NOBILES Days
Jump to navigationFrankly Speaking... Vol.32
先週、現職の親睦会なるものに出席した。毎月ワンコイン、全社員が積み立てて、そこに会社からも補助金が出て、年に2回ほど飲み会をやるってな感じだ。先日娘と行ったディズニーアンバサダーもそれだ。
今回はウィークデーで、家族連れではない。が、場所は都庁の45階、地上200mにあるラウンジで行われた。なかなか豪華なロケーションだ。夜景に期待して一眼レフ一式持って行ったのだが、あいにくの天気で雨粒が窓に滴っていて、ろくな写真が撮れなかった。
バイキング形式でサーブされた料理はかなり美味だった。いつぞやのどこぞやのホテルとはエライ違いだった。が、量に対して人数の方が多いらしく、たらふくとはいかなかった。ハイエナのような連中はどこにでもいる。
そして、メインイベントがビンゴ大会だ。かなり豪華な景品だった。1位はいわゆるミラーレスカメラのダブルズームキット、2位はルンバ（先輩が当てた！）、3位iPad2だったかな。
ここで例のグループリーダーが驚くべき行動を2連発した。
景品の中に、今彼が関わっている製品があったので、「あれもらえば試作品が一つ増えるじゃないですか」的な軽口をしたのは、完全に俺の失敗だった。どうもその件では（その件でも？）他部門と揉めてるらしく、そのストレスに火をつけてしまったらしい。
「あいつら、せっかくこっちがアイディア出してるのに、電波法だのなんだの言って『他へ聞け』だなんて言いやがって、何様のつもりだ」
いやいや、あんたのアイディア、電波法引っかかるであろうことくらい、あんた以外全員気づいてたし。その部門はソフトウェアの部門なんだから、ハードウェアについては他の部門に聞いてくれ、って普通の対応だし。
っていうか！
ここ、会社の親睦会なんだから、近くに本人達がいる可能性だって大いにあるんですけど！
「いやいや、まあまあ、ほら、ご本人達いらっしゃるかもしれないですよ」
声のトーンを落としてなだめるが、リーダーはまったく意に介さない。
「あいつら、人間のクズだ！」
...
お ま え だ よ ！！
俺は諦めて、せめて奴こと「クズ」と仲間だと思われるのがイヤで、酒を取りに行くふりをしてその場を離れた。
さらに驚くべきことに、散々暴言吐いた挙句、ビンゴの景品がなくなったと分かるや否や、「クズ」は閉会を待たずにさっさと帰ってしまった。最後の最後に当たった先輩がルンバを受け取りに行って、部署のみんなが盛り上がってるのに、だ。お前にとってこの会はなんだ？親睦会じゃなくてビンゴ会か？はたまた無礼講暴言会か？
普段なかなか飲まない部の人達とも飲めてせっかく楽しかったのに。なんとかならんのか、このインモラルクリエチャー。
From 200m height
(PentaxK-7, PentaxDA15mmLimitedF4.0, 1/100sec, F10.0, ISO100)
さて、ぶっちゃけ回顧録の潔癖性禁制の話題はまだ続くよ。
Oの転属によって1人になったボンクラーズ、Fはなんと、20代の女性派遣社員「店長」を口説き始めた。2009年2月のことである。
前職ぶっちゃけ回顧録
「32.フリフリピンク」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
22.合宿
23.終戦
24.相談
25.寡黙なる広島人（島根出身）
26.ネット・ゲーマー
27.少年
28.強奪
29.放置
30.曲がり角
31.隠れファン
会社の業績が悪くなって派遣さんが全員辞めることになったのも、ヤツが行動を起こすキッカケだったのだろう。店長は3月末での契約終了が決まっていた。愛しの店長に会える期間が1ヶ月だけになってしまったということによる焦りだったのか。しかし、Fの店長に対する「君の隠れファンなんだよねえ」というキモすぎる告白は、その直後に店長が他の社員に一部始終を暴露することで、あっという間に部のメンバー達の知るところとなった。
