をするらしい。なかなか間抜けな姿になる。
耳型採取中
補聴器屋氏が撮ってくれた
(iPhone5, 1/30sec, F2.4, ISO50)
そしてまず右耳に、注射器状のものでシリコンが注入されていく。わずかな圧迫感を感じるが、不快というほどではない。10〜20秒程度であっさりと注入が終わった。椅子を回転させて、左耳にも同様に注入する。
5分ほどでシリコンが固まるので、今度は耳から取り出す。すぐに、補聴器屋氏が、取り出した耳型をチェックする。
「あ、結構綺麗にとれてますね」
テーブルの上にその耳型が置かれた。大きなカタツムリのような物体だ。
耳型（インプレッション）
(iPhone5, 1/60sec, F2.4, ISO50)
1回の採取で2セットとるので、同じこと左右の耳で行った。結局幸い2セット4個の型とも割と綺麗に採れたようだ。
補聴器屋氏がこれらの耳型をじっくり観察し、少し手直しをしたりしつつ、より状態のいいペアを袋に入れ赤丸をペンで書いた。
「こっちの方を優先ということで渡してください。2セットありますが、製作中の事故なども考えて、2セットとも提出してくださいね」
安くはない採取料金なので、ケチりたいとこだが、確かに、遠く離れた客の耳にぴったり合うものを作るためにはスペアが必要というのも分かる話だ。それに、採取してから年月が経つと型も耳自体も変化するので精度が落ちてしまう。ここは2個とも提出しよう。
左右の耳型ペアが1組ずつ入った小さな紙袋を2つ持って階段を上がって1階のカスタム専門店内に戻ると、すぐに店長（って言っても20代みたいだけど）に声をかけた。
「Roothのリモールドを考えてるんですが。」
Roothは中国のメーカーだが、早くからダイナミックとBAのハイブリッドのカスタムに取り組むなど、なかなか注目のカスタムメーカーだ。F-1関連のコミュニティで懇意にさせていただいたオーディオ好きの方も、まさにそのハイブリッドを買っていた。
Roothはリモールドも積極的に展開している。今回はSE530をRoothに託すことにしたのだ。
シェルの色が透明なら、他の色より数千円安くなる。一方プレートに模様を付けたり、メーカーロゴを入れたりすると、いちいち5000円のオプション代がかかってしまう。
シェルがクリアというのはいい（BAユニットとか内部を観察できるので）が、全部クリアというのも貧乏くさい。プレートはカーボン地にすることにした。メーカーロゴはワンポイントで欲しいところだったが、それで5000円は高いのでやめた。
ホームページ上で納期は3ヶ月程度と書かれていたので覚悟していたが、店長によると、クリアなら1ヶ月半くらいになるかも、ということだった。
期待を胸に秘めつつ、帰路についた。
リモールドカスタムをオーダーしてから1週間ほどで俺は会社に復帰した。
やはり、電車の中でCKWでは周囲の音が聞こえ過ぎる。早くリモールド来ないかなー、でもまだまだだよねー、なんて思いながら忙しく日々の勤務をこなした。
そうしたら、オーダーからちょうど1ヶ月で納品の連絡があった。マジ？もう？？
小躍りしながら、バンドリハの前にちょっくらアキバまで引き取りに行ったのだった。
楽器を担いで、アキバの駅から店に向かう。地味に距離がある。しかも、途中でアイドルのイベントかなんかをやっていて人垣ができている。歩道橋使って上から行けばよかったと後悔しながらも、人を掻き分け歩いて店にたどり着いた。
店では、ハロウィンウィークということで店員が仮装をしていた。それには一切触れずに (^_^;、伝票を渡して品物を出してきてもらう。
ビニールから取り出された直径10cmほどのキャリングポーチの中に、それは鎮座していた。
うおお。紛れもなく、1ヶ月前に採取した俺の耳型がシェルに姿を変え、中にはShureSE530から取り出したと思われるBAユニットが収められていた。
「装着感と、音の確認をお願いします。」
セーラー服を着て、顔に血のりを塗った若い男性店員 (^_^;に促され、早速装着を試みる。
...うっ、なんだこれは。
これまでのインナーイヤー型ヘッドフォンのつもりで装着しようとしても、まったく耳腔に入っていかない。
全然フィットした感はないが、なんとなく固定されたので、接続した自分のプレーヤーの再生を開始する。うああ、全然低音が鳴らない。しかも、頭の10cm後方くらいで音が鳴っているような感覚すらある。
ちゃんと装着できていないのは明白だったが、あまりのヘロヘロな音に、つい店員に対して言葉が出た。
「ちょ、ちょっとゆるい感じが...」
