NOBILES Days
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PentaxがニューモデルK-01を発表した。
光学ファインダーを廃した、いわゆるミラーレスタイプのカメラだが、マウントは従来通りのKマウントである。
光学ファインダーが無くなった従来マウントという点では今のSONY αと同様であるが、位相差式オートフォーカスも捨て去り、従来のカメラのとは離れたデザインを採用した点では、立ち位置はもっとミラーレスに近い。
そのデザインはマーク・ニューソンが担当したという。彼は俺が以前使っていたケータイ、talbyも手がけた。
あれは良かった。まだ一応現役なinfobar2と比べて、どうせ見やしないワンセグがない分、薄くて軽くて、シンプルだった。
さてK-01だが、正直、今の時点で簡単に評価が下せない。いくら立ち位置がいわゆるミラーレスに近かろうと、フル規格のKマウントである以上、約46mmというフランジバックは動かしようがなく、ボディのサイズは、K-5と比べてもせいぜい1まわり小さい程度でしかない。K-r相手ならほとんど同じ程度じゃないか？
でも、新しい極薄の40mmレンズとの組み合わせはなかなか魅力的だ。
まずはその操作感からだな。従来通りのKマウントでコントラストAFがどれだけの速度で動作するのか。
まあ、でも多分俺はまだまだK-5後継待ちだろうね。
手の届くような距離で、弦が震えるのが手に取るように分かった。その時、俺の心もその弦のように打ち震えた。
これはもう、降伏するしかない。白旗である。
Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 1/13sec, F22.0, ISO100)
...えへへへ。
いつか某ソーシャルネットワークで呟いた宣言通り、Atomic Floyd Superdartsの人柱になったよ。
前任たるShure SE530が死んだら後継として買う、と言っていたが、今回買うにあたって、実際にShureの音が出なくなったというわけではない。
ただ最近SE530は、ゴム素材部分を中心に劣化が進んでいた。特にユニット側のコードの根元をサポートするゴム部品がユニットから外れてみっともなくなっていた。そこにとどめのように、ここのところの寒さで硬くなったのか、右のユニットに近いコードの被服にヒビが入ってしまった。この状態ではここから断線するのは時間の問題と思えた。
前々任のShure E4Cを壊れるまで使ってからSE530を買ったら、聴き比べができなくて残念だったので、まだ正常な再生機能があるうちに、みっちり聴き比べをしよう、なんて考えたわけだ。
現在主流のインナーイヤーヘッドフォンは、ダイナミック型とバランスドアーマチュア型という2種類の構造に分けられる。
ダイナミック型とはいわゆる一般的なスピーカーと同じ構造をしていて、磁石の磁界の中でコイルに音声信号の電流を流し、発生したローレンツ力でコイルに取り付けられた振動板を駆動し音声を発する。一方バランスドアーマチュア型(BA)は、磁石に取り付けたコイルに音声信号の電流を流し、磁力を変化させて鉄片を振動させる。この振動を、ロッドを介して振動板に伝えて音声を発する。
一般的に、スピーカーとして見た場合の特性はダイナミック型の方がはるかに高い。BAは、振動する鉄辺が磁石に接触してはいけないので、これが強固に固定される。そのため、周波数帯域が狭い。また、大きな音を発するのが難しい。BA型がどれも、耳孔にねじ込むカナル（耳栓）型なのはそのためだ。
しかしながら、インナーイヤー型のヘッドフォン（いわゆるイヤフォン）としてこれらの特徴を見ると事情が異なる。ダイナミック型は、小さ過ぎるとその本来の性能を発揮しづらくなる。他方BAは、もともと補聴器で使用されていた方式だけに、小型化に向いている。また、緻密な音表現が得意だ。
そこで、まさに補聴器メーカーであったEtymotic Research社が、BAのハンディであった狭い周波数帯域を克服した本格的なヘッドフォンを市場投入して高い評価を得たことで、高級インナーイヤーヘッドフォンとして普及が始まった。
