NOBILES Days
Jump to navigationFrankly Speaking... Vol.22
今月の終わりに、長女と2人で名古屋の田舎を訪ねることにした。新幹線の画像などで大興奮しているので、「今度パパと乗ろうな」と言ったら、その後画像を見るたびに「こんどのろうな」と復唱するようになってしまった。
ほぼ2歳11ヶ月での、ママなしでの泊まりの遠出だ。あちらに着けば俺の両親も日にちを合わせて来ているので少し安心だが、さて、どうなることやらだ。
まだまだハイハイもできない次女は、長女にとっても今はまだ「ただ可愛い」存在のようだ
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/125sec, F1.8, ISO500)
じゃ、前職ぶっちゃけ回顧録の続き。
「月曜の締め切りのために、金曜から泊まり込む」
2008年春、開発していた製品のパラメーター設定のデッドラインまで残り2週間という大詰めの時期に、製品の問題点が発覚し、設計変更が施されることになった。結果、俺たちのグループは全ての設定をやり直すことになってしまった。「ひっくり返された」わけだ。
この事態を乗り切るために考えを巡らせたボスの結論は、冒頭の泊まり込み戦術だった。
前職ぶっちゃけ回顧録
「22.合宿」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
俺は嫁さんがツワリの頃だったので、「マジかー」と思ったものだが、さすが派遣社員のみんなは「業務命令とあらばっ」という感じだった。ヅメに至っては木曜日に「あれっ、泊まりって今日からじゃないんですか？なんだ、シャンプー買って来ちゃいましたよ」などと超乗り気だった。
それより、ボスは「ひっくり返される」前の日程でもヤバイからと、数週間前から毎週金曜に泊まって業務をこなしていたので、俺達は何も言い返せなかった。
当時残業時間も事実上青天井で、その辺ユルユルだった前職ではあったが、さすがにボスが上長陣に方針を報告しに行った。
「金曜から、終わるまで泊まりでやります」
これはあくまで俺が話を聞いたボスの目線での話だが、上長は「そうか、しょうがないね、頑張ってください」と、半ば興味なかったらしい。
上司に言う前の時点でもボスは、日程を成立させるには泊まるしかないというのは本当に思っていたが、本当に泊まり業務をするかどうかは半々と思っていたという。
というのは、派遣社員含めた全員で泊まり込んでまで業務をするのはさすがのボスにとっても異常事態だ。しかもそれは自分達の預かり知らぬ状況の変化によって発生した緊迫日程によるものだ。だからボスは、泊まりの覚悟を上長に伝えれば、製品の出荷日程を変えることなく、何らかの調整をすることで2〜3日程度の日程を作ってくれるんじゃないか、と期待していたのだ。
が、上長はあっさり承認した。
「期待した俺がアホだった。やるしかねーか。合宿だ、合宿」。
もう俺たちは泊まってなんとかするしかなくなったというわけだ。でも、悲壮感はなかった。意図をくんでくれなかった上長には、全て予定通りにこなしてから文句を言ってやろう、という反逆のモチベーションだ。
「あのさ、銭湯が近くにないか調べといて。せめて寝る前にさっぱりしてから寝ようぜ。」
徒歩10分以内に二つ銭湯があることも分かった。
そうして、「合宿」初日となる金曜日がやって来た。
俺は少しでも快適にと思い、着替え、布団がわりの大きめのクッションと、毛布をトランクに入れて出社した。
さて、この時の業務の内容について少し説明しておこう。
何度か言ってるように、製品のパラメーターを、PCといくつかの計測器からなる「システム」で自動設定させていくのがこのグループの仕事のやり方だった。つまり、設定そのものではなく、設定を行うシステムがうまく動くようなメンテナンス＆サポート的に人間が動くわけだ。
開発途中なので「システム」は完璧ではない。
特に難しかったことがある。製品のある機能を実現するために、2軸4つずつ程度のパラメーターが、時系列第1段階から第5段階まで、綺麗に昇順または降順で並ぶ必要があった。数字が綺麗に並ぶサマから、我々はこれを「開き」と呼んでいた。
「開き」が厄介だったのは、各軸が微妙に連動していたことだ。ある軸の数値を変更する場合、連動するパラメーターに影響を与えないよう、計算して変更しなければならなかったのだ。しかも、ICのバグにより、軸ごとで桁を跨いだ設定を許されなかったので、狙った効果をパラメーターに反映させるのは超難解な数字パズルの様相を呈した。
これを俺たちは「（開きの）微調」と通称していた。
最悪なことに、「微調」はデータを見ながら人間が最終調整をする必要があった。リソースが限られる中では、とてもではないが、これらの一連の動作をプログラムに反映しきれなかった。
多少パラメーターが少なかった製品群C向けの「微調」は俺もできた。というか、将来のためにボスが俺に教え込んだ。しかし、当時膨大な量を設定する必要があった製品群D向けの微調ははるかに難解なもので俺には太刀打ちできなかった。つまり、ボスでしかできない作業だった。
