NOBILES Days
Jump to navigationDestroyed again - (3) A long long day
退院して4日目にして、ようやく外を出歩く元気が出てきた。
それまで家から出なくて動かなかったら、患部の左足がひどく浮腫（むく）んでしまった。せっかく痩せた身体をキープするためにも、リハビリ歩行を今後も励行したい。カメラもしばらく触ってなかったからなー。徒歩圏内の被写体を探しに行ってみるか。
さ、膝の怪我日記の第3回だ。
怪我をした日の午前中は、長女のランドセルの視察に行っていた
(iPhone5, 1/20sec, F2.4, ISO400)
バンド練の帰りに、楽器を抱えて階段を1段抜かしで駆け下りている時に、左膝に異常を抱えた俺は、救急車を呼び病院へと運ばれた。
そこで下された診断は、5年前の右足と同じ、「膝蓋腱断裂」というものだった。
バックナンバーはこちら
=== Destroyed again - Backnumber ===
(1) The low sound
(2) The diagnosis
左足をひきずりながら、先ほどのカーテンの向こう側に歩いて行くと、どうやらそこが診察室のようだった。先ほども述べたように壁や床が木目の化粧板だったりして妙に古くさい。診察スペースどうしの間仕切りみたいのもなく、なんだか地方役場みたいだ。
五郎丸（違）先生の前の椅子に、左足を投げ出すように座ると、まさに先ほど撮影したレントゲンが目に入ってきた。
愕然とした。まさに5年前と全く同じ写真がそこにあった。
「ほら、お皿が本来ここにあるべきなのに、こんなに上がってる。本来太ももの筋肉と脛の骨を結ぶ腱に乗っかるような形になっているお皿が、腱が切れたことで太ももの筋肉に引っ張られて上がってしまったんですね。右足と一緒でしょ？」
あい、今思ってました。
怪我した直後は、「お皿があるから前回とは違う」と思っていたけど、やはり皿は上にずれていたのだった。
「膝蓋腱が断裂となると、1週間以内に手術して縫うしか方法がないですね。どうします？ウチでやります？」
うーーーーん。
正直、快活で話がスパスパ進む五郎丸（違）先生のことは好印象で、きっと手術も上手くやってくれそうだな、という感じはした。ただ、何しろここは自宅から10km以上も離れていて、電車の便も極めて悪いところだ。手術してしばらく入院となると、嫁さんや、嫁さんのご両親に大きな負担になるのは間違いない。
「それとも、もっとお近くの病院に紹介状を書きましょうか？」
「はい、さすがにちょっと遠いですから」
「じゃあ、どこにします？」
…どこと言われてもなぁ。
「前回はどこで手術されたんですか？」
「実はまだ横浜にいた頃で、HT記念病院というところで受けたんです。で、退院してすぐ引っ越したので、リハビリはKとOの整形外科というところでかかってました。」
「あー、あのK病院のトップだった先生が開業したところね」
あ、やっぱりそんなに有名な先生なんだ、あの先生。
「でも、あそこでは手術できませんよね？」
やっぱ、そうだよねえ。
...あ、そうだ。
「あの、今は名前変わっちゃったみたいですけど、K病院は整形外科盛んだったと思うんですが」
「あ、そうだね、あそこはスポーツ整形もやってるから、膝蓋腱なんてどーぞ来てくださいって感じだろうからね。あれ、なんて名前になったんだっけ？」
「あ、Cメディカルセンターだと思いますよ」
看護師さんが答えた。
旧K病院は実は俺の子ども2人が生まれたところだ。かなり古いが、生んだ嫁さんの印象も良かったし、整形外科としての実績は高いところだった。しかも、自宅や嫁さんの実家から車で15分もかからないし、子ども達の保育園とも同じ方向にあった。
「じゃあ、そこに紹介状書きますか。もう、明日行きますよね？本当は深夜時間帯は書けないことになってるんだけどね」
「すみません、お願いします」
「じゃ、紹介状と、精算とかまとめて看護師さんからお渡ししますんで、表で待っててくださいね」