「え？合わないですか？2週間以内なら再作成も可能ですが...」
あああ、すんません、絶対まだハマってないだけっす。
「あ、いや、もう一度やってみますね。」
耳腔に、イヤーモニターのステムが引っかかる感じはあった。これがもっと深く刺さらなければならない。
そこで、無理矢理押し込むのではなく、ステムを中心にして、40〜50°程度回転させて角度を探るようにして少しずつ奥に入れるようにしてみた。耳たぶを押しのけるようにしてイヤーモニターが奥まで入ってくるのが分かった。
「あ、ハマったかもしれません」
曲を再生してみたら、ちゃんと低音が聴こえるようになっていた。
「そうですか、まあ、2週間以内ならリフィットできますから、ちょっと様子見てみてください。
どうですか。リモールドして音変わりました？」
え？変わったも何も、ちゃんとハマった感じがしてから10秒も聴いてないけど。
「あー、まあ、もちろんネットワークとか変わってないんだから、音の傾向は一緒なんですけど。定位がバッチリ決まった感じはありますね」
それはその時点での率直な感想だった。
そのまま付けて店を出ることにして、付属品なんかを袋で受け取り、そそくさとバンドリハに向かうことにした。何しろその日はリハが22時までだったので、先にメシを食おうと思っていたからだ。
リハをやるスタジオがある代々木までの電車の中でも、イヤーモニターの装着感をいろいろ試行錯誤した。どうやら、耳腔のすぐ上に出っ張った耳たぶの内側にがっちり入れないと完全にはハマらないようだ。指で耳たぶを引っ張り上げて、モニターをクリクリ回転させながらその内側に滑り込ませる。
ガチッ
完全にハマった。さっきとは比較にならないくらいガッチリだ。これはもう、装着とか、挿入とかいう表現では既に生ぬるい。「合体」である。
考えてみれば、型までとって形成してるのだから、ガッチリで当然である。
合体が完了したら、音質も全く変わった。
いや、先述のように音自体の傾向はSE530から変わらない。だが、定位の安定感がまず凄い。オリジナル530同様、どちらかと言うと狭めに定位するのだが、定位の鮮明度が大幅に上がっているので、その外側の空間まで再現しているように感じられた。結果、音場が広がった感覚さえおぼえた。さらに、低音の沈み込みが段違いに低くなった。同時に、SuperdartsやCKWよりも薄もやがかかったようだった高音のダイレクト感がかなり上がった。素のSE530ではどんだけ音を逃してたんだよ、とツッコミを入れたくなるほどだ。
何しろ耳型までとって「合体」する代物なので、遮音性はいかほどか、と思っていたが、装着しただけでは実はさほどではない。例えばマクドに行ってコーヒー買うときにも「お砂糖とミルクは？」「あ、砂糖3本でー」とか会話できるくらいは聞こえる。ちなみに砂糖は入れても半分しか入れません。
ところがひとたび再生を開始すると、結構な低音量でも周囲の音は入ってこなくなる。何しろ鼓膜の直近から音が流し込まれているからだ。これならアクティブノイズキャンセルなんてまったく要らない。完璧なリスニング環境と言っていいだろう。
見た目についても触れておこうか。
プレートに入れたカーボン地は角度によって模様が変化して、なかなかいい。メーカーロゴはケチッて入れなかったわけだが、エキセントリック感が増してそれも悪くない。クリアーのシェルは若干ビンボーくさいが、まあ、どうせ耳に隠れちゃうからね。
なので、装着（合体）してしまうと、外からはほぼ、カーボン地しか見えなくなる。その大きさは、インナーイヤー型よりは多少大きいが、いわゆる「耳掛け型」のヘッドフォンよりはかなり小さい。その裏側がみっちり耳たぶの形にハマりこんでいようとは、普通の人が気づくことはないだろう (^_^;。
パッと見なんてことないのに、実はハンパないっていう感じ、かなり好みだ。
(PentaxK-3, PentaxDA16-45mmF4(38.0mm), 2.5sec, F11.0, ISO100)
そんなわけで、同じユニット、ネットワークを使っているはずなのに、聴こえる音のレベルは段違いに上がった。
実を言うと、最初にリモールドについて知った時は「専用設計のハウジングを捨てて作り直すなんて、バランス変わるし、あり得ないでしょ」と思っていた。
だが、特にBAユニットにおいては、ハウジングは付帯的な要素でしかなく、ユニットやネットワークの性能と、それをいかにリスナーの鼓膜に漏れなく伝えるかの方が重要なのだという気がしている。
ここまでの音を聴いちゃうと、普通のインナーイヤー型には戻れないなあ。さすがにオーバーヘッド型の余裕と迫力に満ちた音は再現できないので、しばらくはFocalとの使い分けって形になりそうだね。