SE530のような最近のハイエンド機では、担当する周波数帯域を分けてBAユニットを複数搭載するのが主流となっていたが、たとえばKripschの最上位機種であるX10などは、周波数帯が被って音が濁るのを嫌ってシングルユニットを敢えて採用している。だが、分析的な緻密な解像感は素晴らしいものがあるが、量感豊かな低音の再現性にはどうしても欠けるというのが、BAを採用するヘッドフォン共通の傾向だった。
BAの周波数帯域を広げる工夫が各社で繰り広げられる中、ダイナミック型もレイアウトを工夫し大型ユニットを積むことで性能を高める動きが見られた。それでもやはりBAの緻密な表現には一歩及ばない。ダイナミック型で勝負してきたSONYも、先日とうとうBAヘッドフォンに参入を果たした。だが、残念ながらまだまだBAを扱いこなせていないようだ。デザインも野暮ったい。
そんな中登場したのが、ハイブリッド型である。すなわち、主に量感が求められる低音用としてダイナミック型ユニット、緻密さが求められる中高音域用としてバランスドアーマチュア型ユニットを搭載したものだ。
俺のリサーチの限りでは、現在発売されているハイブリッド型は、俺が今回買ったAtomic Floyd Superdarts（2011年6月発売）とAKG K3003（2011年9月発売）の2つだけだと思う。
AKGは押しも押されぬ名門ヘッドフォンメーカーである。高級カナル型ヘッドフォンをなかなかリリースしてこなかったが、満を持したかのようにK3003という超高級機、しかもいきなりのハイブリッド型を投入してきた。その価格は、13万円を超える。
「1万円以下のヘッドフォンは基本的にはオモチャ」と思っているヘンタイ（ヘッドフォンジャンキー）であるさすがの俺も、インナーイヤーヘッドフォンに13万円はためらわれた。所詮、持ち出して使い倒すべきインナーイヤーは消耗品的側面がある。最大5万円だろう、と思っていた。
その点、AtomicFloyd Superdartsは定価で3万円台と、ドンピシャの予算内である。SE530より若干下の価格帯ではあるが、AtomicFloyed自体が新進気鋭のオーディオメーカーで、なかなかの高評価のようだったので、Superdarts自体のレビューはまだあまり見かけなかったが、人柱になってみようという気になったのである。
最近俺は楽天ポイントのマニアと化してるので、貯めも貯めたり38000ポイントくらい持っていた。今回は、そのうちの一部をダーーンと突っ込んだ。
The Package of Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/80sec, F5.6, ISO500)
発注してたった2日であっさりと届いた。
バッケージもなかなか凝っている。どこから開けるのかと一瞬悩んだが、高めのアルバムの表紙のような構造になっていて、側面にわざわざ仕込まれた磁石の力で止まっていた。
その表紙を開ける。赤いバッケージに銀色の筐体が鎮座する。なかなかいい演出だ。
The Package of Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/80sec, F5.6, ISO400)
高級感出そうとしてメタルのバッケージにしたけど、その精度がイマイチで荒削りだったShure SE530よりも断然オシャレだ。
でも、これは好き好きなんだと思うけど、個人的には派手な筐体はあまり好みではない。パッと見は地味なのに、良く見るとただ事でないエキセントリクシー漂うSE530の方がルックスは好きだ。
ただ質感は悪くない。ちゃんとこだわって造り込みが行われている感じが分かる。
さて、いよいよ装着だ。
コードはいわゆるY字型で、本来は身体の前で分岐させる。しかし、SONY、AudioTechnicaという国内勢からShureと、常に首の後ろを通す方式に親しんできたので落ち着かない。前分岐で耳につけてた場合、耳から外したら引っかかりなく、そのまま地面に落下するじゃないか。
そこで右ユニットのコードを首の後ろに回し、分岐部を左の肩の上あたりに持ってくると、まあ無理やり首回しスタイルが確立できた。幸か不幸かコードは1.2mと長いので問題ない。
っていうかAudioTechnicaのヘッドフォンアンプを使ってると、1.2mは邪魔だ。半分でいいよ半分で。残念ながら、コードはユニット直付けで付け替えできない。
SE530と比べるとだいぶ小ぶりの筐体を耳にねじ込んでいく。ダーツを模したメタルのザラザラが少し指に痛い。むう。