表も何も、救急外来から入ったからどっちが表か良くわからんのだけど、まあきっと扉を出たところだろうと思い、外に出て、その椅子に座った。看護師さんがカバンとシンセも持ってきてくれた。スミマセン。
しかし、いやはやなんと、子どもの生まれた病院で手術と入院をすることになろうとは。嫁さんにもその旨メールする。もう嫁さんのお父さんの車でこっちに向かってくれているようだ。なんと有り難いことか。
5分ほどして、五郎丸（違）先生が出て行った。宿直室に戻るのかな。とりあえずお礼を言って会釈した。
それからすぐ、先ほどの看護師さんが何枚か書類を持ってやってきた。一つが紹介状で、一つが精算のお知らせだった。夜間のため事務員がいないから、即時の精算ができないらしい。それで、預かり金として5000円を渡し（保険証がない場合は1万円だって）、1週間以内に精算に来なければならないらしい。えーー。こんな遠いとこまでもう一回来るの？？？
それから、足につけた装具についても、その時に話があると思う、という。あれー、じゃあ転院先のCメディカルセンターで新しいのを調達しないといけないってことかな。
とりあえず看護師さんとの話が終わったところで、後は嫁さんとそのお父さんが来るのを待つことになった。夜間出入り口が10mほど先にあったので、その付近の椅子まで左足を引きずり移動した。またしても楽器は看護師さんが持ってきてくれた。すみません。
「なんか、このクソナビが馬鹿すぎて、H病院にばかり行っちゃってそっちの病院に行けないよ」
どうやら嫁さんチームは道に迷っているらしい。うーむ、申し訳ない。そう、お父さんの車に付いているナビは、2万円だかなんだかの爆安通信ナビで、相当精度が低いらしい。
もう日が回ってしまった。到着を待つ間、さっきまで一緒にリハーサルをしていたバンドメンバー達にLINEで現状を報告した。次々に心配の声が寄せられる。明かりの落ちた、昭和の風情漂う見知らぬ病院でちょっと孤独感を感じていたところだけに、少し暖かい気持ちになった。
かなり冷静になってきて、怪我をした時のことを思い返してみた。
10kgの楽器を持っていた。ローカル線のホームに急ぐため、下りの階段を1段抜かしで駆け下りていた。普通に着地したつもりが、左膝が抜けるようにして尻餅をついた。…この1年で6kg痩せたとは言え、楽器に加えてカバンが2〜3kgと考えると、依然数kg体重が増えた状態だ。それで1段抜かしというのが膝に大きな負担になったということだろうか。
そもそも、5年前の怪我した頃には、20kgの楽器を使っていた（怪我した時に持っていたわけじゃないけど）。その後、さすがに足に負担にあると思ったし、引っ越してローカル駅から2kg歩くことになったので、思い切って半分の重さとなる今の楽器に換えた。
しかしだ。考えてみると20kgの楽器の頃は、楽器を担いで階段を昇り降りすること自体がかなり辛かったので、そもそもエレベーターを使うようにしていた。階段で1段抜かしなんてやることはなかった。つまり20kgの楽器だったら今回の怪我をすることはなかったことになる！
そう思い至り、ドーーンと落ち込みそうになった。
しかし、それは結果論に過ぎない。20kgの楽器のままだったら、持ち上げた瞬間に腰をやっていたかもしれない。楽器を持っていなくても、階段を駆け下りていただけでも怪我していたかもしれない（実際、5年前はそうだった）。
まあいずれにしても、もうこの怪我を受け容れるしかないのだ。
そんな葛藤をしているうちに、20〜30分ほど経って、ようやく嫁さんと嫁さんのお父さんが到着した。
知らない場所に行くということで、普段使っている軽自動車ではなく、わざわざナビがついているクラウンを出してくれたのだが、何しろクソナビに惑わされたようだ。ほんと申し訳ない。
もっとも、嫁さんも嫁さんのお父さんも、極めて実利的な人なので、大げさに驚いたり、何か恨み節みたいなのをブツブツ言うことはない。そもそも、5年前に同じ姿見てるし (^_^;。