この時、問題が起きて設計変更が入ってやり直すことになったのも、製品群Dに関わるところだった。つまり俺が担当していた製品群Cはやり直しの必要がなかった。だからこの時の仕事の進め方は、とにかくボスがガンガン微調を行い、俺とSがその補佐的な作業、スギさんは特に新機軸のケア、ヅメはひたすら繰り返しの確認作業といった分担だった。
定時の18時を過ぎて夕食を社食で食べ、また業務に戻る。22時の残業限界時間が来る。この時間で照明が消える。が、俺たちのグルーブは個室なので、さっくり電気のスイッチを入れ直して仕事を続ける。前日までの自分たちと同じく、23時くらいまでは暗闇で仕事をしているメンバーもいたが、その気配もやがて消えた。でも、それからの静寂の時間は全員妙に集中力が高まった。
だが、不幸にも仕事は順調に進まなかった。設計変更が入ったために、我々が想定していた製品とは状態が変わり、言ってみれば「手負い」の状態だったので、細々した問題が足を引っ張った。銭湯にみんなで行く余裕などとてもなくなった。
ただ、事業所内にあるシャワーの所在は分かったので、代わりばんこに浴びに行った。
そして「合宿」1日目となる金曜日は26時頃まで業務を続けたところで、ボスが「明日以降もあるからな...そろそろ寝るか」と言って寝ることになった。
社屋の入口にある自動改札のようなゲートを一旦出て、すぐ横の保安室に置いてある深夜残業届に終業時間を記載し、またゲートを通って中に入って寝る。さすがに初めての体験だった。
さ、寝床の確保だ。
俺は自分の居室机の下に陣取った。床に段ボールと新聞を敷き、そこに持ってきたクッションを置いた。日頃から昼休みの昼寝に使っていた枕と、今回持ってきたブランケットを使えば、それなりの寝具にはなった。が、ホコリっぽくて快適とはいいがたかった。
ボスは会議テーブル列にあった、事業部長用のソファセットを見つけ、寝床にした。これはなかなか快適だったようだ。
Sは部屋の椅子を二つ並べて寝てたんだったかな。いい椅子なので、座って快適な形状なため、逆に並べて寝るには少し不便だった。ヅメはフロアを出たところの休憩スペースのソファを使った。が、まだ春先で肌寒く、翌日からは会議室の椅子に切り替えた。
最後にスギさんは...確か自分の机にうっつ伏して寝ていたと思う。それじゃ絶対疲れ取れないでしょ？？という寝方だった。
なんだか、大学の卒論時代の研究室泊を思い起こさせたが、その思い出に浸る余裕はなかった。
つづく。
ほぼ2歳11ヶ月での、ママなしでの泊まりの遠出だ。あちらに着けば俺の両親も日にちを合わせて来ているので少し安心だが、さて、どうなることやらだ。
まだまだハイハイもできない次女は、長女にとっても今はまだ「ただ可愛い」存在のようだ
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/125sec, F1.8, ISO500)
じゃ、前職ぶっちゃけ回顧録の続き。
「月曜の締め切りのために、金曜から泊まり込む」
2008年春、開発していた製品のパラメーター設定のデッドラインまで残り2週間という大詰めの時期に、製品の問題点が発覚し、設計変更が施されることになった。結果、俺たちのグループは全ての設定をやり直すことになってしまった。「ひっくり返された」わけだ。
この事態を乗り切るために考えを巡らせたボスの結論は、冒頭の泊まり込み戦術だった。
前職ぶっちゃけ回顧録
「22.合宿」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
俺は嫁さんがツワリの頃だったので、「マジかー」と思ったものだが、さすが派遣社員のみんなは「業務命令とあらばっ」という感じだった。ヅメに至っては木曜日に「あれっ、泊まりって今日からじゃないんですか？なんだ、シャンプー買って来ちゃいましたよ」などと超乗り気だった。
それより、ボスは「ひっくり返される」前の日程でもヤバイからと、数週間前から毎週金曜に泊まって業務をこなしていたので、俺達は何も言い返せなかった。
当時残業時間も事実上青天井で、その辺ユルユルだった前職ではあったが、さすがにボスが上長陣に方針を報告しに行った。
「金曜から、終わるまで泊まりでやります」
これはあくまで俺が話を聞いたボスの目線での話だが、上長は「そうか、しょうがないね、頑張ってください」と、半ば興味なかったらしい。
上司に言う前の時点でもボスは、日程を成立させるには泊まるしかないというのは本当に思っていたが、本当に泊まり業務をするかどうかは半々と思っていたという。
というのは、派遣社員含めた全員で泊まり込んでまで業務をするのはさすがのボスにとっても異常事態だ。しかもそれは自分達の預かり知らぬ状況の変化によって発生した緊迫日程によるものだ。だからボスは、泊まりの覚悟を上長に伝えれば、製品の出荷日程を変えることなく、何らかの調整をすることで2〜3日程度の日程を作ってくれるんじゃないか、と期待していたのだ。