今思えばFには、派遣社員という弱い立場だけに「店長」が人に言わないのでは、という計算があったのではないかと思う。そのテの話で揉めた場合は、必ず派遣さんの契約が解除されて事態収束が図られるからだ。
だが、店長にしてみれば、既に1ヶ月そこらで契約解除が決まっていた。失うものはなかったのだ。それを読めずに、色恋にほだされて行動を起こしてしまったことが、Fの立場の更なる綻びの端緒となるのであった。
そしてまた、この「あと1ヶ月かそこらで辞める」という立場の人間が、意外なところで大きく糸をひくことになる。それについてはおいおい明らかにしよう。
当時の回想に戻ろう。
店長には悪いが、俺たちにとっては、行動を起こしたFのネタは格好の好奇の対象でもあった。連日この話で持ちきりとなり、「隠れファンなんだ」はある種、流行語のようになった。周りと比較するとFに対して辛辣ではなかった「ヤマちゃん」も、この件では話にそれなりに参加はしていたように記憶している。
しかし、それから1〜2週間も経っていないと思うが、俺はヤマちゃんのある変化に気づいた。それまで周囲にあわせて「F」という隠語を使っていたヤマちゃんが、ある時を境にFを「汚物（おぶつ）」と呼び出したのだ。しかも、こちらが「えっ」と思うくらい、辛口評を展開し始めた。それは一瞬、「ヤマちゃん、店長好きなのか？」なんて思うくらいだったが、それにしてもタイミングが合わないので、釈然としていなかった。
そんなある日、Kさんがなにかを画面で見ていた。俺が何気なく後ろを通ると、「くっくっく」と笑いを押し殺している。
「どうしたんスか？」
「あ、○○っち（俺のこと）か。...くくく。コレ、危険だから黙って見てみて。ぶくくく」
画面に表示されていたのは、悪ノリの好きな先輩が、あの「告白の日」の出来事を写真日記的に面白おかしく書いたExcelだった。
「ぷくくく！これすごいっすね。 俺にも転送してくださいよー」
「ぷくくく！分かったー。 コレ、タクさんが作ったやつだから、言ってみるねー」
ほどなく、作者であるタクさんからそのExcelが送られてきた。さっくり開けようとするとパスワードがかかっている。すると、テンポ良くKさんが数メートル先の自席から声を飛ばした。
「OBUTSUだよっ！」
ローマ字でOBUTSUと入れると、ファイルが開いた。
まあ別にもう内容はわかってることだし、小説家が書いたわけではないので、10行ちょっとのものなのだが、怪談調におどろおどろしく書いてあった。また、どこから見繕ってきたのか、笑顔の店長と、スケベに笑うFの写真が並べてあって、更なるおぞましさを演出していた。
そして、その店長の写真には矢印で吹き出しがついていた。矢印は店長の着た、まさに喫茶店店員風の少しフリルぎみのブラウスを差していて、こう記されていた。
「このフリフリにおぢさんがハマッちゃうのかな？」
...あれっ？
俺はその一文に、なにか心にひっかかるものを感じた。
...そうだ、あの人だ。
ここで、まだ触れていなかった、前職の派遣社員列伝を展開しよう。
俺が思い出したその人は、まだ前職の事業所が牧歌的なロケーションに在った頃に雇われていた女性派遣社員だ。歳は当時30代後半で、いつも強烈な香水をつけていた。顔は派手かと思いきや、漫画「Yawara!」に出てくるノッポ、「フジコさん」そっくりな能面ヅラだった。
実は、先述の派遣社員「ヅメ」の前任者で、ボスのグループの仕事もしていた。
入ったばかりの頃は結婚していたのだが、いつもタイトのミニスカートを履き、原チャリで通勤していた。
ボスによれば、そんなスカートのくせに、低い場所にあるものをとる時にガバリと足を開いて座り込むものだから、ボスとしては見たくもないのに目撃してしまい、目を洗浄したくなったと言っていた。スケべなボスがそこまで言うのは、余程だったのだろう。