守衛さんに「あ、救急で来たものですー」的に挨拶して、自分で楽器を持って外に出た。もう結構肌寒い。病院の外は、聞いていた通り古い団地で、寝静まって真っ暗に近い雰囲気だった。
お義父さんが楽器をトランクに入れてくれて、俺は助手席に乗り込んだ。左足が曲がらないので、少し体を傾けて座る。うぁー、5年前を思い出すなぁ。
走り出すと、かなり狭い道が続く。しかも暗いし、団地特有のグルグルと回るような道で確かに分かりづらい。クソナビの言う通りに進んだが、相当大回りをしているように見えた。これ、iPhone＋ぐぐる先生の方が断然賢いんじゃないか？
車内では、まあ最初に怪我したときの状況の話をした。
「まぁ、やっちまったもんはしょうがないからな。しっかり会社も休んでさ、直しなよ」
お義父さんはこういう人なのでやりやすい。
その一方で、嫁さんは嫁さんの妹とずっと電話で話していた。
実は2週間後に、嫁さんの妹家族とウチとで、沖縄旅行を予定していたのだ。...なんて間の悪い！
2週間後なんて、旅行どころか、まだ完全に入院中だ。俺が行けるわけがない。それで、電話でどう対処すべきか話していたのだ。またまた申し訳ない。
5分ほど経ってお義父さんが嫁さんに言った。
「おい、旅行の話なんて後でいいから、ばあさんに電話してやれよ」
あ、とても乱暴に聞こえるけど、基本お義父さんってこんな感じの喋り方なんで。
そう、どうやら、お義母さんがウチに来てくれて、眠ってる子ども達を見ていてくれているようなのだ。嫁さんも、妹さんとの電話を切り上げて、お義母さんに電話をかけた。
紹介状を書いてもらったので、翌日またCメディカルセンターに連れて行ってくれるようお願いをした。いやはやまたおんぶに抱っことは情けない。頼られると断れない性格のお義父さんは「おう、いいよ」とあっさり答えてくれた。
自宅までは、一部区間で高速道路を使用しても30分以上かかった。その頃にはもう午前1時に近くなっていた。
子ども達は一応寝ていた。見守っていてくれたお義母さんは「この家寒いわね！何度もトイレ行っちゃったわよ」なんて言いながら、帰って行った。間もなく、一旦車を置きに行ったお義父さんが、俺のシンセを持って来てくれた。
「これ、こんな重いもん持ってるからバランス崩して怪我しちゃったんじゃないの？」
うん、まあそうなんだけどさ。こちらの言葉を待つまでもなく、楽器を置くとそそくさとお義父さんも帰って行った。
家に着いたものの、まるで単なる重りのようになった左足に、俺は若干放心状態に近い感じになっていた。
「もうさ、明日病院行くんだし、髪でも洗って寝たら？」
嫁さんの言葉に促され、洗面台に向かった。この日は子ども達は嫁さんの実家で風呂に入ったそうで、嫁さんもシャワーで済ませたため、風呂にお湯を張っていなかった。なので、洗面台のシャワーヘッドで頭を洗った。
顔を洗い終えると、嫁さんが「足も洗ったら？洗面器にお湯張ってさ、洗ってあげるから」という。翌日の勤務もあるというのに、黙々と足先を洗ってくれた。ぶっきらぼうだけどね、こういうところ、できた人だと思っちゃうね。
そんなことをしているうちに、もう時計は2時になろうとしていた。ようやく子ども達が寝ている寝室に2人して向かった。
横になっても、なかなか寝付けない。それはそうだ、つい数時間前までは約束されていたここ数ヶ月の生活プランを大きく変更しなければならないのだ。
楽しみにしていた沖縄旅行は、少なくとも俺はキャンセルだろう。せっかくうまく行きかかっていた仕事は、中途半端な形で離脱せざるを得ない。いくつかヤマのある仕事だが、次のヤマまでに復帰できるのか？秋に大きなライブを控えているバンドのリハーサルは？CDのレコーディングは？
あ...傷口冷やせって言ってたな。
急に思い出して、のそのそと起きだし、冷凍庫から保冷剤を引っ張りだしてきて、装具の上からタオルで巻き付けた。
戻っても、また先ほどと同じような思考の繰り返しだ。左足を曲げられないので姿勢が限られていることもあり、落ち着かない。結局4時頃まで眠りに就けなかった。
俺の長い長い6/29がようやく終わった。