幸いにして致命的な仲違いもなくやってこれた。が、この10年を思い返せば、環境の変化に目が眩むようだ。
まあそれでも、一応2人の娘にも恵まれ、賑やかに暮らしてるんだから悪くはない。20年目でも笑っていられればいいね。
インナーイヤーヘッドフォン、Shure SE530のカスタムリモールド化の件、後編だよ。
Split and Reborn
(PentaxK-3, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/5sec, F4.0, ISO100)
さて、耳型採取会がどれくらい混むのか読めない。店のブログでは「大好評！」「お時間かかる場合があります」なんて書いてあるし...。わざわざ2時間近くかけて行って耳型採れないのはダメージがでかい。よく見ると、当日のみ電話予約が可能と書いてある。そこで、いざ当日、開店2時間前から30分おきずつくらいに電話した。だが、なかなか留守電から切り替わらない。結局11時の開店直前になってつながった。
あれ？あっさり予約できたぞ (^_^;。
その行きの電車の中では、もう崩してしまうSE530を使った。付属していたコンプライイヤーチップは耳栓並みの遮音性で、快適な音環境を整えてくれるが、外耳道を押し広げるように膨らむので少し閉塞感があった。耳に合うようになればそれも改善され、音質も進化して帰ってくるはずだ。そう思ったらかなりワクワクしてきた。
アキバの店は、俺が怪我をした直後くらいに、狭い店舗から広い店舗に移転した上、カスタムイヤーモニター専門店が独立してできた。まったく驚きである。超ニッチジャンルだぞ (^_^;。
その店舗には地下があって、そこが耳型採取用の部屋になっていた。怪我が全快していないので、まだ下りは苦手だが、なんとか階段を降りた。結構急だ。予約者である旨を告げて、レジの女性に耳型採取代を払って10分ほど待つと、レジの奥のパーティションの中に呼ばれた。
パーティションの中は、さらに2つの小部屋に区切られていて、俺は手前の部屋に入った。そこには多分歳は俺と同じか、もう少し若いくらいの細身の男性がいた。この人が耳型を採取するようだ。ジーンズにネルシャツかなんか着て、意外とラフな服装だ。
最初に、調査票のようなものを記入する。耳型採取は医療行為に近い作業になるので、例えば耳の手術などで形が大きく変わっていないかだとか、免責事項だとか、そういうことをチェックし、署名する。その間にもネルシャツ氏は奥のパーティションでもう1人の耳型採取をやっている。
あれ？その用紙の右肩に「大阪◯◯補聴器」と書かれてる。どうやらこの人は大阪からわざわざ出張してきているようだ。そうか、だから料金が少し高いのか！
誓約書的な書類に署名したら、早速耳型採取開始だ。一応前日に耳掃除はしておいたが、しつこい耳垢が残っていないか心配だった。しかし大阪の補聴器屋さんは、ささっと耳の中を観察すると、すぐに薄いスポンジ状のものを耳に入れ始めた。
「結構耳穴が狭い上に、入口からすぐに曲がってますね。なかなか合うヘッドフォンがなかったでしょう」
ああ、やっぱりそうなんスか。
「カスタムでしっかり合ったもの作れば、絶対いい音で聴けますよ。」
うーむ、ますます楽しみになってきた。
さて、最初に入れたスポンジ状のものには糸がついていて、耳の外まで垂れていた。これが鼓膜の手前に挿入されることで、耳型の先端部になる。
「かなり狭くて曲がってるということで、一発でうまく採るのは難しいかもしれません。2回耳型採りますが、1回目でコツをつかんで2回目がバッチリとれるような心持ちで行きますね」
素直にそう言ってくれるのはいいね。
というわけで、耳型本体となるシリコンの挿入だ。タッパーのような容器に黄緑色のシリコンが入っている。そこから、大きめのスプーンのようなもので適量を掬って注射器状のものに装填する。きっとこの量ってのがノウハウなんだろうなあ。
「はい、では割り箸を軽く噛んでくださいー。ここからはお話しできませんよー」
事前に渡されていた割り箸を咥える。完全に口を閉じたままで型をとってモニターを作ると、口を開いたときにきつく感じることがあるので、こういう工夫をするらしい。なかなか間抜けな姿になる。
耳型採取中
補聴器屋氏が撮ってくれた
(iPhone5, 1/30sec, F2.4, ISO50)
そしてまず右耳に、注射器状のものでシリコンが注入されていく。わずかな圧迫感を感じるが、不快というほどではない。10〜20秒程度であっさりと注入が終わった。椅子を回転させて、左耳にも同様に注入する。