むっ？左のユニットの位置がなかなか定まらない。
実は左のユニットに向かうコードの途中には、iPhone用のリモコン＆マイクが直付けされているのだ。かなり小さく軽いのだが、これが意外にユニットを引っ張る。
まして、俺はリモコン付きのヘッドフォンアンプを使うので、完全に無用の長物だ。正直言うと、リモコンなしモデルが出るのを待つかどうかは最後まで悩んだポイントだ。使う人にとってはシンプルで便利だろうが、なくしてちょっとでも安くしたモデルも出してくれい。
で、ユニットの耳孔への固定についてだが、Shureとは少し流儀が異なるようだ。
Shureのイヤーピースは、ガッツリとフォーム耳栓状で、耳孔の内側から膨らんで密着するような形だ。
一方のAtomicFroydのそれは、薄いゴムキャップのような先端が、耳孔の狭くなる部分に蓋をするように張り付く感じだ。
つまり、後者の方が耳と密着する面積が狭い。だからShureから替えると余計に安定していない印象を受けたのだ。
しかしコツを掴むと「ああ、この辺でオッケーだな」というのが分かってきた。ちゃんと「蓋する」ことができれば、ユニットがグラグラ動くこともない。装着感はShureより軽やかだ。国産のヘタレカナル型よりは耳への圧迫はちょっと強めかもしれないが。
「蓋」状なだけあって、遮音性はShureよりむしろ高い。これも好き好きで、フォーム耳栓に近いShureは、人の声は割と通していたので、意外と電車のアナウンスなどは聞きやすかったのだ。でもまあ、音楽のことだけ考えれば遮音性が高い方が好都合だ。
さ、いよいよ音楽を再生するよ。前置き長すぎっ！
最初に流すのはもちろん、あのFunky Soul Popバンド、Loop on pooLの1stアルバム"Loopness"だ！みんな、もちろん持ってるよね？聴いてくれてるよねっ？ (^_^;
この1曲目"Can't You See?"はギターのカッティングとドラムという構成から始まる。
そのイントロをAtomicFroydで聴いた俺のファーストインプレッションはポジティブではなかった。
「げっ、すんげードンシャリ！！」
ドンシャリとは、高音と低音を持ち上がった音質のことだ。
イコライザーのついてるコンポてそう調整すると、低い音から高い音までワイドレンジな音が出ていていい音に聞こえる。まあ、一番安直な音質調整だとも言える。しかし、その再生環境で出せる周波数帯域の音を無理やり持ち上げているだけで、出ていなかった音が出るわけではない。やり過ぎると音楽的に破綻する。
SE530がフラットか、すこし中音域の厚いカマボコ型な音質だったので、その差は大きく、戸惑ってしまった。
しかし、キーボード、オルガン、ベースが入ると違う驚きに襲われる。
「なんてダイレクトな音なんだ！」
音がものすごく生々しいのだ。定位が良いのは高級ヘッドフォンとしては最低条件として、そこに、楽器の鳴きとか、艶みたいなものが感じられる。左右の音場もかなり広い。それだけに閉塞感も少なく、気持ちがいい。何より、低音の迫力がいい。ズンと沈み込む破壊力は、俺がこれまで使ってきたヘッドフォンにはなかったものだ。
SE530に付け替えると、逆の驚きが待っていた。あれだけ信じていたSE530の音が、まるで薄皮のベールの向こう側で鳴っているかのようだ。
もちろん、ハイエンドらしい艶やかな音は健在だし、悪い音であるわけがない。しかし音場は狭いし、低音は鳴っていないわけではないが、圧倒的に物足りない。
AtomicFroydに戻してみる。
やっぱりドンシャリだ。ハイハットは刺さるようだし、ベースもエグいくらい主張してくる。SEから付け替えると下品なくらいだ。
しかし、良く聴くとそれで音楽が破綻していない。エグい高低音が鳴ろうとも、他の音がそれでマスクされずにちゃんと表現されているのだ。
このヘッドフォン、タダのドンシャリではなく、本当に帯域が広いのだ。
もちろんその特長を生かすためにドンシャリの味つけをしているのだろうが、そんなもんで破綻しないあたり、かなりハイブリッドユニットの性能は高そうだ。
SE530購入時に聴き比べて、「さすがオーバーヘッドは違う」と思わせたSony MDR-CD3000（ダイナミック型）にもご登場いただこう。
...ゲッ。
SEほどではないが、AtomicFroydと比べてしまうとCD3000も「薄皮ベール」だ。さすがに量感や余裕と言ったものはCD3000の方が上だが、AtomicFroydの方が圧倒的に生々しく、楽器の実体感が高い。