ところがしばらくして離婚したらしい。離婚を機に、コスチュームが変わった。ミニスカートがゴスロリになったのだ。いくつかゴスロリ衣装を持っていたようだが、とりわけピンク色の衣装のインパクトは凄まじく、一発であだ名は「ピンクちゃん」になった。
女性にしては少し大柄な能面ヅラがピンク色のゴスロリコスチュームを着て、強烈な香水の匂いを撒き散らしながら、原チャリで突き進む姿は、合戦に赴く武士のように勇ましかった。
だがその勇ましさとは裏腹にピンクちゃんは、自律神経系を患ってしまったらしく、次第に勤務が不定期になっていった。それではどんどん数をこなしたいボスとしては困ってしまう。
結局、たしか在籍1年程度で、ピンクちゃんは契約解除となり、ヅメがやってきたのだった。事業所が移転するより前の話だ。
回数は多くなかったが、俺もピンクちゃんには多少仕事をお願いしたことがある。
まあ、それなりにこなしてはくれたが、それ以上の気を利かせるとかはできないし、何より香水が強烈過ぎて近くにいると気持ち悪くなったという記憶が強い。
さ、閑話休題...。
いや、そうでもないな。話はしっかりつながる。
先輩タクさんが悪ふざけで書いた、「フリフリ」で、俺は不覚にもピンクちゃんを思い出してしまった。
タクさん作の「秘密のExcel」で並べられたFと「店長」は、どうやって見ても釣り合わなかったが、アキバ系のFとゴスロリピンクちゃんならお似合いだなオエッ、...などと下らんことを考えた。
そのExcelは、作者タクさんから、ccで派遣社員Kさん、ヤマちゃんが入れられてメールで送られてきていた。
このメンバーに、俺のアイディアを伝えたくなった俺は、全員にこう返信した。
「フリフリと言えば、すんごいフリフリいましたよね！まさかF、そこもファンだったりして...」
オエッとなりそうな妄想を分配することで少し気が晴れた俺はパソコンの電源を落として帰路についた。
まだ長女が数ヶ月と小さかった時代だ。その週末は会社の出来事を思い出すことなく家族と平和に過ごした。
週が明けて出社する。週明けは社屋も冷え切って室内でも寒い。最上階だからというのもあるかもしれない。心なしか社員達の出社ペースも普段より遅めだ。俺も、気怠く朝のメールチェックを始めた。
すると、俺は急に背後から2人に肩を掴まれた。Kさんとヤマちゃんだった。
ヤマちゃんはグッと俺の方に顔を寄せて、少し凄むようにこう聞いた。
「おい○○っち（俺ね）、誰にも言ってないよな？」
ヤマちゃんはジャン・レノのような短髪で、割と目がギョロっとしているので、こうして凄まれると少し怖い。一方でKさんはいつもの飄々とした調子でニヤニヤとそれを見ていた。
と言うか、まずなんのハナシか分からない。
「な、なに、どうしたの？」
「いいか、心して聞けよ」
「な、なにを？」
一呼吸だけ置いてヤマちゃんは少し力を込めて低くこう言った。
「マジなんだよ。」
マジ...どれがマジだ？何がマジなんだ？
月曜の寒さでかじかんだ脳みそに必死に血液を送り込んで回転数を上げる。土日の記憶を遡り、金曜の帰り際まで想いを巡らせてハッとする。
Fのことだ。
そこまで至ってもまだ理解できない。まさか店長が返事をしたのか？
「え、あ、えふ？て、てんちょ？」
しどろもどろの俺を一刀両断するかのようにヤマちゃんが制した。
「ばか、んなわけないだろ、ピンクだよ。Fとピンク、あいつら、デキてたんだよ！」
！！！！
あのどうしようもない、絶望感にすら似た驚きはなんと表現すべきか。こういう時、人は言葉を失い、ただ突っ伏すのみである。俺はそれを身を持って知った。
マジかよ。俺が閃いた「アキバオタク系Fとゴスロリ系ピンクちゃん」は、本当に付き合っていたのだ。
だが、こんなものは驚きの入口でしかなかったのだ。
次回はもっとエグくなるよ。