5分ほどでシリコンが固まるので、今度は耳から取り出す。すぐに、補聴器屋氏が、取り出した耳型をチェックする。
「あ、結構綺麗にとれてますね」
テーブルの上にその耳型が置かれた。大きなカタツムリのような物体だ。
耳型（インプレッション）
(iPhone5, 1/60sec, F2.4, ISO50)
1回の採取で2セットとるので、同じこと左右の耳で行った。結局幸い2セット4個の型とも割と綺麗に採れたようだ。
補聴器屋氏がこれらの耳型をじっくり観察し、少し手直しをしたりしつつ、より状態のいいペアを袋に入れ赤丸をペンで書いた。
「こっちの方を優先ということで渡してください。2セットありますが、製作中の事故なども考えて、2セットとも提出してくださいね」
安くはない採取料金なので、ケチりたいとこだが、確かに、遠く離れた客の耳にぴったり合うものを作るためにはスペアが必要というのも分かる話だ。それに、採取してから年月が経つと型も耳自体も変化するので精度が落ちてしまう。ここは2個とも提出しよう。
左右の耳型ペアが1組ずつ入った小さな紙袋を2つ持って階段を上がって1階のカスタム専門店内に戻ると、すぐに店長（って言っても20代みたいだけど）に声をかけた。
「Roothのリモールドを考えてるんですが。」
Roothは中国のメーカーだが、早くからダイナミックとBAのハイブリッドのカスタムに取り組むなど、なかなか注目のカスタムメーカーだ。F-1関連のコミュニティで懇意にさせていただいたオーディオ好きの方も、まさにそのハイブリッドを買っていた。
Roothはリモールドも積極的に展開している。今回はSE530をRoothに託すことにしたのだ。
シェルの色が透明なら、他の色より数千円安くなる。一方プレートに模様を付けたり、メーカーロゴを入れたりすると、いちいち5000円のオプション代がかかってしまう。
シェルがクリアというのはいい（BAユニットとか内部を観察できるので）が、全部クリアというのも貧乏くさい。プレートはカーボン地にすることにした。メーカーロゴはワンポイントで欲しいところだったが、それで5000円は高いのでやめた。
ホームページ上で納期は3ヶ月程度と書かれていたので覚悟していたが、店長によると、クリアなら1ヶ月半くらいになるかも、ということだった。
期待を胸に秘めつつ、帰路についた。
リモールドカスタムをオーダーしてから1週間ほどで俺は会社に復帰した。
やはり、電車の中でCKWでは周囲の音が聞こえ過ぎる。早くリモールド来ないかなー、でもまだまだだよねー、なんて思いながら忙しく日々の勤務をこなした。
そうしたら、オーダーからちょうど1ヶ月で納品の連絡があった。マジ？もう？？
小躍りしながら、バンドリハの前にちょっくらアキバまで引き取りに行ったのだった。
楽器を担いで、アキバの駅から店に向かう。地味に距離がある。しかも、途中でアイドルのイベントかなんかをやっていて人垣ができている。歩道橋使って上から行けばよかったと後悔しながらも、人を掻き分け歩いて店にたどり着いた。
店では、ハロウィンウィークということで店員が仮装をしていた。それには一切触れずに (^_^;、伝票を渡して品物を出してきてもらう。
ビニールから取り出された直径10cmほどのキャリングポーチの中に、それは鎮座していた。
うおお。紛れもなく、1ヶ月前に採取した俺の耳型がシェルに姿を変え、中にはShureSE530から取り出したと思われるBAユニットが収められていた。
「装着感と、音の確認をお願いします。」
セーラー服を着て、顔に血のりを塗った若い男性店員 (^_^;に促され、早速装着を試みる。
...うっ、なんだこれは。
これまでのインナーイヤー型ヘッドフォンのつもりで装着しようとしても、まったく耳腔に入っていかない。
全然フィットした感はないが、なんとなく固定されたので、接続した自分のプレーヤーの再生を開始する。うああ、全然低音が鳴らない。しかも、頭の10cm後方くらいで音が鳴っているような感覚すらある。
ちゃんと装着できていないのは明白だったが、あまりのヘロヘロな音に、つい店員に対して言葉が出た。
「ちょ、ちょっとゆるい感じが...」
「え？合わないですか？2週間以内なら再作成も可能ですが...」
あああ、すんません、絶対まだハマってないだけっす。
「あ、いや、もう一度やってみますね。」
耳腔に、イヤーモニターのステムが引っかかる感じはあった。これがもっと深く刺さらなければならない。