この生々しさの表現というか、薄皮を剥ぐ方向性と言うのは、多分ここ数年のヘッドフォン業界の課題の一つだったのではないかと思う。2年前に発売されたSE530の後継機であるSE535のレビューでも、開放感や華やかさが増したとの評価を見ることができる。
しかし、実は半年程度前にSE535をはじめとするハイエンドなインナーイヤーヘッドフォンを5種ほどじっくり聴き比べる機会があったのだが、普段使っていたSE535と比較して、びっくりするほど音場が広かったり、生々しさに驚いたヘッドフォンはなかった。
そういう意味では、この最新の技術が結集したAtomicFroydは、この数年のヘッドフォンの進化を体現している秀作と言えるかもしれない。
惜しむらくは、音場は広いが奥行き方向の懐は若干浅い気がする。この点においてはSE530、ひいてはCD3000の方が奥深い。しかし、そういう部分を探さない限り、AtomicFroydより優れた点を探すのが難しく感じられる。
Atomic Floyd Superdarts/Shure SE530/Shure E4C
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 1/100sec, F8.0, ISO800)
エグいまでの高低音を持つだけに、元気のよい曲が似合うかと思いきや、一番ハマったのは実はオーケストラ編成の曲だ。特にバイオリンの艶やかな弦の響きはゾクゾクするほどセクシーだった。コントラバスやチューバのどっしりした低音、華やかな金管の響き、広い音場、どれだけ音が重なってもしっかり分離して鳴らしきる余裕。
これらが単純にハイブリッドユニットだから実現できたのかどうかは分からない。でも、少なくともこれまで体験したことのない音であるのは確かだ。
エグいまでのドンシャリ傾向に若干の荒削りぶりも感じられるが、「だから何だゴルァーー！」という生々しさ、勢いのあるサウンドは爽快ですらある。
ヘッドフォンジャンキーの皆さん、AtomicFloyd侮れないっすよ。
光学ファインダーを廃した、いわゆるミラーレスタイプのカメラだが、マウントは従来通りのKマウントである。
光学ファインダーが無くなった従来マウントという点では今のSONY αと同様であるが、位相差式オートフォーカスも捨て去り、従来のカメラのとは離れたデザインを採用した点では、立ち位置はもっとミラーレスに近い。
そのデザインはマーク・ニューソンが担当したという。彼は俺が以前使っていたケータイ、talbyも手がけた。
あれは良かった。まだ一応現役なinfobar2と比べて、どうせ見やしないワンセグがない分、薄くて軽くて、シンプルだった。
さてK-01だが、正直、今の時点で簡単に評価が下せない。いくら立ち位置がいわゆるミラーレスに近かろうと、フル規格のKマウントである以上、約46mmというフランジバックは動かしようがなく、ボディのサイズは、K-5と比べてもせいぜい1まわり小さい程度でしかない。K-r相手ならほとんど同じ程度じゃないか？
でも、新しい極薄の40mmレンズとの組み合わせはなかなか魅力的だ。
まずはその操作感からだな。従来通りのKマウントでコントラストAFがどれだけの速度で動作するのか。
まあ、でも多分俺はまだまだK-5後継待ちだろうね。
手の届くような距離で、弦が震えるのが手に取るように分かった。その時、俺の心もその弦のように打ち震えた。
これはもう、降伏するしかない。白旗である。
Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 1/13sec, F22.0, ISO100)
...えへへへ。
いつか某ソーシャルネットワークで呟いた宣言通り、Atomic Floyd Superdartsの人柱になったよ。
前任たるShure SE530が死んだら後継として買う、と言っていたが、今回買うにあたって、実際にShureの音が出なくなったというわけではない。
ただ最近SE530は、ゴム素材部分を中心に劣化が進んでいた。特にユニット側のコードの根元をサポートするゴム部品がユニットから外れてみっともなくなっていた。そこにとどめのように、ここのところの寒さで硬くなったのか、右のユニットに近いコードの被服にヒビが入ってしまった。この状態ではここから断線するのは時間の問題と思えた。