今回はウィークデーで、家族連れではない。が、場所は都庁の45階、地上200mにあるラウンジで行われた。なかなか豪華なロケーションだ。夜景に期待して一眼レフ一式持って行ったのだが、あいにくの天気で雨粒が窓に滴っていて、ろくな写真が撮れなかった。
バイキング形式でサーブされた料理はかなり美味だった。いつぞやのどこぞやのホテルとはエライ違いだった。が、量に対して人数の方が多いらしく、たらふくとはいかなかった。ハイエナのような連中はどこにでもいる。
そして、メインイベントがビンゴ大会だ。かなり豪華な景品だった。1位はいわゆるミラーレスカメラのダブルズームキット、2位はルンバ（先輩が当てた！）、3位iPad2だったかな。
ここで例のグループリーダーが驚くべき行動を2連発した。
景品の中に、今彼が関わっている製品があったので、「あれもらえば試作品が一つ増えるじゃないですか」的な軽口をしたのは、完全に俺の失敗だった。どうもその件では（その件でも？）他部門と揉めてるらしく、そのストレスに火をつけてしまったらしい。
「あいつら、せっかくこっちがアイディア出してるのに、電波法だのなんだの言って『他へ聞け』だなんて言いやがって、何様のつもりだ」
いやいや、あんたのアイディア、電波法引っかかるであろうことくらい、あんた以外全員気づいてたし。その部門はソフトウェアの部門なんだから、ハードウェアについては他の部門に聞いてくれ、って普通の対応だし。
っていうか！
ここ、会社の親睦会なんだから、近くに本人達がいる可能性だって大いにあるんですけど！
「いやいや、まあまあ、ほら、ご本人達いらっしゃるかもしれないですよ」
声のトーンを落としてなだめるが、リーダーはまったく意に介さない。
「あいつら、人間のクズだ！」
...
お ま え だ よ ！！
俺は諦めて、せめて奴こと「クズ」と仲間だと思われるのがイヤで、酒を取りに行くふりをしてその場を離れた。
さらに驚くべきことに、散々暴言吐いた挙句、ビンゴの景品がなくなったと分かるや否や、「クズ」は閉会を待たずにさっさと帰ってしまった。最後の最後に当たった先輩がルンバを受け取りに行って、部署のみんなが盛り上がってるのに、だ。お前にとってこの会はなんだ？親睦会じゃなくてビンゴ会か？はたまた無礼講暴言会か？
普段なかなか飲まない部の人達とも飲めてせっかく楽しかったのに。なんとかならんのか、このインモラルクリエチャー。
From 200m height
(PentaxK-7, PentaxDA15mmLimitedF4.0, 1/100sec, F10.0, ISO100)
さて、ぶっちゃけ回顧録の潔癖性禁制の話題はまだ続くよ。
Oの転属によって1人になったボンクラーズ、Fはなんと、20代の女性派遣社員「店長」を口説き始めた。2009年2月のことである。
前職ぶっちゃけ回顧録
「32.フリフリピンク」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
22.合宿
23.終戦
24.相談
25.寡黙なる広島人（島根出身）
26.ネット・ゲーマー
27.少年
28.強奪
29.放置
30.曲がり角
31.隠れファン
会社の業績が悪くなって派遣さんが全員辞めることになったのも、ヤツが行動を起こすキッカケだったのだろう。店長は3月末での契約終了が決まっていた。愛しの店長に会える期間が1ヶ月だけになってしまったということによる焦りだったのか。しかし、Fの店長に対する「君の隠れファンなんだよねえ」というキモすぎる告白は、その直後に店長が他の社員に一部始終を暴露することで、あっという間に部のメンバー達の知るところとなった。
今思えばFには、派遣社員という弱い立場だけに「店長」が人に言わないのでは、という計算があったのではないかと思う。そのテの話で揉めた場合は、必ず派遣さんの契約が解除されて事態収束が図られるからだ。
だが、店長にしてみれば、既に1ヶ月そこらで契約解除が決まっていた。失うものはなかったのだ。それを読めずに、色恋にほだされて行動を起こしてしまったことが、Fの立場の更なる綻びの端緒となるのであった。
