NOBILES Days
Jump to navigationFrankly Speaking... Vol.35
嫁さんが悩んでいる。
家の近くの営業所に転勤できたのはいいのだが、営業所ならではの古い体質だったり、周囲の人に恵まれなかったりで、結構参っているようだ。せっかく子どもとの時間が増えても、本人が苦しんでは本末転倒だ。
門外漢である俺が提供できる解決案にも限界がある。なんとも歯がゆいことだ。どうも嫁さんのそういう状態は子どもにも敏感に伝わるらしい。次女が夜中に起きたり、泣いてしまったりしている。少しずつでも改善していけば良いのだが。
Temple Bell
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/100sec, F2.5, ISO100)
めちゃくちゃ間空いたから（9ヶ月か！）筆を置いたと思ってたでしょ？ぶっちゃけ回顧録。
ところがね、諦めてないんだな、これが。さすがに4年くらい前のことで記憶が曖昧になりかけてるところもあるけどね。っていうか、どういう話でシメるのか迷ってんだよ (^_^;。
前回で「Obutsu」Fの実態を暴露したところで（ある意味一番衝撃的な話だったので、それで間が空いた側面はある）、Fは一旦置いといて、今度は例の「かの国」からの研修生Jの話をしよう。こないだ、現職の問題児をJとしてしまったので被っているが、赤の他人なので悪しからず。ダメさは似てるが、若干ベクトルが違う。
前職ぶっちゃけ回顧録
「35.回収」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
22.合宿
23.終戦
24.相談
25.寡黙なる広島人（島根出身）
26.ネット・ゲーマー
27.少年
28.強奪
29.放置
30.曲がり角
31.隠れファン
32.フリフリピンク
33.汚物
34.外鍵のない部屋
俺達の会話がFの破廉恥話で持ちきりだった頃、業務の方も、ある機種の出荷にむけて佳境を迎えつつあった。そこで、また逼迫した日程で仕上げまで持って行くために、「合宿」が執り行われることになった。しかしボスは俺については合宿を免除すると言った。まだ長女が4ヶ月ほどと手がかかる頃で、今のように実家が近いわけでもなかったからだ。
何度も言っているように、ボスは人々に「仕事にモーレツ」という印象を強く与えていた。しかし、それは表面上の印象にすぎない。一緒に仕事した俺には、とても細かなことまで気を回せる人という印象の方が強い。確かに他人にも、それ以上に自分に対しても高いハードルは設定したけどね。
ま、その点で、Fとボスはまったく逆だった。人が良さそうにいつもニコニコしているという印象だったFが、実は口先だけでろくに仕事もせず、会社で破廉恥なことをするダメオヤジだったのだから。
おっと、Fは置いておくんだった。
とにかく、出荷が近づいてきたということは、放置扱いとなっていた研修生Jを「回収」するべき時期がやってきたというわけだ。
Jはボスと口を利かなくなってからは、自分のオリジナルなやり方で「仕事」をしていた。放置と言っても、ちゃんとボスは全てを監視し把握していた。
その中でだったか、もっと早い時期だったか記憶は定かでないが、驚いたことがあった。Jの残した測定結果は、一見スペックに入っているように見えた。だが、よく見るとグラフのスケールが、Jによって勝手に1桁改竄されていたのだ。見栄えだけスペックインさせるという、エンジニアリングとは遠く離れた所業である。
締め切りの1週間ほど前だっただろうか。またぞろドタバタと、仕事している風なアクションのJに、ボスがおもむろに話しかけた。
「J、最近報告がめっきりないけど、締め切りまであともう少しだ。だいぶ進んでるんだよね？」
久々に話しかけられてJはかなり狼狽している。
「進捗表見せてみな。」
ボスも白々しい。進捗表なんて、毎日のように覗いてJのこともばっちり把握していたくせに。