が、上長はあっさり承認した。
「期待した俺がアホだった。やるしかねーか。合宿だ、合宿」。
もう俺たちは泊まってなんとかするしかなくなったというわけだ。でも、悲壮感はなかった。意図をくんでくれなかった上長には、全て予定通りにこなしてから文句を言ってやろう、という反逆のモチベーションだ。
「あのさ、銭湯が近くにないか調べといて。せめて寝る前にさっぱりしてから寝ようぜ。」
徒歩10分以内に二つ銭湯があることも分かった。
そうして、「合宿」初日となる金曜日がやって来た。
俺は少しでも快適にと思い、着替え、布団がわりの大きめのクッションと、毛布をトランクに入れて出社した。
さて、この時の業務の内容について少し説明しておこう。
何度か言ってるように、製品のパラメーターを、PCといくつかの計測器からなる「システム」で自動設定させていくのがこのグループの仕事のやり方だった。つまり、設定そのものではなく、設定を行うシステムがうまく動くようなメンテナンス＆サポート的に人間が動くわけだ。
開発途中なので「システム」は完璧ではない。
特に難しかったことがある。製品のある機能を実現するために、2軸4つずつ程度のパラメーターが、時系列第1段階から第5段階まで、綺麗に昇順または降順で並ぶ必要があった。数字が綺麗に並ぶサマから、我々はこれを「開き」と呼んでいた。
「開き」が厄介だったのは、各軸が微妙に連動していたことだ。ある軸の数値を変更する場合、連動するパラメーターに影響を与えないよう、計算して変更しなければならなかったのだ。しかも、ICのバグにより、軸ごとで桁を跨いだ設定を許されなかったので、狙った効果をパラメーターに反映させるのは超難解な数字パズルの様相を呈した。
これを俺たちは「（開きの）微調」と通称していた。
最悪なことに、「微調」はデータを見ながら人間が最終調整をする必要があった。リソースが限られる中では、とてもではないが、これらの一連の動作をプログラムに反映しきれなかった。
多少パラメーターが少なかった製品群C向けの「微調」は俺もできた。というか、将来のためにボスが俺に教え込んだ。しかし、当時膨大な量を設定する必要があった製品群D向けの微調ははるかに難解なもので俺には太刀打ちできなかった。つまり、ボスでしかできない作業だった。
この時、問題が起きて設計変更が入ってやり直すことになったのも、製品群Dに関わるところだった。つまり俺が担当していた製品群Cはやり直しの必要がなかった。だからこの時の仕事の進め方は、とにかくボスがガンガン微調を行い、俺とSがその補佐的な作業、スギさんは特に新機軸のケア、ヅメはひたすら繰り返しの確認作業といった分担だった。
定時の18時を過ぎて夕食を社食で食べ、また業務に戻る。22時の残業限界時間が来る。この時間で照明が消える。が、俺たちのグルーブは個室なので、さっくり電気のスイッチを入れ直して仕事を続ける。前日までの自分たちと同じく、23時くらいまでは暗闇で仕事をしているメンバーもいたが、その気配もやがて消えた。でも、それからの静寂の時間は全員妙に集中力が高まった。
だが、不幸にも仕事は順調に進まなかった。設計変更が入ったために、我々が想定していた製品とは状態が変わり、言ってみれば「手負い」の状態だったので、細々した問題が足を引っ張った。銭湯にみんなで行く余裕などとてもなくなった。
ただ、事業所内にあるシャワーの所在は分かったので、代わりばんこに浴びに行った。
そして「合宿」1日目となる金曜日は26時頃まで業務を続けたところで、ボスが「明日以降もあるからな...そろそろ寝るか」と言って寝ることになった。
社屋の入口にある自動改札のようなゲートを一旦出て、すぐ横の保安室に置いてある深夜残業届に終業時間を記載し、またゲートを通って中に入って寝る。さすがに初めての体験だった。
さ、寝床の確保だ。
俺は自分の居室机の下に陣取った。床に段ボールと新聞を敷き、そこに持ってきたクッションを置いた。日頃から昼休みの昼寝に使っていた枕と、今回持ってきたブランケットを使えば、それなりの寝具にはなった。が、ホコリっぽくて快適とはいいがたかった。
ボスは会議テーブル列にあった、事業部長用のソファセットを見つけ、寝床にした。これはなかなか快適だったようだ。
Sは部屋の椅子を二つ並べて寝てたんだったかな。いい椅子なので、座って快適な形状なため、逆に並べて寝るには少し不便だった。ヅメはフロアを出たところの休憩スペースのソファを使った。が、まだ春先で肌寒く、翌日からは会議室の椅子に切り替えた。
最後にスギさんは...確か自分の机にうっつ伏して寝ていたと思う。それじゃ絶対疲れ取れないでしょ？？という寝方だった。
なんだか、大学の卒論時代の研究室泊を思い起こさせたが、その思い出に浸る余裕はなかった。
つづく。
nobilesの投稿(01:00:08-2011-08-05) -
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