そしてまた、この「あと1ヶ月かそこらで辞める」という立場の人間が、意外なところで大きく糸をひくことになる。それについてはおいおい明らかにしよう。
当時の回想に戻ろう。
店長には悪いが、俺たちにとっては、行動を起こしたFのネタは格好の好奇の対象でもあった。連日この話で持ちきりとなり、「隠れファンなんだ」はある種、流行語のようになった。周りと比較するとFに対して辛辣ではなかった「ヤマちゃん」も、この件では話にそれなりに参加はしていたように記憶している。
しかし、それから1〜2週間も経っていないと思うが、俺はヤマちゃんのある変化に気づいた。それまで周囲にあわせて「F」という隠語を使っていたヤマちゃんが、ある時を境にFを「汚物（おぶつ）」と呼び出したのだ。しかも、こちらが「えっ」と思うくらい、辛口評を展開し始めた。それは一瞬、「ヤマちゃん、店長好きなのか？」なんて思うくらいだったが、それにしてもタイミングが合わないので、釈然としていなかった。
そんなある日、Kさんがなにかを画面で見ていた。俺が何気なく後ろを通ると、「くっくっく」と笑いを押し殺している。
「どうしたんスか？」
「あ、○○っち（俺のこと）か。...くくく。コレ、危険だから黙って見てみて。ぶくくく」
画面に表示されていたのは、悪ノリの好きな先輩が、あの「告白の日」の出来事を写真日記的に面白おかしく書いたExcelだった。
「ぷくくく！これすごいっすね。 俺にも転送してくださいよー」
「ぷくくく！分かったー。 コレ、タクさんが作ったやつだから、言ってみるねー」
ほどなく、作者であるタクさんからそのExcelが送られてきた。さっくり開けようとするとパスワードがかかっている。すると、テンポ良くKさんが数メートル先の自席から声を飛ばした。
「OBUTSUだよっ！」
ローマ字でOBUTSUと入れると、ファイルが開いた。
まあ別にもう内容はわかってることだし、小説家が書いたわけではないので、10行ちょっとのものなのだが、怪談調におどろおどろしく書いてあった。また、どこから見繕ってきたのか、笑顔の店長と、スケベに笑うFの写真が並べてあって、更なるおぞましさを演出していた。
そして、その店長の写真には矢印で吹き出しがついていた。矢印は店長の着た、まさに喫茶店店員風の少しフリルぎみのブラウスを差していて、こう記されていた。
「このフリフリにおぢさんがハマッちゃうのかな？」
...あれっ？
俺はその一文に、なにか心にひっかかるものを感じた。
...そうだ、あの人だ。
ここで、まだ触れていなかった、前職の派遣社員列伝を展開しよう。
俺が思い出したその人は、まだ前職の事業所が牧歌的なロケーションに在った頃に雇われていた女性派遣社員だ。歳は当時30代後半で、いつも強烈な香水をつけていた。顔は派手かと思いきや、漫画「Yawara!」に出てくるノッポ、「フジコさん」そっくりな能面ヅラだった。
実は、先述の派遣社員「ヅメ」の前任者で、ボスのグループの仕事もしていた。
入ったばかりの頃は結婚していたのだが、いつもタイトのミニスカートを履き、原チャリで通勤していた。
ボスによれば、そんなスカートのくせに、低い場所にあるものをとる時にガバリと足を開いて座り込むものだから、ボスとしては見たくもないのに目撃してしまい、目を洗浄したくなったと言っていた。スケべなボスがそこまで言うのは、余程だったのだろう。
ところがしばらくして離婚したらしい。離婚を機に、コスチュームが変わった。ミニスカートがゴスロリになったのだ。いくつかゴスロリ衣装を持っていたようだが、とりわけピンク色の衣装のインパクトは凄まじく、一発であだ名は「ピンクちゃん」になった。
女性にしては少し大柄な能面ヅラがピンク色のゴスロリコスチュームを着て、強烈な香水の匂いを撒き散らしながら、原チャリで突き進む姿は、合戦に赴く武士のように勇ましかった。