「なんだよオイ、これ全然進んでないじゃん！どうなってんだ、これは。」
ボスの演技に、早速Jはふくれっ面になる。
「で？できた分のデータはどうなってんだ？」
またまた白々しい。データも逐一見て、ろくにできていないことなんて最初から分かってるくせに。
「ちょ、なんだこれは。全然スペックオーバーじゃん。なんでこれでオッケーになってんだよ？」
Jはお得意の言い訳を始める。
「あー、私は手順通りやりました。それはそれ以上良くなりませんでした。」
そんな言い訳は完全に想定内だ。
「じゃあ、その手順ってどんなだ。言ってみろ」
あくまで理詰めでボスは攻める。
「...ん？違う。それじゃセンターとったことにならない。...それも違う。後の工程、全部ムダってことだな。どうすんだ？2ヶ月かけて、できたのゼロだぞ。お前のせいで製品出荷できないぞ。何千万円って損が会社に発生すんだぞ？」
手順のダメだしが終わったところで、改めてJ自身に課された責任を確認する。
これ、だいぶ端折って書いてるんだけどね。ボスはJが言いたい言い訳は全部言わせている。だが、それを一つ一つ丁寧に潰されるのでどんどん逃げ場がなくなる。子どもにこれやっちゃいけないが、Jは社会人だからね。
と、思ったらJがポロポロ泣き始めた。そして絶叫する。
「ワタシはダメです！何も出来ないバカです！」
あー、あらららら。
「ダメとかそういう問題ぢゃねーんだよ。今お前が抱えてる仕事はどうやったら終わるのかって聞いてんだよ」
「ワカリマセン！私はバカです！」
「あのなー、この期に及んで。いいか。お前はまだ一人じゃろくに成果を挙げられないことは分かったろ。反抗なんてのは、一人前がやることなんだよ。で、何のために俺達がチームになってると思ってんだ。誰かが遅れたら一緒に補って助けるんだよ。だから、お前みたいに『気に入らなかったらシカト』なんてやったらダメなんだ」
そんなわけで、しばしチーム全員でJの尻拭い業務に取り掛かることになった。
「いいか、お前は10何種類の試料のうち、これとこれの2つはちゃんと自分で全部やってみろ。分かんないことあったら聞くんだぞ。残りは俺がやる。お前らは、俺とJが終わったら確認作業だからな」
ボスがテキパキと指示を飛ばす。
「...一応確認しとくけど、J。○○の手順までは全部の試料に対して終わったんだな？」
「はい、やりました。」
「本当か？言うなら今しかないからな。もう今さら、なんでやんなかった？なんて怒んねーから」
「○○は全部やりました」
「分かった。じゃあ始めよう」
作業が始まった。みんな黙々と作業に励んでいた。しかし、Jだけは進みがイマイチだ。何かが引っかかった様子だ。
すると、それから10分程度だったろうか。
「Sサーン」
Jが小さな声で、Sを呼び止めた。
そして、何やらヒソヒソと耳打ちしている。
「えっ...。...あっ、ちょっ、ちょっと皆さんストップー！」
Sが部屋のメンバーに呼びかけた。
「Jが、やっぱり○○の手順はやってないって言ってます」
横でJが崩れ落ちて「ヒィーーン」と号泣しはじめた。
ボスは「やっぱりな」という顔をしながら、また半ば演技で少し厳しめの口調になって言った。
「なんで、さっき全部言わなかった？言うチャンスはいくらでもあったよな？すぐバレる嘘だってことも分かってるよな？この10分の全員分の人件費がムダになるんだぞ？」
「ヒィーーーン」Jは崩れ落ちたまま顔を覆って号泣し続けている。
だがもう、これ以上説教には時間をかけなかった。
「じゃあ予定変更だ。Sは、やってなかった○○の手順をやれ。はい、再開！」
俺たちはボスの指示を受けて作業を再開した。
Jはと言うと、誰も慰めてくれないことを悟ってか立ち上がったが、依然グスングスンという感じでベソをかいて立ち尽くしていた。
そしてまた「ワタシはダメです！」とブツブツ言い始めた。生産性ゼロの行動である。
俺はブライト艦長の「弾幕薄いよなにやってんの」を思い浮かべながらJに発破をかけた。