前々任のShure E4Cを壊れるまで使ってからSE530を買ったら、聴き比べができなくて残念だったので、まだ正常な再生機能があるうちに、みっちり聴き比べをしよう、なんて考えたわけだ。
現在主流のインナーイヤーヘッドフォンは、ダイナミック型とバランスドアーマチュア型という2種類の構造に分けられる。
ダイナミック型とはいわゆる一般的なスピーカーと同じ構造をしていて、磁石の磁界の中でコイルに音声信号の電流を流し、発生したローレンツ力でコイルに取り付けられた振動板を駆動し音声を発する。一方バランスドアーマチュア型(BA)は、磁石に取り付けたコイルに音声信号の電流を流し、磁力を変化させて鉄片を振動させる。この振動を、ロッドを介して振動板に伝えて音声を発する。
一般的に、スピーカーとして見た場合の特性はダイナミック型の方がはるかに高い。BAは、振動する鉄辺が磁石に接触してはいけないので、これが強固に固定される。そのため、周波数帯域が狭い。また、大きな音を発するのが難しい。BA型がどれも、耳孔にねじ込むカナル（耳栓）型なのはそのためだ。
しかしながら、インナーイヤー型のヘッドフォン（いわゆるイヤフォン）としてこれらの特徴を見ると事情が異なる。ダイナミック型は、小さ過ぎるとその本来の性能を発揮しづらくなる。他方BAは、もともと補聴器で使用されていた方式だけに、小型化に向いている。また、緻密な音表現が得意だ。
そこで、まさに補聴器メーカーであったEtymotic Research社が、BAのハンディであった狭い周波数帯域を克服した本格的なヘッドフォンを市場投入して高い評価を得たことで、高級インナーイヤーヘッドフォンとして普及が始まった。
SE530のような最近のハイエンド機では、担当する周波数帯域を分けてBAユニットを複数搭載するのが主流となっていたが、たとえばKripschの最上位機種であるX10などは、周波数帯が被って音が濁るのを嫌ってシングルユニットを敢えて採用している。だが、分析的な緻密な解像感は素晴らしいものがあるが、量感豊かな低音の再現性にはどうしても欠けるというのが、BAを採用するヘッドフォン共通の傾向だった。
BAの周波数帯域を広げる工夫が各社で繰り広げられる中、ダイナミック型もレイアウトを工夫し大型ユニットを積むことで性能を高める動きが見られた。それでもやはりBAの緻密な表現には一歩及ばない。ダイナミック型で勝負してきたSONYも、先日とうとうBAヘッドフォンに参入を果たした。だが、残念ながらまだまだBAを扱いこなせていないようだ。デザインも野暮ったい。
そんな中登場したのが、ハイブリッド型である。すなわち、主に量感が求められる低音用としてダイナミック型ユニット、緻密さが求められる中高音域用としてバランスドアーマチュア型ユニットを搭載したものだ。
俺のリサーチの限りでは、現在発売されているハイブリッド型は、俺が今回買ったAtomic Floyd Superdarts（2011年6月発売）とAKG K3003（2011年9月発売）の2つだけだと思う。
AKGは押しも押されぬ名門ヘッドフォンメーカーである。高級カナル型ヘッドフォンをなかなかリリースしてこなかったが、満を持したかのようにK3003という超高級機、しかもいきなりのハイブリッド型を投入してきた。その価格は、13万円を超える。
「1万円以下のヘッドフォンは基本的にはオモチャ」と思っているヘンタイ（ヘッドフォンジャンキー）であるさすがの俺も、インナーイヤーヘッドフォンに13万円はためらわれた。所詮、持ち出して使い倒すべきインナーイヤーは消耗品的側面がある。最大5万円だろう、と思っていた。
その点、AtomicFloyd Superdartsは定価で3万円台と、ドンピシャの予算内である。SE530より若干下の価格帯ではあるが、AtomicFloyed自体が新進気鋭のオーディオメーカーで、なかなかの高評価のようだったので、Superdarts自体のレビューはまだあまり見かけなかったが、人柱になってみようという気になったのである。
最近俺は楽天ポイントのマニアと化してるので、貯めも貯めたり38000ポイントくらい持っていた。今回は、そのうちの一部をダーーンと突っ込んだ。