つづく。
それまで家から出なくて動かなかったら、患部の左足がひどく浮腫（むく）んでしまった。せっかく痩せた身体をキープするためにも、リハビリ歩行を今後も励行したい。カメラもしばらく触ってなかったからなー。徒歩圏内の被写体を探しに行ってみるか。
さ、膝の怪我日記の第3回だ。
怪我をした日の午前中は、長女のランドセルの視察に行っていた
(iPhone5, 1/20sec, F2.4, ISO400)
バンド練の帰りに、楽器を抱えて階段を1段抜かしで駆け下りている時に、左膝に異常を抱えた俺は、救急車を呼び病院へと運ばれた。
そこで下された診断は、5年前の右足と同じ、「膝蓋腱断裂」というものだった。
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=== Destroyed again - Backnumber ===
(1) The low sound
(2) The diagnosis
左足をひきずりながら、先ほどのカーテンの向こう側に歩いて行くと、どうやらそこが診察室のようだった。先ほども述べたように壁や床が木目の化粧板だったりして妙に古くさい。診察スペースどうしの間仕切りみたいのもなく、なんだか地方役場みたいだ。
五郎丸（違）先生の前の椅子に、左足を投げ出すように座ると、まさに先ほど撮影したレントゲンが目に入ってきた。
愕然とした。まさに5年前と全く同じ写真がそこにあった。
「ほら、お皿が本来ここにあるべきなのに、こんなに上がってる。本来太ももの筋肉と脛の骨を結ぶ腱に乗っかるような形になっているお皿が、腱が切れたことで太ももの筋肉に引っ張られて上がってしまったんですね。右足と一緒でしょ？」
あい、今思ってました。
怪我した直後は、「お皿があるから前回とは違う」と思っていたけど、やはり皿は上にずれていたのだった。
「膝蓋腱が断裂となると、1週間以内に手術して縫うしか方法がないですね。どうします？ウチでやります？」
うーーーーん。
正直、快活で話がスパスパ進む五郎丸（違）先生のことは好印象で、きっと手術も上手くやってくれそうだな、という感じはした。ただ、何しろここは自宅から10km以上も離れていて、電車の便も極めて悪いところだ。手術してしばらく入院となると、嫁さんや、嫁さんのご両親に大きな負担になるのは間違いない。
「それとも、もっとお近くの病院に紹介状を書きましょうか？」
「はい、さすがにちょっと遠いですから」
「じゃあ、どこにします？」
…どこと言われてもなぁ。
「前回はどこで手術されたんですか？」
「実はまだ横浜にいた頃で、HT記念病院というところで受けたんです。で、退院してすぐ引っ越したので、リハビリはKとOの整形外科というところでかかってました。」
「あー、あのK病院のトップだった先生が開業したところね」
あ、やっぱりそんなに有名な先生なんだ、あの先生。
「でも、あそこでは手術できませんよね？」
やっぱ、そうだよねえ。
...あ、そうだ。
「あの、今は名前変わっちゃったみたいですけど、K病院は整形外科盛んだったと思うんですが」
「あ、そうだね、あそこはスポーツ整形もやってるから、膝蓋腱なんてどーぞ来てくださいって感じだろうからね。あれ、なんて名前になったんだっけ？」
「あ、Cメディカルセンターだと思いますよ」
看護師さんが答えた。
旧K病院は実は俺の子ども2人が生まれたところだ。かなり古いが、生んだ嫁さんの印象も良かったし、整形外科としての実績は高いところだった。しかも、自宅や嫁さんの実家から車で15分もかからないし、子ども達の保育園とも同じ方向にあった。
「じゃあ、そこに紹介状書きますか。もう、明日行きますよね？本当は深夜時間帯は書けないことになってるんだけどね」
「すみません、お願いします」
「じゃ、紹介状と、精算とかまとめて看護師さんからお渡ししますんで、表で待っててくださいね」
表も何も、救急外来から入ったからどっちが表か良くわからんのだけど、まあきっと扉を出たところだろうと思い、外に出て、その椅子に座った。看護師さんがカバンとシンセも持ってきてくれた。スミマセン。