「ほらっ、泣いてたら一枚も終わんねーぞ！なんでみんなが一生懸命やってると思ってんの」
Jは弾かれたように顔を上げて持ち場に戻ると、これまで以上にオーバーな動きで作業を始めた。
全員で全力で取り組んだ結果、8〜9割終わっていなかったJの持ち分は数時間で終了した。
全て終了したところでボスはおもむろに、Jに言った。
「なあ、みんなにありがとうって言わなきゃな」
「Iさん（ボス）ありがとございました」
「俺にぢゃねーよ。○○さん（俺）、スギさん、Sさん、ヅメさん、みんながお前のために自分のタスクを止めて動いてくれたんだぞ。会社ってのはそうやって回ってんだよ」
「みなさん、ありがとございました」
「ン。だから、ワガママ言ったら仕事できねんだよ。特にお前はまだ何も知らねえんだから。自分でいろいろ吸収して理解してから、自分の主張をすべきなんだ。実績のない奴が何か言っても誰も聞いてくれないぞ」
「ハイわかりました」
「今回は失敗したけど、それでも2つは自分でできたよな。やり方、ちゃんと理解できたろ。向こう戻っても1人でできるよう、ちゃんと復習しておくんだぞ」
「ハイわかりました」
Jはやけに従順になっていたが、返事が画一的なので気になった。
果たして翌日以降、Jは一応復習している風だったが、どうもやっている内容は号泣してやり直すより前の、自分で勝手にやっていた内容のようだった。あの号泣はなんだったんだ。その、指差し確認してブツブツやっているサマはまるで電車ごっこしている幼児のようで、ゲンナリさせられた。
そして、Jの持ち分のためにタスクを割かれた俺達は遅れた分を取り戻すべく、当然定時後も密度濃く作業をしていた。気づくと、Jは忽然と帰宅していた。
俺だかSだかからその報告を聞いたボスはしばし絶句し、悟ったように呟いた。
「ここまでやって何も響かないならもうダメだな」。
つづく。
家の近くの営業所に転勤できたのはいいのだが、営業所ならではの古い体質だったり、周囲の人に恵まれなかったりで、結構参っているようだ。せっかく子どもとの時間が増えても、本人が苦しんでは本末転倒だ。
門外漢である俺が提供できる解決案にも限界がある。なんとも歯がゆいことだ。どうも嫁さんのそういう状態は子どもにも敏感に伝わるらしい。次女が夜中に起きたり、泣いてしまったりしている。少しずつでも改善していけば良いのだが。
Temple Bell
(PentaxK-7, PentaxFA31mmLimitedF1.8, 1/100sec, F2.5, ISO100)
めちゃくちゃ間空いたから（9ヶ月か！）筆を置いたと思ってたでしょ？ぶっちゃけ回顧録。
ところがね、諦めてないんだな、これが。さすがに4年くらい前のことで記憶が曖昧になりかけてるところもあるけどね。っていうか、どういう話でシメるのか迷ってんだよ (^_^;。
前回で「Obutsu」Fの実態を暴露したところで（ある意味一番衝撃的な話だったので、それで間が空いた側面はある）、Fは一旦置いといて、今度は例の「かの国」からの研修生Jの話をしよう。こないだ、現職の問題児をJとしてしまったので被っているが、赤の他人なので悪しからず。ダメさは似てるが、若干ベクトルが違う。
前職ぶっちゃけ回顧録
「35.回収」
*** Back Number ***
1.野放し
2.OFコンビ（ボンクラ親父達）
3.堕落人
4.砂上の楼閣1
5.砂上の楼閣2
6.火の玉、堕ちた
7.さよなら、ブーちゃん
8.新たなるチャレンジ
9.斜陽
10.ハイテンション・プログラマー
11.ドロンパ、郷里に帰る
12.盟友たち
13.大移動
14.編入
15.最短記録
16.再加入
17.ゆとり世代
18.ゆとり世代2
19.宿命の対決再び
20.追放
21.戦場
22.合宿
23.終戦
24.相談
25.寡黙なる広島人（島根出身）
26.ネット・ゲーマー
27.少年
28.強奪
29.放置
30.曲がり角
31.隠れファン
32.フリフリピンク
33.汚物
34.外鍵のない部屋