The Package of Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/80sec, F5.6, ISO500)
発注してたった2日であっさりと届いた。
バッケージもなかなか凝っている。どこから開けるのかと一瞬悩んだが、高めのアルバムの表紙のような構造になっていて、側面にわざわざ仕込まれた磁石の力で止まっていた。
その表紙を開ける。赤いバッケージに銀色の筐体が鎮座する。なかなかいい演出だ。
The Package of Atomic Floyd Superdarts
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/80sec, F5.6, ISO400)
高級感出そうとしてメタルのバッケージにしたけど、その精度がイマイチで荒削りだったShure SE530よりも断然オシャレだ。
でも、これは好き好きなんだと思うけど、個人的には派手な筐体はあまり好みではない。パッと見は地味なのに、良く見るとただ事でないエキセントリクシー漂うSE530の方がルックスは好きだ。
ただ質感は悪くない。ちゃんとこだわって造り込みが行われている感じが分かる。
さて、いよいよ装着だ。
コードはいわゆるY字型で、本来は身体の前で分岐させる。しかし、SONY、AudioTechnicaという国内勢からShureと、常に首の後ろを通す方式に親しんできたので落ち着かない。前分岐で耳につけてた場合、耳から外したら引っかかりなく、そのまま地面に落下するじゃないか。
そこで右ユニットのコードを首の後ろに回し、分岐部を左の肩の上あたりに持ってくると、まあ無理やり首回しスタイルが確立できた。幸か不幸かコードは1.2mと長いので問題ない。
っていうかAudioTechnicaのヘッドフォンアンプを使ってると、1.2mは邪魔だ。半分でいいよ半分で。残念ながら、コードはユニット直付けで付け替えできない。
SE530と比べるとだいぶ小ぶりの筐体を耳にねじ込んでいく。ダーツを模したメタルのザラザラが少し指に痛い。むう。
むっ？左のユニットの位置がなかなか定まらない。
実は左のユニットに向かうコードの途中には、iPhone用のリモコン＆マイクが直付けされているのだ。かなり小さく軽いのだが、これが意外にユニットを引っ張る。
まして、俺はリモコン付きのヘッドフォンアンプを使うので、完全に無用の長物だ。正直言うと、リモコンなしモデルが出るのを待つかどうかは最後まで悩んだポイントだ。使う人にとってはシンプルで便利だろうが、なくしてちょっとでも安くしたモデルも出してくれい。
で、ユニットの耳孔への固定についてだが、Shureとは少し流儀が異なるようだ。
Shureのイヤーピースは、ガッツリとフォーム耳栓状で、耳孔の内側から膨らんで密着するような形だ。
一方のAtomicFroydのそれは、薄いゴムキャップのような先端が、耳孔の狭くなる部分に蓋をするように張り付く感じだ。
つまり、後者の方が耳と密着する面積が狭い。だからShureから替えると余計に安定していない印象を受けたのだ。
しかしコツを掴むと「ああ、この辺でオッケーだな」というのが分かってきた。ちゃんと「蓋する」ことができれば、ユニットがグラグラ動くこともない。装着感はShureより軽やかだ。国産のヘタレカナル型よりは耳への圧迫はちょっと強めかもしれないが。
「蓋」状なだけあって、遮音性はShureよりむしろ高い。これも好き好きで、フォーム耳栓に近いShureは、人の声は割と通していたので、意外と電車のアナウンスなどは聞きやすかったのだ。でもまあ、音楽のことだけ考えれば遮音性が高い方が好都合だ。
さ、いよいよ音楽を再生するよ。前置き長すぎっ！
最初に流すのはもちろん、あのFunky Soul Popバンド、Loop on pooLの1stアルバム"Loopness"だ！みんな、もちろん持ってるよね？聴いてくれてるよねっ？ (^_^;
この1曲目"Can't You See?"はギターのカッティングとドラムという構成から始まる。
そのイントロをAtomicFroydで聴いた俺のファーストインプレッションはポジティブではなかった。
「げっ、すんげードンシャリ！！」
ドンシャリとは、高音と低音を持ち上がった音質のことだ。