しかし、いやはやなんと、子どもの生まれた病院で手術と入院をすることになろうとは。嫁さんにもその旨メールする。もう嫁さんのお父さんの車でこっちに向かってくれているようだ。なんと有り難いことか。
5分ほどして、五郎丸（違）先生が出て行った。宿直室に戻るのかな。とりあえずお礼を言って会釈した。
それからすぐ、先ほどの看護師さんが何枚か書類を持ってやってきた。一つが紹介状で、一つが精算のお知らせだった。夜間のため事務員がいないから、即時の精算ができないらしい。それで、預かり金として5000円を渡し（保険証がない場合は1万円だって）、1週間以内に精算に来なければならないらしい。えーー。こんな遠いとこまでもう一回来るの？？？
それから、足につけた装具についても、その時に話があると思う、という。あれー、じゃあ転院先のCメディカルセンターで新しいのを調達しないといけないってことかな。
とりあえず看護師さんとの話が終わったところで、後は嫁さんとそのお父さんが来るのを待つことになった。夜間出入り口が10mほど先にあったので、その付近の椅子まで左足を引きずり移動した。またしても楽器は看護師さんが持ってきてくれた。すみません。
「なんか、このクソナビが馬鹿すぎて、H病院にばかり行っちゃってそっちの病院に行けないよ」
どうやら嫁さんチームは道に迷っているらしい。うーむ、申し訳ない。そう、お父さんの車に付いているナビは、2万円だかなんだかの爆安通信ナビで、相当精度が低いらしい。
もう日が回ってしまった。到着を待つ間、さっきまで一緒にリハーサルをしていたバンドメンバー達にLINEで現状を報告した。次々に心配の声が寄せられる。明かりの落ちた、昭和の風情漂う見知らぬ病院でちょっと孤独感を感じていたところだけに、少し暖かい気持ちになった。
かなり冷静になってきて、怪我をした時のことを思い返してみた。
10kgの楽器を持っていた。ローカル線のホームに急ぐため、下りの階段を1段抜かしで駆け下りていた。普通に着地したつもりが、左膝が抜けるようにして尻餅をついた。…この1年で6kg痩せたとは言え、楽器に加えてカバンが2〜3kgと考えると、依然数kg体重が増えた状態だ。それで1段抜かしというのが膝に大きな負担になったということだろうか。
そもそも、5年前の怪我した頃には、20kgの楽器を使っていた（怪我した時に持っていたわけじゃないけど）。その後、さすがに足に負担にあると思ったし、引っ越してローカル駅から2kg歩くことになったので、思い切って半分の重さとなる今の楽器に換えた。
しかしだ。考えてみると20kgの楽器の頃は、楽器を担いで階段を昇り降りすること自体がかなり辛かったので、そもそもエレベーターを使うようにしていた。階段で1段抜かしなんてやることはなかった。つまり20kgの楽器だったら今回の怪我をすることはなかったことになる！
そう思い至り、ドーーンと落ち込みそうになった。
しかし、それは結果論に過ぎない。20kgの楽器のままだったら、持ち上げた瞬間に腰をやっていたかもしれない。楽器を持っていなくても、階段を駆け下りていただけでも怪我していたかもしれない（実際、5年前はそうだった）。
まあいずれにしても、もうこの怪我を受け容れるしかないのだ。
そんな葛藤をしているうちに、20〜30分ほど経って、ようやく嫁さんと嫁さんのお父さんが到着した。
知らない場所に行くということで、普段使っている軽自動車ではなく、わざわざナビがついているクラウンを出してくれたのだが、何しろクソナビに惑わされたようだ。ほんと申し訳ない。
もっとも、嫁さんも嫁さんのお父さんも、極めて実利的な人なので、大げさに驚いたり、何か恨み節みたいなのをブツブツ言うことはない。そもそも、5年前に同じ姿見てるし (^_^;。
守衛さんに「あ、救急で来たものですー」的に挨拶して、自分で楽器を持って外に出た。もう結構肌寒い。病院の外は、聞いていた通り古い団地で、寝静まって真っ暗に近い雰囲気だった。