俺達の会話がFの破廉恥話で持ちきりだった頃、業務の方も、ある機種の出荷にむけて佳境を迎えつつあった。そこで、また逼迫した日程で仕上げまで持って行くために、「合宿」が執り行われることになった。しかしボスは俺については合宿を免除すると言った。まだ長女が4ヶ月ほどと手がかかる頃で、今のように実家が近いわけでもなかったからだ。
何度も言っているように、ボスは人々に「仕事にモーレツ」という印象を強く与えていた。しかし、それは表面上の印象にすぎない。一緒に仕事した俺には、とても細かなことまで気を回せる人という印象の方が強い。確かに他人にも、それ以上に自分に対しても高いハードルは設定したけどね。
ま、その点で、Fとボスはまったく逆だった。人が良さそうにいつもニコニコしているという印象だったFが、実は口先だけでろくに仕事もせず、会社で破廉恥なことをするダメオヤジだったのだから。
おっと、Fは置いておくんだった。
とにかく、出荷が近づいてきたということは、放置扱いとなっていた研修生Jを「回収」するべき時期がやってきたというわけだ。
Jはボスと口を利かなくなってからは、自分のオリジナルなやり方で「仕事」をしていた。放置と言っても、ちゃんとボスは全てを監視し把握していた。
その中でだったか、もっと早い時期だったか記憶は定かでないが、驚いたことがあった。Jの残した測定結果は、一見スペックに入っているように見えた。だが、よく見るとグラフのスケールが、Jによって勝手に1桁改竄されていたのだ。見栄えだけスペックインさせるという、エンジニアリングとは遠く離れた所業である。
締め切りの1週間ほど前だっただろうか。またぞろドタバタと、仕事している風なアクションのJに、ボスがおもむろに話しかけた。
「J、最近報告がめっきりないけど、締め切りまであともう少しだ。だいぶ進んでるんだよね？」
久々に話しかけられてJはかなり狼狽している。
「進捗表見せてみな。」
ボスも白々しい。進捗表なんて、毎日のように覗いてJのこともばっちり把握していたくせに。
「なんだよオイ、これ全然進んでないじゃん！どうなってんだ、これは。」
ボスの演技に、早速Jはふくれっ面になる。
「で？できた分のデータはどうなってんだ？」
またまた白々しい。データも逐一見て、ろくにできていないことなんて最初から分かってるくせに。
「ちょ、なんだこれは。全然スペックオーバーじゃん。なんでこれでオッケーになってんだよ？」
Jはお得意の言い訳を始める。
「あー、私は手順通りやりました。それはそれ以上良くなりませんでした。」
そんな言い訳は完全に想定内だ。
「じゃあ、その手順ってどんなだ。言ってみろ」
あくまで理詰めでボスは攻める。
「...ん？違う。それじゃセンターとったことにならない。...それも違う。後の工程、全部ムダってことだな。どうすんだ？2ヶ月かけて、できたのゼロだぞ。お前のせいで製品出荷できないぞ。何千万円って損が会社に発生すんだぞ？」
手順のダメだしが終わったところで、改めてJ自身に課された責任を確認する。
これ、だいぶ端折って書いてるんだけどね。ボスはJが言いたい言い訳は全部言わせている。だが、それを一つ一つ丁寧に潰されるのでどんどん逃げ場がなくなる。子どもにこれやっちゃいけないが、Jは社会人だからね。
と、思ったらJがポロポロ泣き始めた。そして絶叫する。
「ワタシはダメです！何も出来ないバカです！」
あー、あらららら。
「ダメとかそういう問題ぢゃねーんだよ。今お前が抱えてる仕事はどうやったら終わるのかって聞いてんだよ」
「ワカリマセン！私はバカです！」
「あのなー、この期に及んで。いいか。お前はまだ一人じゃろくに成果を挙げられないことは分かったろ。反抗なんてのは、一人前がやることなんだよ。で、何のために俺達がチームになってると思ってんだ。誰かが遅れたら一緒に補って助けるんだよ。だから、お前みたいに『気に入らなかったらシカト』なんてやったらダメなんだ」
そんなわけで、しばしチーム全員でJの尻拭い業務に取り掛かることになった。