イコライザーのついてるコンポてそう調整すると、低い音から高い音までワイドレンジな音が出ていていい音に聞こえる。まあ、一番安直な音質調整だとも言える。しかし、その再生環境で出せる周波数帯域の音を無理やり持ち上げているだけで、出ていなかった音が出るわけではない。やり過ぎると音楽的に破綻する。
SE530がフラットか、すこし中音域の厚いカマボコ型な音質だったので、その差は大きく、戸惑ってしまった。
しかし、キーボード、オルガン、ベースが入ると違う驚きに襲われる。
「なんてダイレクトな音なんだ！」
音がものすごく生々しいのだ。定位が良いのは高級ヘッドフォンとしては最低条件として、そこに、楽器の鳴きとか、艶みたいなものが感じられる。左右の音場もかなり広い。それだけに閉塞感も少なく、気持ちがいい。何より、低音の迫力がいい。ズンと沈み込む破壊力は、俺がこれまで使ってきたヘッドフォンにはなかったものだ。
SE530に付け替えると、逆の驚きが待っていた。あれだけ信じていたSE530の音が、まるで薄皮のベールの向こう側で鳴っているかのようだ。
もちろん、ハイエンドらしい艶やかな音は健在だし、悪い音であるわけがない。しかし音場は狭いし、低音は鳴っていないわけではないが、圧倒的に物足りない。
AtomicFroydに戻してみる。
やっぱりドンシャリだ。ハイハットは刺さるようだし、ベースもエグいくらい主張してくる。SEから付け替えると下品なくらいだ。
しかし、良く聴くとそれで音楽が破綻していない。エグい高低音が鳴ろうとも、他の音がそれでマスクされずにちゃんと表現されているのだ。
このヘッドフォン、タダのドンシャリではなく、本当に帯域が広いのだ。
もちろんその特長を生かすためにドンシャリの味つけをしているのだろうが、そんなもんで破綻しないあたり、かなりハイブリッドユニットの性能は高そうだ。
SE530購入時に聴き比べて、「さすがオーバーヘッドは違う」と思わせたSony MDR-CD3000（ダイナミック型）にもご登場いただこう。
...ゲッ。
SEほどではないが、AtomicFroydと比べてしまうとCD3000も「薄皮ベール」だ。さすがに量感や余裕と言ったものはCD3000の方が上だが、AtomicFroydの方が圧倒的に生々しく、楽器の実体感が高い。
この生々しさの表現というか、薄皮を剥ぐ方向性と言うのは、多分ここ数年のヘッドフォン業界の課題の一つだったのではないかと思う。2年前に発売されたSE530の後継機であるSE535のレビューでも、開放感や華やかさが増したとの評価を見ることができる。
しかし、実は半年程度前にSE535をはじめとするハイエンドなインナーイヤーヘッドフォンを5種ほどじっくり聴き比べる機会があったのだが、普段使っていたSE535と比較して、びっくりするほど音場が広かったり、生々しさに驚いたヘッドフォンはなかった。
そういう意味では、この最新の技術が結集したAtomicFroydは、この数年のヘッドフォンの進化を体現している秀作と言えるかもしれない。
惜しむらくは、音場は広いが奥行き方向の懐は若干浅い気がする。この点においてはSE530、ひいてはCD3000の方が奥深い。しかし、そういう部分を探さない限り、AtomicFroydより優れた点を探すのが難しく感じられる。
Atomic Floyd Superdarts/Shure SE530/Shure E4C
(PentaxK-7, PentaxFA43mmLimitedF1.9+Macroring2, 1/100sec, F8.0, ISO800)
エグいまでの高低音を持つだけに、元気のよい曲が似合うかと思いきや、一番ハマったのは実はオーケストラ編成の曲だ。特にバイオリンの艶やかな弦の響きはゾクゾクするほどセクシーだった。コントラバスやチューバのどっしりした低音、華やかな金管の響き、広い音場、どれだけ音が重なってもしっかり分離して鳴らしきる余裕。
これらが単純にハイブリッドユニットだから実現できたのかどうかは分からない。でも、少なくともこれまで体験したことのない音であるのは確かだ。
エグいまでのドンシャリ傾向に若干の荒削りぶりも感じられるが、「だから何だゴルァーー！」という生々しさ、勢いのあるサウンドは爽快ですらある。
ヘッドフォンジャンキーの皆さん、AtomicFloyd侮れないっすよ。
nobilesの投稿(00:27:41-2012-02-08) -
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