だがその勇ましさとは裏腹にピンクちゃんは、自律神経系を患ってしまったらしく、次第に勤務が不定期になっていった。それではどんどん数をこなしたいボスとしては困ってしまう。
結局、たしか在籍1年程度で、ピンクちゃんは契約解除となり、ヅメがやってきたのだった。事業所が移転するより前の話だ。
回数は多くなかったが、俺もピンクちゃんには多少仕事をお願いしたことがある。
まあ、それなりにこなしてはくれたが、それ以上の気を利かせるとかはできないし、何より香水が強烈過ぎて近くにいると気持ち悪くなったという記憶が強い。
さ、閑話休題...。
いや、そうでもないな。話はしっかりつながる。
先輩タクさんが悪ふざけで書いた、「フリフリ」で、俺は不覚にもピンクちゃんを思い出してしまった。
タクさん作の「秘密のExcel」で並べられたFと「店長」は、どうやって見ても釣り合わなかったが、アキバ系のFとゴスロリピンクちゃんならお似合いだなオエッ、...などと下らんことを考えた。
そのExcelは、作者タクさんから、ccで派遣社員Kさん、ヤマちゃんが入れられてメールで送られてきていた。
このメンバーに、俺のアイディアを伝えたくなった俺は、全員にこう返信した。
「フリフリと言えば、すんごいフリフリいましたよね！まさかF、そこもファンだったりして...」
オエッとなりそうな妄想を分配することで少し気が晴れた俺はパソコンの電源を落として帰路についた。
まだ長女が数ヶ月と小さかった時代だ。その週末は会社の出来事を思い出すことなく家族と平和に過ごした。
週が明けて出社する。週明けは社屋も冷え切って室内でも寒い。最上階だからというのもあるかもしれない。心なしか社員達の出社ペースも普段より遅めだ。俺も、気怠く朝のメールチェックを始めた。
すると、俺は急に背後から2人に肩を掴まれた。Kさんとヤマちゃんだった。
ヤマちゃんはグッと俺の方に顔を寄せて、少し凄むようにこう聞いた。
「おい○○っち（俺ね）、誰にも言ってないよな？」
ヤマちゃんはジャン・レノのような短髪で、割と目がギョロっとしているので、こうして凄まれると少し怖い。一方でKさんはいつもの飄々とした調子でニヤニヤとそれを見ていた。
と言うか、まずなんのハナシか分からない。
「な、なに、どうしたの？」
「いいか、心して聞けよ」
「な、なにを？」
一呼吸だけ置いてヤマちゃんは少し力を込めて低くこう言った。
「マジなんだよ。」
マジ...どれがマジだ？何がマジなんだ？
月曜の寒さでかじかんだ脳みそに必死に血液を送り込んで回転数を上げる。土日の記憶を遡り、金曜の帰り際まで想いを巡らせてハッとする。
Fのことだ。
そこまで至ってもまだ理解できない。まさか店長が返事をしたのか？
「え、あ、えふ？て、てんちょ？」
しどろもどろの俺を一刀両断するかのようにヤマちゃんが制した。
「ばか、んなわけないだろ、ピンクだよ。Fとピンク、あいつら、デキてたんだよ！」
！！！！
あのどうしようもない、絶望感にすら似た驚きはなんと表現すべきか。こういう時、人は言葉を失い、ただ突っ伏すのみである。俺はそれを身を持って知った。
マジかよ。俺が閃いた「アキバオタク系Fとゴスロリ系ピンクちゃん」は、本当に付き合っていたのだ。
だが、こんなものは驚きの入口でしかなかったのだ。
次回はもっとエグくなるよ。
nobilesの投稿(23:50:41-2012-03-07) -
カテゴリ: Main
コメント
果汁３％ wrote:
2012-03-09 09:29:16
nobiles wrote:
キタね。
いやほんと、あの時のヤマちゃんは、いつ俺の脳天に頭突きかましてもおかしくない眼だったわ。
いやほんと、あの時のヤマちゃんは、いつ俺の脳天に頭突きかましてもおかしくない眼だったわ。
2012-03-10 02:03:46
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