「いいか、お前は10何種類の試料のうち、これとこれの2つはちゃんと自分で全部やってみろ。分かんないことあったら聞くんだぞ。残りは俺がやる。お前らは、俺とJが終わったら確認作業だからな」
ボスがテキパキと指示を飛ばす。
「...一応確認しとくけど、J。○○の手順までは全部の試料に対して終わったんだな？」
「はい、やりました。」
「本当か？言うなら今しかないからな。もう今さら、なんでやんなかった？なんて怒んねーから」
「○○は全部やりました」
「分かった。じゃあ始めよう」
作業が始まった。みんな黙々と作業に励んでいた。しかし、Jだけは進みがイマイチだ。何かが引っかかった様子だ。
すると、それから10分程度だったろうか。
「Sサーン」
Jが小さな声で、Sを呼び止めた。
そして、何やらヒソヒソと耳打ちしている。
「えっ...。...あっ、ちょっ、ちょっと皆さんストップー！」
Sが部屋のメンバーに呼びかけた。
「Jが、やっぱり○○の手順はやってないって言ってます」
横でJが崩れ落ちて「ヒィーーン」と号泣しはじめた。
ボスは「やっぱりな」という顔をしながら、また半ば演技で少し厳しめの口調になって言った。
「なんで、さっき全部言わなかった？言うチャンスはいくらでもあったよな？すぐバレる嘘だってことも分かってるよな？この10分の全員分の人件費がムダになるんだぞ？」
「ヒィーーーン」Jは崩れ落ちたまま顔を覆って号泣し続けている。
だがもう、これ以上説教には時間をかけなかった。
「じゃあ予定変更だ。Sは、やってなかった○○の手順をやれ。はい、再開！」
俺たちはボスの指示を受けて作業を再開した。
Jはと言うと、誰も慰めてくれないことを悟ってか立ち上がったが、依然グスングスンという感じでベソをかいて立ち尽くしていた。
そしてまた「ワタシはダメです！」とブツブツ言い始めた。生産性ゼロの行動である。
俺はブライト艦長の「弾幕薄いよなにやってんの」を思い浮かべながらJに発破をかけた。
「ほらっ、泣いてたら一枚も終わんねーぞ！なんでみんなが一生懸命やってると思ってんの」
Jは弾かれたように顔を上げて持ち場に戻ると、これまで以上にオーバーな動きで作業を始めた。
全員で全力で取り組んだ結果、8〜9割終わっていなかったJの持ち分は数時間で終了した。
全て終了したところでボスはおもむろに、Jに言った。
「なあ、みんなにありがとうって言わなきゃな」
「Iさん（ボス）ありがとございました」
「俺にぢゃねーよ。○○さん（俺）、スギさん、Sさん、ヅメさん、みんながお前のために自分のタスクを止めて動いてくれたんだぞ。会社ってのはそうやって回ってんだよ」
「みなさん、ありがとございました」
「ン。だから、ワガママ言ったら仕事できねんだよ。特にお前はまだ何も知らねえんだから。自分でいろいろ吸収して理解してから、自分の主張をすべきなんだ。実績のない奴が何か言っても誰も聞いてくれないぞ」
「ハイわかりました」
「今回は失敗したけど、それでも2つは自分でできたよな。やり方、ちゃんと理解できたろ。向こう戻っても1人でできるよう、ちゃんと復習しておくんだぞ」
「ハイわかりました」
Jはやけに従順になっていたが、返事が画一的なので気になった。
果たして翌日以降、Jは一応復習している風だったが、どうもやっている内容は号泣してやり直すより前の、自分で勝手にやっていた内容のようだった。あの号泣はなんだったんだ。その、指差し確認してブツブツやっているサマはまるで電車ごっこしている幼児のようで、ゲンナリさせられた。
そして、Jの持ち分のためにタスクを割かれた俺達は遅れた分を取り戻すべく、当然定時後も密度濃く作業をしていた。気づくと、Jは忽然と帰宅していた。
俺だかSだかからその報告を聞いたボスはしばし絶句し、悟ったように呟いた。
「ここまでやって何も響かないならもうダメだな」。
つづく。
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