そこで、無理矢理押し込むのではなく、ステムを中心にして、40〜50°程度回転させて角度を探るようにして少しずつ奥に入れるようにしてみた。耳たぶを押しのけるようにしてイヤーモニターが奥まで入ってくるのが分かった。
「あ、ハマったかもしれません」
曲を再生してみたら、ちゃんと低音が聴こえるようになっていた。
「そうですか、まあ、2週間以内ならリフィットできますから、ちょっと様子見てみてください。
どうですか。リモールドして音変わりました？」
え？変わったも何も、ちゃんとハマった感じがしてから10秒も聴いてないけど。
「あー、まあ、もちろんネットワークとか変わってないんだから、音の傾向は一緒なんですけど。定位がバッチリ決まった感じはありますね」
それはその時点での率直な感想だった。
そのまま付けて店を出ることにして、付属品なんかを袋で受け取り、そそくさとバンドリハに向かうことにした。何しろその日はリハが22時までだったので、先にメシを食おうと思っていたからだ。
リハをやるスタジオがある代々木までの電車の中でも、イヤーモニターの装着感をいろいろ試行錯誤した。どうやら、耳腔のすぐ上に出っ張った耳たぶの内側にがっちり入れないと完全にはハマらないようだ。指で耳たぶを引っ張り上げて、モニターをクリクリ回転させながらその内側に滑り込ませる。
ガチッ
完全にハマった。さっきとは比較にならないくらいガッチリだ。これはもう、装着とか、挿入とかいう表現では既に生ぬるい。「合体」である。
考えてみれば、型までとって形成してるのだから、ガッチリで当然である。
合体が完了したら、音質も全く変わった。
いや、先述のように音自体の傾向はSE530から変わらない。だが、定位の安定感がまず凄い。オリジナル530同様、どちらかと言うと狭めに定位するのだが、定位の鮮明度が大幅に上がっているので、その外側の空間まで再現しているように感じられた。結果、音場が広がった感覚さえおぼえた。さらに、低音の沈み込みが段違いに低くなった。同時に、SuperdartsやCKWよりも薄もやがかかったようだった高音のダイレクト感がかなり上がった。素のSE530ではどんだけ音を逃してたんだよ、とツッコミを入れたくなるほどだ。
何しろ耳型までとって「合体」する代物なので、遮音性はいかほどか、と思っていたが、装着しただけでは実はさほどではない。例えばマクドに行ってコーヒー買うときにも「お砂糖とミルクは？」「あ、砂糖3本でー」とか会話できるくらいは聞こえる。ちなみに砂糖は入れても半分しか入れません。
ところがひとたび再生を開始すると、結構な低音量でも周囲の音は入ってこなくなる。何しろ鼓膜の直近から音が流し込まれているからだ。これならアクティブノイズキャンセルなんてまったく要らない。完璧なリスニング環境と言っていいだろう。
見た目についても触れておこうか。
プレートに入れたカーボン地は角度によって模様が変化して、なかなかいい。メーカーロゴはケチッて入れなかったわけだが、エキセントリック感が増してそれも悪くない。クリアーのシェルは若干ビンボーくさいが、まあ、どうせ耳に隠れちゃうからね。
なので、装着（合体）してしまうと、外からはほぼ、カーボン地しか見えなくなる。その大きさは、インナーイヤー型よりは多少大きいが、いわゆる「耳掛け型」のヘッドフォンよりはかなり小さい。その裏側がみっちり耳たぶの形にハマりこんでいようとは、普通の人が気づくことはないだろう (^_^;。
パッと見なんてことないのに、実はハンパないっていう感じ、かなり好みだ。
(PentaxK-3, PentaxDA16-45mmF4(38.0mm), 2.5sec, F11.0, ISO100)
そんなわけで、同じユニット、ネットワークを使っているはずなのに、聴こえる音のレベルは段違いに上がった。
実を言うと、最初にリモールドについて知った時は「専用設計のハウジングを捨てて作り直すなんて、バランス変わるし、あり得ないでしょ」と思っていた。
だが、特にBAユニットにおいては、ハウジングは付帯的な要素でしかなく、ユニットやネットワークの性能と、それをいかにリスナーの鼓膜に漏れなく伝えるかの方が重要なのだという気がしている。
ここまでの音を聴いちゃうと、普通のインナーイヤー型には戻れないなあ。さすがにオーバーヘッド型の余裕と迫力に満ちた音は再現できないので、しばらくはFocalとの使い分けって形になりそうだね。
nobilesの投稿(23:35:42-2014-11-06) -
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