お義父さんが楽器をトランクに入れてくれて、俺は助手席に乗り込んだ。左足が曲がらないので、少し体を傾けて座る。うぁー、5年前を思い出すなぁ。
走り出すと、かなり狭い道が続く。しかも暗いし、団地特有のグルグルと回るような道で確かに分かりづらい。クソナビの言う通りに進んだが、相当大回りをしているように見えた。これ、iPhone＋ぐぐる先生の方が断然賢いんじゃないか？
車内では、まあ最初に怪我したときの状況の話をした。
「まぁ、やっちまったもんはしょうがないからな。しっかり会社も休んでさ、直しなよ」
お義父さんはこういう人なのでやりやすい。
その一方で、嫁さんは嫁さんの妹とずっと電話で話していた。
実は2週間後に、嫁さんの妹家族とウチとで、沖縄旅行を予定していたのだ。...なんて間の悪い！
2週間後なんて、旅行どころか、まだ完全に入院中だ。俺が行けるわけがない。それで、電話でどう対処すべきか話していたのだ。またまた申し訳ない。
5分ほど経ってお義父さんが嫁さんに言った。
「おい、旅行の話なんて後でいいから、ばあさんに電話してやれよ」
あ、とても乱暴に聞こえるけど、基本お義父さんってこんな感じの喋り方なんで。
そう、どうやら、お義母さんがウチに来てくれて、眠ってる子ども達を見ていてくれているようなのだ。嫁さんも、妹さんとの電話を切り上げて、お義母さんに電話をかけた。
紹介状を書いてもらったので、翌日またCメディカルセンターに連れて行ってくれるようお願いをした。いやはやまたおんぶに抱っことは情けない。頼られると断れない性格のお義父さんは「おう、いいよ」とあっさり答えてくれた。
自宅までは、一部区間で高速道路を使用しても30分以上かかった。その頃にはもう午前1時に近くなっていた。
子ども達は一応寝ていた。見守っていてくれたお義母さんは「この家寒いわね！何度もトイレ行っちゃったわよ」なんて言いながら、帰って行った。間もなく、一旦車を置きに行ったお義父さんが、俺のシンセを持って来てくれた。
「これ、こんな重いもん持ってるからバランス崩して怪我しちゃったんじゃないの？」
うん、まあそうなんだけどさ。こちらの言葉を待つまでもなく、楽器を置くとそそくさとお義父さんも帰って行った。
家に着いたものの、まるで単なる重りのようになった左足に、俺は若干放心状態に近い感じになっていた。
「もうさ、明日病院行くんだし、髪でも洗って寝たら？」
嫁さんの言葉に促され、洗面台に向かった。この日は子ども達は嫁さんの実家で風呂に入ったそうで、嫁さんもシャワーで済ませたため、風呂にお湯を張っていなかった。なので、洗面台のシャワーヘッドで頭を洗った。
顔を洗い終えると、嫁さんが「足も洗ったら？洗面器にお湯張ってさ、洗ってあげるから」という。翌日の勤務もあるというのに、黙々と足先を洗ってくれた。ぶっきらぼうだけどね、こういうところ、できた人だと思っちゃうね。
そんなことをしているうちに、もう時計は2時になろうとしていた。ようやく子ども達が寝ている寝室に2人して向かった。
横になっても、なかなか寝付けない。それはそうだ、つい数時間前までは約束されていたここ数ヶ月の生活プランを大きく変更しなければならないのだ。
楽しみにしていた沖縄旅行は、少なくとも俺はキャンセルだろう。せっかくうまく行きかかっていた仕事は、中途半端な形で離脱せざるを得ない。いくつかヤマのある仕事だが、次のヤマまでに復帰できるのか？秋に大きなライブを控えているバンドのリハーサルは？CDのレコーディングは？
あ...傷口冷やせって言ってたな。
急に思い出して、のそのそと起きだし、冷凍庫から保冷剤を引っ張りだしてきて、装具の上からタオルで巻き付けた。
戻っても、また先ほどと同じような思考の繰り返しだ。左足を曲げられないので姿勢が限られていることもあり、落ち着かない。結局4時頃まで眠りに就けなかった。
俺の長い長い6/29がようやく終わった。
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